木星氷衛星探査機JUICEを搭載したロケットが打上げに成功!
テラヘルツで生命居住可能性を探る

2023年4月17日

国立研究開発法人情報通信研究機構

ポイント

  • NICTほか国際協力チームで開発したテラヘルツ波分光計(SWI)を搭載し、氷衛星の生命の存在可能性を探査
  • NICTはSWIの主鏡・副鏡・アクチュエータを担当し、データ解析アルゴリズム開発にも貢献
  • 今後の木星圏科学や地球外の生命探査への大きな貢献に期待
2023年4月14日(金)、欧州宇宙機関(ESA)の大型ミッションである木星氷衛星探査機JUICE(JUpiter ICy moons Explorer)の打上げに成功しました。11のサイエンス機器のうちの一つ「テラヘルツ波分光計(SWI)」は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICTエヌアイシーティー、理事長: 徳田 英幸)を含む国際チームの協力で開発したもので、NICTは主鏡・副鏡・アクチュエータを担当したほか、観測データから生命の存在可能性の鍵となる情報を抽出するための独自のアルゴリズムを研究しています。
JUICEは2031年に木星圏に到達予定であり、SWIにより、ガニメデなど氷衛星の非常に希薄な大気や表面及び表面下の調査や、エウロパ氷衛星の地下海から噴出するプリュームに含まれる組成の観測を実施し、氷衛星の生命の存在可能性の探査に貢献することが期待されます。

背景

図1 打上げ時の様子

JUICEは、木星の水の豊富な氷衛星であるガニメデ、エウロパ、カリストや、木星大気及び磁気圏を探査するESAのミッションです。主な探査対象はガニメデであり、JUICEに搭載されている11のサイエンス機器のうちの一つであるSWIは、ガニメデ、エウロパ、カリストの居住可能性を調査するためのデータを提供します。

今回の成果

図2 SWIアンテナ部及び受信機部
NICTは主鏡・副鏡・アクチュエータを担当
https://www.mps.mpg.de/planetary-science/juice-swi
© MPS
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JUICEを載せたアリアン5ロケットがクールー宇宙基地(フランス領ギアナ)からの打上げに成功しました。今後、地球や金星でのフライバイを経て2031年に木星圏へ到達予定です。JUICEには11のサイエンス機器が搭載されており、そのうちの一つであるSWIはNICTを含む国際協力チームで開発されました。NICTは、SWIの開発において、主鏡・副鏡・アクチュエータを担当しました。また、NICT独自の電磁波伝搬アルゴリズムを開発し、データ解析アルゴリズム開発に貢献しています。
SWIは、木星の氷衛星であるガニメデの非常に希薄な大気や表面及び表面下の調査や、エウロパの地下海から噴出するプリュームに含まれる組成の観測を実施し、氷衛星の生命の存在可能性の探査に貢献することが期待されます。

今後の展望

テラヘルツ波による惑星資源探査ビジネスといった新たな産業を切り拓くため、NICTが取り組んできたテラヘルツ波受信機の小型軽量化技術を「テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査」に応用するとともに、世界初の散乱を考慮した3次元テラヘルツ波電磁波伝搬モデルの開発を進めていきます。

国際協力チームの役割分担

・ ESA: JUICEの主導
・ マックスプランク太陽系研究所(MPS)(ドイツ): SWIの開発の統括
・ NICT: SWI開発における主鏡・副鏡・アクチュエータの担当、データ解析アルゴリズムの開発

用語解説

木星氷衛星探査機JUICE(JUpiter ICy moons Explorer)

ESAの大型惑星探査プログラムとして2012年5月に選定されたJUICEは、巨大ガス惑星の代表格である木星とその氷衛星から成る系の複雑な相互作用について明らかにし、巨大ガス惑星圏における生命存在可能領域(ハビタブルゾーン)について理解することを目的としている。

図3 JUICEによる探査イメージ
https://sci.esa.int/web/juice/-/59935-juice-ground-control-gets-green-light-to-start-development-of-jupiter-operations
© Spacecraft: ESA/ATG medialab; Jupiter: NASA/ESA/J. Nichols (University of Leicester); Ganymede: NASA/JPL; Io: NASA/JPL/University of Arizona; Callisto and Europa: NASA/JPL/DLR

