ポイント
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テラヘルツ帯の周波数(0.6 THz)で高強度電波を連続的に発生させることが可能な装置を開発
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テラヘルツ波を安心安全に利用するための実験的研究が世界で初めて可能に
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テラヘルツ波を利用した次世代の高速・大容量無線通信技術の円滑な導入に寄与
背景
電波の中で最も高い周波数帯(0.1 THz以上)の電波は、「テラヘルツ波」と呼ばれ、電波としての特性だけでなく、光の特性を併せ持つことが知られています。このテラヘルツ波を利用して、次世代の高速・大容量無線通信技術などの開発が進んでいます。また、空港などでのセキュリティ検査においてもテラヘルツ波の利用が検討されています。これらの新しい技術を暮らしの中で安心安全に利用するためには、テラヘルツ波が人体に影響を及ぼす可能性を明らかにする研究が必要です。特に、高強度のテラヘルツ波が皮膚や眼に当たり続けた場合に生じる温度の上昇や、それによる障害の可能性について詳細な調査が必要不可欠です。しかし、このような研究に必要なテラヘルツ帯周波数(0.6 THz)の電波について、発生自体が難しく、照射部位の体温を上昇させるために必要な、数分間以上にわたり高強度で連続的に発生させる装置は存在していませんでした。
今回の成果
本研究では、核融合実験施設等において高強度電波発生装置として利用されるジャイロトロンについて、テラヘルツ帯周波数(0.6 THz)で高強度の電波を発生させることが可能な条件を明らかにし、設計を行い、新たなジャイロトロンを開発しました。このジャイロトロンを用いることで高強度テラヘルツ波を連続的に発生させることが可能となり、世界で初めてテラヘルツ波の安全性に関する実験を高い信頼性で実施できるようになりました。 今回、開発したジャイロトロン(図1参照)を用いることで、0.6 THzの電波を高強度(半導体素子を用いた市販装置の1,000倍以上)で、連続的に発生できることを確認し、中心部で強度が高い円形のテラヘルツ波を観測しました(左図の赤色部分)。また、医学・生物実験に必要な高強度レベルで一定かつ連続的に10分間以上照射することができ、テラヘルツ波照射による体温上昇や障害発生の強さを正確に調べることができるようになりました。
今後の展望
今回開発したジャイロトロン装置と、温度計測技術を組み合わせることで、テラヘルツ帯周波数(0.6 THz)の高強度電波により皮膚や眼を模擬した試料の温度が上昇する様子や、局所的な温度上昇とテラヘルツ波の強度との関係を実験的に高精度に評価できるようになります。これらの実験により蓄積した評価結果は、電波の安全性に関する国際的なガイドラインの改定や、テラヘルツ波を利用した次世代の高速・大容量無線通信技術の円滑な導入に寄与すると期待されます。
各機関の役割分担
- 福井大学: ジャイロトロンのコンポーネント設計、発振、制御
- 情報通信研究機構: 実験計画立案、電力制御装置の開発・評価
論文情報
なお、本研究の一部は、総務省委託研究「Beyond 5G/6G 等の多様化する新たな無線システムに対応した電波ばく露評価技術に関する研究」(JPMI10001)として実施されました。
ジャイロトロンの開発においては、キヤノン電子管デバイス株式会社が構造設計・製作を行いました。