国立研究開発法人情報通信研究機構
2017年10月2日
ポイント
- 1回の経路切替時間80ナノ秒の光スイッチシステム、1秒間に390万回のスイッチングを達成
- 1秒間に非圧縮8K映像370チャネル相当の光信号に対応可能
- 光スイッチシステムと次世代光ファイバで、大規模データセンタの省スペース化・省エネ化に貢献
NICTネットワークシステム研究所は、光ファイバで伝送されたパケット信号の経路を切り替える光交換技術において、従来の世界記録を4倍以上更新し、毎秒53.3テラビットの光パケット信号のスイッチング実験に成功しました。
本実験では、次世代光ファイバ技術である大容量マルチコア光ファイバに接続可能な高速並列光スイッチシステムを開発し、各コアの光信号の一括切替えに成功しました。1回の経路切替えに要する時間は80ナノ秒と高速で、1秒間に390万回以上のスイッチングを達成しました。
今回の実験成功により、光スイッチシステムが大規模データセンタなどのビッグデータが流通するネットワークのスイッチとして適応可能であることを示しました。次世代光ファイバと光スイッチシステムを利用すると、ネットワーク装置の設置スペースの大幅な縮小や消費電力の低減が可能となります。
なお、本論文は、第43回欧州光通信国際会議(ECOC2017)にて非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択されました。
背景
ネットワークを流れる情報量が世界規模で急増し、従来の光ファイバを更に増設する方法では、将来の通信需要にこたえられなくなることが見込まれます。そこで、NICTは産学と連携し、1本の光ファイバに7個から36個の光通信路(コア)を収めたマルチコア光ファイバを開発し、伝送容量の世界記録を更新してきました。
さらに、マルチコア光ファイバで構成された網状の通信路を伝わる情報の経路を自在に設定し、瞬時に変更する交換機能を実現するため、光スイッチシステムの研究開発を進めてきました。
今回の成果
今回NICTは、新たに高速並列光スイッチシステムを開発しました(図1)。この光スイッチシステムとこれまで開発したマルチコア光ファイバを接続し、毎秒53.3テラビットの7コア多重光パケット信号のスイッチング実験に成功しました(図2)。この速度は従来の世界記録を4倍以上更新し、1秒間に非圧縮8K映像370チャネル相当の光信号に対応可能なものです。
本スイッチシステムは、以下の要素技術から構成されます。
・光パケット信号の宛先に応じ、複数の新型並列光スイッチを同時に駆動させるスイッチコントローラ
本スイッチシステムは、わずか80ナノ秒の時間で7コア多重光パケット信号の宛先を判断し、一括で同じ経路に切り替えることができます。例えば、通信幹線における無瞬断の経路変更や大規模データセンタにおけるビッグデータの瞬時転送等が可能となります。また、マルチコア光ファイバと本スイッチシステムを利用することで、データセンタのネットワーク装置の設置スペースの大幅な縮小や消費電力の低減が可能です。
今後の展望
今後、光スイッチシステムの実用化を目指して、産学官連携による研究開発の取組を積極的に推進し、光ネットワークの更なる高速化技術の研究開発に取り組んでいきます。
なお、本実験の結果は、スウェーデンで開催された光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第43回欧州光通信国際会議(ECOC2017、9月17日(日)~9月21日(木))で非常に高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)として採択され、現地時間9月21日(木)に発表しました。
国際会議: 第43回欧州光通信国際会議(ECOC2017) 最優秀ホットトピック論文(Post Deadline Paper)
論文名:Experimental Demonstration of a 53 Tb/s Coherent SDM-TDM Add/Drop/Through Optical Network with Time-division Spatial Super-channels and High-speed Joint Switching System
