国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 徳田 英幸)は、高度通信・放送研究開発委託研究として令和5年度から新たに研究開発を開始する2課題について、学識経験者で構成される評価委員会での評価等を踏まえ、下記のとおり採択しました。
1. 研究開発課題に対する提案課題と提案者
(1) 無線環境管理のための無線環境評価手法の研究開発(課題番号231)(1件を採択)
■提案課題:利用者の無線知識レベルに応じた無線環境モニタリングシステムの研究開発
提案者:サンリツオートメイション株式会社(代表提案者)、株式会社構造計画研究所
概要:製造現場および医療現場における無線トラブル発生時に、非無線専門家であっても迅速な対応が可能になるような具体的な行動をシステムが示唆することで、トラブル発生から復旧までの時間を従来の1/2以下にすることが可能となる無線環境モニタリングシステムの構築を行う。システムの動作としては、自動的なデータ収集および分析を10秒毎に実施することで、異常発生から20秒以内に異常発生を通知し、3分以内に次に起こすべき行動を示唆できる能力を目標とする。本研究成果の社会実装では、スモールスタートが可能な構成とし、順次拡張ができるリーンスタートアップを実現するシステムとする。本研究にあたっては、製造現場に精通したサンリツオートメイションと、無線通信分野の可視化や研究開発向けソフトウェア開発に実績のある構造計画研究所が共同で研究開発を行う。
(2) データ利活用等のデジタル化の推進による社会課題・地域課題解決のための実証型研究開発(第2回)(課題番号233)(6件を採択)
■提案課題:ドローンによるダウンウォッシュを活用したスマートイチゴ栽培管理手法
提案者:国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(代表提案者)、国立大学法人岡山大学、独立行政法人国立高等専門学校機構 阿南工業高等専門学校、徳島県、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社、株式会社NTTドコモ
概要:これまで飛行が難しかった施設内でのドローン飛行を実現可能にし、ドローンを活用してイチゴの生育調査・栽培管理におけるコスト・労力を軽減する新たな手法を構築する。特にドローンのダウンウォッシュを活用することで、従来観測できない群落内の新葉・花蕾といったイチゴの重要な生育指標を計測する手法や、ミツバチ等を利用せず人工的にイチゴの授粉管理を実現する送風受粉手法を開発する。これらの技術を組み合わせたスマートイチゴ栽培管理手法を構築し、2025年度までにイチゴ栽培農家にて実証試験を行い、有効性を検証する。また研究成果の社会実装を実現するため、開発した各種技術の情報公開や製品化を目指す。
■提案課題:ヘルシーエイジング社会のための人-ロボット対話音声・触覚データを用いた認知症早期スクリーニング
提案者:国立大学法人名古屋工業大学(代表提案者)、学校法人藤田学園 藤田医科大学、国立大学法人大阪大学
概要:超々高齢社会ですべての人に豊かで健やかな老いをもたらすためには、認知機能低下を早期に発見し高齢者を速やかに医療機関へ受診勧奨することが重要である。本研究開発では、日常的な対話と接触を伴うインタラクションから認知症の予見と予防に資するデジタルツインを創造する。視覚・聴覚・触覚に働きかける多感覚な感性インタラクションが可能なAI/アバターロボットを開発し、視覚・聴覚・触覚情報がロボットを介してオンラインの相手に伝達されることで、感覚を含んだ空間の共有を通じて感性インタラクションが可能になる。この技術と認知症スクリーニングモデルを融合することで、日常生活の見守りと生活習慣改善を実現する。
■提案課題:大規模災害時の迅速な犠牲者身元確認を可能とするAI・歯科情報利活用システムの開発実装
提案者:国立大学法人徳島大学(代表提案者)、国立大学法人大阪大学、国立大学法人東北大学
概要:大規模災害時における犠牲者の身元確認には、歯の所見が重要な手がかりとなる。発災が危惧されている南海トラフ大地震では、犠牲者が32万人以上出る可能性がある。特に代表責任者の住む徳島や隣県の高知県では合わせて10万人程度の犠牲者がでる可能性があるが、本州からは橋でしかつながっていないこともあり応援人員が極端に不足し、犠牲者の身元確認も深刻な問題となることが予想される。この課題解決のためAIと歯科情報を利活用する研究開発を行うとともに社会実証訓練を行う。
■提案課題:鶏舎環境モニタリングコントロールシステムの実証型研究開発
提案者:国立大学法人岩手大学(代表提案者)、アルプスアルパイン株式会社、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会社、株式会社中嶋製作所、国立大学法人九州大学
概要:岩手県は、養鶏の国内3大産地の一つであり、地域の主力産業として、地域の仕事、暮らしを支え、日本の食糧安全保障の一翼を担っている。一方で、畜産業が抱える課題として、3K産業(きつい、汚い、危険)と認識され、さらには少子高齢化による就労人口減少が持続的な発展を妨げている。本提案では、鶏舎内環境データをもとに、畜産技術と情報通信、数理モデル・AI、プラズマ科学を融合し、生産性の向上、就労環境の改善等を図り、通信条件不利地域でも使用可能な鶏舎環境モニタリングコントロールシステムを開発することで、持続的な畜産業の発展に寄与する。これにより、主力産業の発展による地域Well-beingの向上、SDGs目標8、9、11に貢献する。
■提案課題:AI開発で生み出す次世代型復興モデルの構築を行う研究開発~高松市をモデル地域とした取り組み~
提案者:国立大学法人香川大学(代表提案者)
概要:災害が発生した際、被災者の生活再建のためには、罹災証明書の発行ならびに給付金及び保険金の支給ならびに住宅再建が急務である。本研究は、既に本学が取り組んでいる、津波、地震及び洪水等の様々なリアルタイム被害予測技術ならびに本研究開発で開発する人工知能によるドローンデータ等を活用した被害把握技術の集合体により、被害建屋の診断を即時に行い、罹災証明書の発行、給付金及び保険金の支給ならびに住宅再建を迅速に行うことができるシステムを構築し、ひいては、迅速な復旧・復興及び地域強靭化の実現に資するものである。
■提案課題:デジタル技術を活用した日本酒製造条件管理技術の開発
提案者:山形県工業技術センター(代表提案者)
概要:日本酒は世界に誇る日本の豊かな文化の一つである。多くの酒蔵は地域に根差した地場産業として経営されており、それによって日本酒文化は支えられている。しかし、酒蔵の多くは規模の小さなメーカーであり、技術の継承や人材確保に課題を抱えている。日本酒製造では、麹造り工程や発酵工程の環境管理が非常に重要で、お酒の味わいに直結する。しかし、こうした管理は長い経験に頼る部分が多く、目が離せない負荷の高い作業となっている。本提案では、新たな手法による酒米特性の定量化法の導入や日本酒製造工程をモニタリングするIoTシステムの導入により醸造技術の保存と工程管理の負荷低減を図ることを目指す。
*なお、同時期に公募しました課題232につきましては、採択なしとなりました。(2024年2月6日追記)
2. 公募等の概要
上記の課題231については、令和5年6月29日(木)から同年7月31日(月)まで、課題233については、令和5年6月29日(木)から同年8月21日(月)まで公募を行いました。公募の詳細は、以下のWebサイトをご参照ください。