JUICE搭載のサイエンス機器は、以下の11である。
・JANUS(Jovis, Amorum ac Natorum Undique Scrutator)可視分光撮像カメラ
・MAJIS(Moons And Jupiter Imaging Spectrometer)可視・近赤外撮像分光計
・UVS(UV Imaging Spectrograph)紫外撮像分光計
・SWI(Submillimetre Wave Instrument)サブミリ波・テラヘルツ分光計
・GALA(GAnymede Laser Altimeter)レーザ高度計
・RIME(Radar for Icy Moons Exploration)レーダーサウンダ
・J-MAG(Magnetometer for JUICE)磁力計
・PEP(Particle Environment Package)プラズマ環境観測パッケージ
・RPWI(Radio and Plasma Wave Investigations)電波・プラズマ波動観測器
・3GM(Gravity and Geophysics of Jupiter and Galilean Moons)重力観測器
・PRIDE(Planetary Radio Interferometer and Doppler Experiment) 惑星間電波干渉・ドップラー実験

図4 JUICEに搭載されているサイエンス機器の配置
https://sci.esa.int/web/juice/-/50073-science-payload
© ESA/ATG medialab
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JUICEはおよそ8年のクルーズの後、木星圏に到着し、木星と太陽系最大の衛星ガニメデの周回探査に加え、エウロパ、カリストのフライバイ探査を行う予定である。

[参考情報] https://sci.esa.int/web/juice/-/50074-scenario-operations
テラヘルツ波分光計(SWI: Submillimetre Wave Instrument)
SWIはJUICEに搭載されている11の機器のうちの一つであり、ドイツ、日本、フランス、スウェーデン、スイスなどによる国際共同プロジェクトである。代表(Principal Investigator)は、ドイツのマックスプランク太陽系研究所(MPS)のポール・ハルタウ博士であり、日本チームのリーダはNICTの笠井康子博士である。SWI開発における日本の担当部分は、主鏡・副鏡・駆動部のアクチュエータである。
惑星観測のためには、アンテナの指向性向上やサイドローブ抑制などが重要になり、アンテナ鏡面に関して、日本はSMILES(超伝導サブミリ波リム放射サウンダ https://smiles.nict.go.jp/)の開発経験から高い技術的成熟度を持つ。観測対象のテラヘルツ波強度を正確に知るにはアンテナ鏡面の損失などの較正データが重要であるが、日本チームは鏡面のオーミック損失を評価する特許技術などを有する。日本分担分の開発においては、SMILES のヘリテージを最大限に活かすため、SMILES のアンテナ開発の実績があるメーカと協力体制を構築し、主鏡、副鏡の機械設計・製作、及び機械測定(鏡面精度・粗度測定、周期的歪みの測定)等を実施した。
SWI のアンテナは、開口直径 30 cm のオフセット・カセグレン鏡である。通常、深宇宙探査のペイロードでは可動部をなるべく少なくするように設計するが、SWIの場合、巨大ガス惑星木星の鉛直構造を測定するほか、氷衛星ではLimb(大気の観測)とNadir(表面の観測)の両者を観測する上、信号較正のために深宇宙を指向する必要が生じる。そのため、駆動範囲が非常に広く大きくなり。アンテナ系は直交した 2軸方向に走査を行うための駆動機構を備え、その角度はJUICE の軌道面内方向には±76°、それに直交する方向にも±4.3°の視野範囲を移動する。
受信機のフロントエンドは 600 GHz と1,200 GHz 帯の2 系統のショットキー・バリア・ダイオード・ミキサを搭載し、観測信号と局部発振器信号とのヘテロダイン検波により、テラヘルツ波帯の観測信号をマイクロ帯の信号にダウンコンバートする。マイクロ波信号は最終的に高分解能分光計(CTS)と広帯域分光計(ACS)に入力し、周波数軸の分光スペクトルが得られる。

表1 SWI の特性
 観測性能
 
観測周波数  600 GHz帯 (~530 – 600 GHz),
1.2 THz帯 (~1.075 – 1.275 THz)
システム雑音温度 (Tsys) 1,500 K (DSB. 600 GHz帯). 3,000 K (DSB. 1.2 THz帯)
空間分解能 (水平分解能) 1,000 – 2,000 km @ 15 Rj, (0.85 – 1.0 km @ 500 km)
 アンテナ系 主鏡のサイズ 直径 30 cm
ビーム幅 約 0.11°@600 GHz, 約0.057°@1.2 THz
表面精度 < 6 µm r.m.s
駆動範囲 軌道面内方向 (along-track): -65°– +65°,
軌道面内に直行する方向 (cross-track): -4°– +4°
 受信機 ディテクタの形式 ショットキー・バリア・ダイオード
積分時間 1 – 300 秒 (TBD)
 分光計 形式 広帯域分光計 (ACS), 高分解能分光計(CTS)
観測帯域 ACS: 5 GHz, CTS: 1 THz
周波数分解能 ACS: 19.5 – 4.9 MHz (256 – 1,024 ch),
CTS: 0.1 MHz (10,000 ch)
 