著者名:José Manuel Delgado Mendinueta, Satoshi Shinada, Ruben S. Luís, Yusuke Hirota, Hideaki Furukawa, Hiroaki Harai and Naoya Wada
補足資料
図1上は、従来のNICTの光スイッチシステムのイメージ図である。シングルコアファイバで伝送された光パケット信号の宛先をスイッチコントローラが順番に判断し、光スイッチに電気制御信号を送る。光スイッチは、電気制御信号により、光パケット信号の経路を切り替える。
図1下は、今回開発した高速並列スイッチシステムのイメージ図である。マルチコア光ファイバで伝送されたコア多重光パケット信号の宛先をスイッチコントローラが順番に判断し、新型並列光スイッチへ電気制御信号を送る。電気制御信号を受けた光スイッチが同時に動作し、コア多重光パケット信号の経路を切り替える。
図2は、今回の高速スイッチング実験の構成図である。
① 経路1(19コアファイバ)と経路2(7コアファイバ)に、それぞれ毎秒53.3テラビット7コア多重光パケット信号を送信する。(19コアファイバは7コアのみ使用)
7コア多重光パケット信号の宛先は、経路Aと経路Bを繰り返す。
7コア多重光パケット信号の宛先は、経路Aと経路Bを繰り返す。
② 高速並列光スイッチシステムでは、スイッチコントローラが7コア多重光パケット信号の宛先を判断し、新型並列光スイッチの制御信号を送り、経路を切り替える。
③ 経路A(19コアファイバ)で、7コア多重光パケット信号を伝送する。
なお、経路Bは、マルチコア光コアファイバは接続せず、結合器までの実験である。
なお、経路Bは、マルチコア光コアファイバは接続せず、結合器までの実験である。
図3は、経路Aに送信された7コア多重光パケット信号の波形である。各コアの信号波がすべて同じタイミングでスイッチされており、パケットロスのないコア多重信号のスイッチングが実現できたことが分かる。
用語解説
情報を小さい単位(パケット)に分割して伝送すると、多くの利用者が同じ通信路を共用でき、高速かつ経済的に通信できる。しかし、ネットワーク接続点(ノード)においてパケットの経路を切り替えるパケット交換技術において、従来技術では、光ファイバ内は光信号で伝送し、ノード内で電気に変換した後に電気交換処理を行い、再度光信号に変換して光ファイバに送信される。そのため、電気処理がボトルネックになり通信速度が制限される。
NICTの光パケット交換技術は、ノード内で電気に変換せず極めて高度な光信号処理で高速切替えを実現する。光電気変換処理が不要になるため、消費電力が低減される。
1テラビットは1兆ビット、1ギガビットは10億ビット。現行のフルハイビジョンの約16倍にあたる8K映像の非圧縮フルスペックでは、最大で毎秒144ギガビットのデータレートとなる。毎秒53.3テラビットは、その約370倍にあたる。
従来の光交換世界記録は、2014年9月にNICTが達成した毎秒12.8テラビットである。
現在普及している光ファイバは、1本当たり1つの光の通り道(コア)を持つ構造。マルチコア光ファイバは、1本当たり複数のコアを持ち、同時並列に通信可能。従来の光ファイバを束ねるよりもはるかに小さい断面積で大容量通信を可能とするため、次世代の光ファイバとして期待されている。
「光ファイバの最大伝送容量の世界記録を更新、2.15ペタビット毎秒を達成」(2015/10/01)
10億分の1秒
マルチコア光ファイバの複数コアの光パケット信号をまとめて1つのパケット信号として扱う。多重された光信号は、ノード(スイッチ)においてすべて同じ経路に切り替えられる。
今回の実験では7個のコアの光パケット信号をまとめて扱い、信号と信号の間の時間はわずか80ナノ秒である。
半導体に電界を加えると光の吸収量が変化する電界吸収効果により、高速(ナノ秒オーダー)切替えを行うスイッチ
本件に関する問い合わせ先
ネットワークシステム研究所
フォトニックネットワークシステム研究室
フォトニックネットワークシステム研究室
古川 英昭、品田 聡
Tel: 042-327-5694, 5679
E-mail:
広報
広報部 報道室
廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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