ローカル5G通信エリアを拡大する電波散乱シートの基礎実験に成功

ミリ波帯5G基地局環境での基本性能を実証
2024年10月3日

国立大学法人電気通信大学
国立研究開発法人情報通信研究機構

国立大学法人電気通信大学(以下、電気通信大学)大学院情報理工学研究科の村上靖宜助教及び国立研究開発法人情報通信研究機構(以下、NICT)は、共同開発しているメタマテリアル電波散乱シートのミリ波帯5G通信の基礎実験を、東日本電信電話株式会社(以下、NTT東日本)の運営するローカル5Gオープンラボの実証環境にて実施しました。その結果、電波障害物の陰になり基地局からの電波を直接受信できない環境下で、メタマテリアル電波散乱シートで散乱した電波による5Gデータ通信が可能であり、さらに、十分な受信信号強度が得られなくてもスループットが通常の金属反射板を用いた場合よりも改善できることを示し、電波散乱シートの有効性の実証に成功しました。

背景

ローカル5Gは、第5世代移動通信システム(5G)の高い通信性能、ライセンスバンドの通信安定性と高いセキュリティを用いて自分たちが実現したい通信システムを構築することができるという特長により、製造分野、物流分野、医療分野、公共分野、オフィス分野等のさまざまな分野で注目されてきており、特に、より広い帯域幅が確保できるミリ波帯を用いたローカル5G(以下、ミリ波帯ローカル5G)の進展が期待されています。一方、高い周波数帯の電波は直進性が強くなり、電波障害物の後ろへ回り込む回折現象が起こりづらくなるため、工場や物流倉庫等のローカル5Gの活用が期待される現場では、さまざまな大型設備の影響により、電波が届かないエリア(電波不感エリア)が発生することが想定されています。

手法

この課題を解決し、ミリ波帯ローカル5Gの利活用を促進するため、電気通信大学及びNICTはメタマテリアル電波散乱シート(※1)(※2) の共同研究開発を行っています。メタマテリアル電波散乱シートは複数の方向から到達した電波を広角に散乱させるシートであり、室内の天井や壁の一部に貼り付けるだけで、基地局・中継局等の無線機器を増設することなく、ミリ波帯ローカル5Gの電波不感エリアを解消できることが期待されます。電波を特定の方向にのみ反射・集中させる通常の金属反射板や既存のリフレクトアレー等と異なり、電波不感エリアにある複数の端末や移動する端末に広範囲に電波を拡散して到達させることで、通信品質を改善することができます。さらに、特定のエリアに電波をピンポイントで反射・集中させて通信を確保するものではないため、シートの設置位置の微調整も不要であり、様々な場所の無線通信環境に対応させることが可能です。

成果

電気通信大学及びNICTは、メタマテリアル電波散乱シートの有効性を実証するため、NTT東日本の運営するローカル5Gオープンラボ(※3)において基礎通信実験を実施しました。図1に示す無線環境下において、あらかじめ、十分な受信信号強度が得られていないエリアを特定し、そのエリアを測定対象エリアとしました。基地局アンテナが見通せる位置にメタマテリアル電波散乱シートを設置し(図2)、上記測定対象エリアにおいて5G移動端末(図3)を移動させながらデータ伝送速度の測定を行った結果、以下に示すメタマテリアル電波散乱シートの効果が確認できました。
  • メタマテリアル電波散乱シートで散乱した電波による5Gデータ伝送が可能
  • 十分な受信信号強度が得られていなかったエリアのスループットが改善
  • 通常の金属反射板を用いた場合と比べて、より広いエリアでスループットが改善

実験に用いたメタマテリアル電波散乱シート試作品を、2024年10月15日~18日、幕張メッセ(千葉県千葉市)にて開催されるCEATEC2024のNICTのブースにて展示します。

図1 NTT東日本と国立大学法人東京大学が共同で設立したローカル5Gオープンラボ検証施設
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図2 メタマテリアル電波散乱シートの設置状況
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図3 ミリ波帯5G移動端末
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各機関の役割分担

  • 電気通信大学:電波散乱シートの設計、薄型化、実証実験
  • NICT(電磁波研究所 電磁波標準研究センター 電磁環境研究室):電波散乱シートの試作・測定、材料定数測定、実証実験

今後の展望

今後、メタマテリアル電波散乱シートを用いて、電波不感エリアをなくすことができ、ミリ波帯ローカル5Gの利活用を促進することが期待されます。メタマテリアル電波散乱シートを、より軽量で安価に製造する方法を確立すること、また、電波伝搬を制御する技術の確立、制御された電波の空間分布を精密計測する技術を確立することによって、ミリ波帯ローカル5Gを利用した高速・大容量無線通信の発展に寄与できます。

論文情報

論文雑誌名:IEEE Access
タイトル :Optimization and Performance of Metamaterial- Based Electromagnetic Scattering Sheet for Coverage Improvement in 28 GHz Band
著者   :Yasutaka Murakami, Jerdvisanop Chakarothai, Lira Hamada, and Katsumi Fujii

特許情報

特許第7418883号 保護層付き電波散乱シート
特願2024-163886 無線通信システム

外部資金情報

本研究の一部は、日本学術振興会科学研究費補助金(20K14744)の補助により行われました。

用語説明

メタマテリアル電波散乱シート:

メタマテリアル電波散乱シートは、異なる反射特性を示す二つの金属表面を適切に配列させることにより、入射した電波を様々な方向へ反射(散乱)させる特長を有しております(図4)。メタマテリアル技術を用いることにより薄型化および軽量化を実現し、電源を必要としません。図5に示すように、工場の壁面や天井等に貼り付ければ、ただちに使い始めることができます。

図4 メタマテリアル電波散乱シート
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図5 使用イメージ
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NICTの問い合わせ先

ソーシャルイノベーションユニット戦略的プログラムオフィス
地域連携・産学連携推進室
担当者:マネージャー 佐藤 慎一

他組織の問い合わせ先

電気通信大学
情報理工学研究科
担当者:助教 村上 靖宜
Tel: 042-443-5671