[参考情報] 笠井康子ほか, “木星圏探査サブミリ波分光計 JUICE/SWIの挑戦”, 日本赤外線学会誌, 第29巻, 第1号, 2019.
図5 SWIアンテナ部及び受信機部 (再掲)
NICTは主鏡・副鏡・アクチュエータを担当
https://www.mps.mpg.de/planetary-science/juice-swi
© MPS

エウロパ氷衛星の地下海から噴出するプリューム

ガリレオ衛星(ガリレオ・ガリレイによって発見された木星の衛星で、近い順番にイオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)の一つであるエウロパは、水の氷から成る地殻を持ち、内部では木星との潮汐力を受け加熱され、地下に液体の海が存在していると考えられている。また、地下海の一部が氷の地殻から宇宙空間に噴出するプリュームも発見されている。
地球上の生命は、(a)液体の水、(b)生命必須元素、(c)自由エネルギーの3つを必要とする。生命自体を探すことの困難さを考えれば、上記の3つが満たされる環境を宇宙において探すことが、地球外生命発見のための第一歩となる。エウロパは、Galileo探査機などにより、液体の水が内部に存在することはほぼ間違いなく、(a)の条件を満たす。SWIを用いた氷衛星大気中の分子測定により、(b)生命必須元素の検出及び定量と、(c)のために酸化還元反応環境の理解に挑戦する。

[参考情報] 笠井康子ほか, “みんなでふたたび木星へ,そして氷衛星へ その2 〜サブミリ波分光計JUICE-SWIの挑戦〜”, 日本惑星科学会誌遊星人, Vol.23, No.2, 2014.

図6 エウロパの表面及び地下の構造とプリュームが噴出するイメージ図
https://juice.stp.isas.jaxa.jp/science/
© NASA/JPL
フライバイ
探査機が惑星あるいは惑星の衛星の近くを通過すること。

[参考情報] JUICEの渡航計画の詳細
テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査
国際的に進められている月の開発利用に関し、我が国がICT分野において戦略的かつ優位に推進していくために、総務省は「テラヘルツ波を用いた月面の広域な水エネルギー資源探査基本計画書」を定めている。この計画を推進するためにNICT、東京大学、大阪府立大学、JAXA、SpaceBD株式会社を中心として構成される研究チームが、開発を受託することとなった(2023年4月現在)。
研究チームはこの計画をTSUKIMI計画(Lunar Terahertz Surveyor for Kilometer-Scale Mapping)と名付け、テラヘルツ波センサによる広域月面探査を実施し、観測した輝度温度から氷・土壌水分含有量の推定を目指している。同チームは岩石のテラヘルツ帯での挙動に関するデータベースを構築するとともに、データ解析アルゴリズムの研究開発を行い、耐宇宙環境を備えた多周波数チャンネルのテラヘルツ波センサを開発する。
また、最適な資源探査実施のために軌道上において衛星とセンサを統一的に制御する衛星デジタル処理技術を開発し、これらの技術を統合することで、宇宙での運用が可能なシステムを開発し、月面の水資源探査が実現可能であることを検証するための研究開発を実施する。
[参考情報] TSUKIMI Webページ https://www.tsukimi.one/
図7 TSUKIMIイメージ図

散乱を考慮した3次元テラヘルツ波電磁波伝搬モデル

NICTが現在開発しているモデル。TSUKIMIで観測する物理量と観測条件(偏波、周波数、入射角情報等)から月表面及び表面下の環境情報を推定するためのモデルである。

本件に関する問合せ先

Beyond5G研究開発推進ユニット
テラヘルツ研究センター

笠井 康子


Beyond5G研究開発推進ユニット
テラヘルツ研究センター
テラヘルツ連携研究室

山田 崇貴

広報(取材受付)

広報部 報道室