現在のパソコンやインターネットの中を駆け巡っている情報の実体は、0と1という抽象的記号を運ぶ電気や光の膨大なパルス列です。音声や画像を0と1という抽象的記号で表現することで、効率的なデータの圧縮や雑音下での信頼性の確保が可能になります。いわゆる符号化といわれる操作ですが、それは大きく分けると、データを{0,1}のビット列で圧縮して表現するための情報源符号化と、そのビット列をできるだけ小さい誤りで伝送するための通信路符号化の2つに大別されます。今後、チップの小型化や光回線の大容量化が進むと、0と1を運ぶ媒体が光子や電子のレベルに到達し、量子力学が支配する信号に対する情報操作を行う領域に突入してゆきます。
今回の実験では、光子に載った量子信号を圧縮し再び復元する量子情報源符号化という操作を世界で初めて実証しました。信号の圧縮・復元はあらゆる情報処理の基本操作であり、量子信号に対する今回の成果は、光子レベルの信号を扱う量子通信や量子暗号において、効率的にデータを圧縮する技術の第一歩となるものです。我々のグループでは本成果に先立ち、大容量伝送を可能にする量子通信路符号化についても既に原理実証に成功しており、これで量子情報技術の根幹をなす2つの符号化操作の実証が成功したことになります。