国立研究開発法人情報通信研究機構(理事長:徳田英幸、以下「NICT」)、株式会社時事通信社(代表取締役社長:境克彦、以下「時事通信」)、マインドワード株式会社(代表取締役CEO:菅谷史昭、以下「MW」)は、時事通信での英文ニュース作成(日本語記事の英文への翻訳)にNICTの自動翻訳システムを導入し、自動翻訳されたニュースの外部展開を目指して協力することで合意しました。日本の新聞・通信社が、英文ニュースの作成に自動翻訳システムを本格活用するのは、初めてです。
英文ニュース作成の下訳などにNICT翻訳システムを利用すると同時に、ニュース翻訳の精度アップ、市場動向やユーザー需要の把握などにも協力して取り組み、さまざまなプラットフォーム、ツールへの配信など、積極的な外部展開につなげます。
今回の合意は、日本で活動する外国人・企業、急速に回復している訪日観光客等に、日本国内の動きに即した、よりビビッドなニュースを届ける礎になると考えています。
詳細
まず、MWがNICTから技術移転を受けた翻訳システムで逐次遅滞なく時事通信の日本語ニュースを翻訳し、元記事とセットにして時事通信に戻します。
時事通信では、本プロジェクトに合わせ、既存の社内コミュニケーションツールにニュースを配信する仕組みを新たに確立しました。元記事と翻訳記事のセットは、このコミュニケーションツールを通じて全社員に配信され、下図のようにスマホで手軽に確認できます。全社員が閲覧できる仕組みとしたことで、新商品開発、新規事業創出のための材料としても有効活用します。英文ニュースを作成する部署では、必要に応じてこれに編集、校正を施し、完成版の記事に仕立てます。
背景
ニュース翻訳では、元記事が配信されてから翻訳記事が作成されるまで概ね1~2時間程度(*1)を要しており、このタイムラグをできるだけ小さくすることが重要です。また、翻訳リソースの問題で、日本語記事が英語に、英文記事が日本語に翻訳される割合は極めて低く(*2)、この割合をできるだけ大きくすることも課題です。
MWなどは2021年、NICT委託研究(*3)の中で、時事通信のニュースを自動翻訳し、人間による編集・校正を加えないままユーザーに即時配信する実証実験を行いました。人手による校正を経ない、つまり、ある程度の誤訳や不自然さが残る「不完全な翻訳」であるにもかかわらず、80パーセント近い被験者が肯定的な評価を下しました。これは、「より早く」「より詳しく」という要請が社会に多く存在する証左であり、自動翻訳の可能性の大きさを示していると言えます。
また、2022年には、広く日本社会で使われている各翻訳システムの精度に関する実証実験(*4)を行い、ニュース翻訳におけるNICTシステムの精度は、世界トップレベルにあるとの結果を得ました。
今後
日英翻訳の社内利用から始め、将来的には、自動翻訳システムをフルに活用し、英語だけでなく、多言語で最新ニュースが読めるサービスを実現します。
また、日々生成される日本語-英語の記事ペアを自動翻訳システムの学習に投入し、システムが最新のトピックに常に追随するようにしていきます。
(注)
*1:記事の種類(速報、一般ニュース、解説など)により大きく異なります。
*2:概ね5~10パーセント程度で。
*3:課題名「多言語音声翻訳高度化のための統合的深層学習の研究開発」(副題:統合型機械翻訳技術の研究開発)(研究機関:凸版印刷株式会社、マインドワード株式会社)
(https://www.nict.go.jp/collabo/commission/k_21101.html)
(https://www.nict.go.jp/collabo/commission/k_21101.html)
*4:株式会社時事通信社、マインドワード株式会社、凸版印刷株式会社が共同実施。実務翻訳者による順位付けで評価しました。
各組織の代表者コメント
NICT 徳田英幸理事長 「NICTは2025年大阪万博での自動同時通訳の実現を目指している。この度、報道の分野で、その核となる自動翻訳技術が使われることになった。国産の技術が広く認められたことの証であり、誠に喜ばしい」
時事通信 境克彦社長 「ニュースの多言語同時発信は、新聞、テレビ、通信社を問わず、報道機関にとって大きな目標だ。当社が先陣を切ってそのための一歩を踏み出すことになり、大変光栄に感じている」
マインドワード 菅谷史昭CEO 「NICTの技術をベースに、追加学習をはじめとする様々な翻訳品質向上技術を組みあわせることで、高精度のニュース翻訳を実現した。今後も最新技術を取り入れながら、最適なソリューションを提案していきたい」