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世界最高速、毎秒40ギガビット無線伝送実験に成功

~ 携帯音楽プレーヤーなどのメモリ転送を無線で高速に! 無線LANの130倍を実現 ~

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2011年8月20日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、大阪大学(以下「阪大」、総長:鷲田 清一)と共同で、電波による世界最高速である毎秒40ギガビットの無線伝送実験に成功しました。この速度は、これまでの伝送実験最高記録(毎秒27ギガビット)を大きく超え、最新の無線LANの約130倍もの速さになります。毎秒40ギガビットの伝送速度があれば、例えば、無線LANでは14分以上かかる容量32ギガバイトのメモリ転送の所要時間は、わずか6秒程度となります。また、スーパーハイビジョンの非圧縮伝送も可能となります。

この実験の成功は、NICTの光技術と無線技術の融合によるもので、利便性と低コスト性を兼ね備えた新世代大容量通信を支える技術として期待できます。

背景

現代社会では、大容量データをやりとりするスマートフォンなどの携帯端末が急速に普及し、いつでも・どこでも通信可能なブロードバンド接続が必要となっています。こういった大容量データをやりとりするための高速データ伝送には、「光ファイバ通信」が適しています。しかし、持ち運びなどの利便性を重視する場合には、「無線通信」の技術が不可欠です。「光通信」は毎秒10ギガビット程度の伝送速度が一般的ですが、これに対して、「無線通信」は利用可能な電波帯域が限られているため、最新の無線LAN(IEEE 802.11n)でも、毎秒0.3ギガビット程度の伝送速度にとどまっています。

ユーザが、無線通信であることを意識せずに、データ通信を利用するためには、無線通信の高速化を図り、光通信との速度差を縮める必要があります。この実現のため、携帯電話や無線LANなどで混雑する「マイクロ波帯」(補足資料-図1)を避け、新たな周波数帯域での高速無線伝送技術の開発が必要とされており、より高い周波数帯での広帯域かつ高精度の信号発生・検出が技術課題となっていました。

今回の成果
光・ミリ波信号生成部
光・ミリ波信号生成部

今回、NICTは、高速伝送には適しているものの、発生させることが難しい「ミリ波帯」の電波を利用し、毎秒40ギガビットの世界最高速度の無線伝送実験に成功しました。本実験では、NICTがこれまでに開発した「光によるミリ波発生装置」、「高速高精度16値光変調器」と、今回新たに開発した「光・ミリ波変換器」、阪大の開発した「デジタル信号処理技術」を利用しました(補足資料-図2)。光通信向けに開発された高速高精度光信号発生とデジタルコヒーレント受信技術をベースとして、光の広帯域性を生かしたミリ波帯16値高速変調、復調技術を実現しました(補足資料-図3)。

例えば、携帯音楽プレーヤーのメモリ(容量32ギガバイト=256ギガビット)を、従来の無線LAN(IEEE 802.11n)で転送するには約14分(850秒)かかりますが、本実験結果である毎秒40ギガビットの伝送速度があれば、わずか6秒程度に短縮できます。また、スーパーハイビジョンの非圧縮伝送も可能となります。加えて、利用の少ない「ミリ波帯」を使うことにより、限られた電波資源の有効利用にも大きく貢献します。

今後の展望

今後、産学官連携を通して、さらなる伝送容量・距離の拡大を目指した研究開発を進めてまいります。なお、スイス・ジュネーブで開催される光通信国際会議(ECOC2011、9月18日(日)~22日(木))において、本実験結果を発表いたします。

補足資料

図1: 電波の利用イメージ
図1:電波の利用イメージ

周波数帯ごとの電波の利用イメージ。
利用状況の詳細は、http://www.tele.soumu.go.jp/j/adm/freq/search/myuse/summary/index.htm

図2: 世界最高速無線実験概要
図2:世界最高速無線実験概要

本実験構成のイメージ図。NICTの光技術、無線技術と阪大のデジタル信号処理技術を利用しました。
広帯域性を生かした光変調・信号処理によるミリ波信号を発生させ、デジタル信号処理でミリ波信号から「0」、「1」のデジタル信号を取り出しました。

図3: 高速性と高精度性の両立により、伝送速度の高速化
図3:高速性と高精度性の両立により、伝送速度の高速化

伝送速度の高速化には、1)「信号の変化を速くする」、2)「より複雑な信号形式(変調方式)を使う」という2つの方向性があります。1)には信号発生・検出の高速性、2)には高精度性の向上が必要です。2)を重視すると、限られた電波資源で、より多くの情報伝送ができるという特徴があり、無線通信では複雑な信号形式が普及しています。光ファイバ通信では、従来、高速性の追求が中心で、単純な信号形式が一般的でした。しかし、広帯域性を特徴とする光ファイバにおいても利用可能な光周波数資源に限界があるという状況になり、最近では複雑な信号形式の研究が進められています。

今回の研究では、無線技術に迫りつつある光ファイバ通信向けの複雑な信号発生技術を、逆に無線技術に適用し、高速性と高精度性の両立により、伝送速度の高速化を実現しました。また、従来技術では困難であったミリ波帯高速信号発生を光技術の広帯域性で実現したという点も特徴です。

用語解説

ギガビット

1ギガ(G)ビットは10億ビット、1メガ(M)ビットは100万ビット。

通常の家庭用光ファイバサービス(FTTH)は最大でも毎秒100メガビットの速度であり、毎秒40ギガビットはその400倍にあたります。

マイクロ波帯

数ギガヘルツから30ギガヘルツの周波数帯を指します(図1)。マイクロ波帯で周波数の低い帯域は特に利用が集中しており、電波が混雑している状況です。

ミリ波帯

30ギガヘルツから300ギガヘルツの周波数帯を指し(図1)、波長が1ミリメートルから10ミリメートルとミリメートル域となるので、この名前が付けられています。特に60ギガヘルツ帯については、幅広い用途に開放されており、既にハイビジョンテレビの画像をケーブルなしで伝送するための装置が実用化されています。

光によるミリ波発生装置

国立天文台と共同で開発した、世界最高の安定度と精度を持つ基準光源を利用しました。本基準光源は、20ギガヘルツから120ギガヘルツまでの極めて広い周波数範囲の高速信号を、高精度を確保しながら安定して発生させることが可能です。この性能は、日米欧の国際協力で建設が進むアルマ電波望遠鏡の厳しい条件を十分満たしており、その心臓部分として機能する基準信号源として利用されました。光通信用高速デバイスの特性評価にも利用可能で、実用化及び標準化に向けた取組を行っています。

高速高精度16値光変調器

光回路での信号合成方式を新たに考案し、高速かつ複雑な光信号発生を可能とする光変調器を開発しました。これにより、毎秒40ギガビットの16値光変調が可能となりました。16値光変調は次世代の超高速光通信のための要素技術として期待されています。



研究内容に関する 問い合わせ先

光ネットワーク研究所 光通信基盤研究室

菅野敦史、川西哲也
Tel:042-327-7490
E-mail:
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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