本研究では、これまで通常時のドローン・ロボット制御用の無線方式として開発してきた920MHz帯の無線装置(
※1)に、新たに制度化された周波数帯である169MHz帯の無線装置とそのアンテナを追加し、同じケースに収めることで、920MHz帯と169MHz帯の間で手動又は自動による遠隔切替えが可能なハイブリッド無線装置を実現しました(
図1)。そして、制度化後としては全国で初めて169MHz帯によるドローン・ロボット制御システムの評価を行うための実験試験局免許を取得し、地上の操縦者からドローンまで169MHz帯にて直接電波をつないで遠隔制御を行い、安定に飛行させることに成功しました(
※2)。
開発に当たっては、できるだけ、これまで920MHz帯で開発してきた技術である、“応答遅延時間を一定に保ちながら、制御情報(コマンド)や機体の状態情報(テレメトリ)を途中の他の中継用ドローン等を経由してマルチホップ中継(
※3)する機能”を変えずに、周波数とその送信出力のみ、169MHz帯の規格に切り替えられるよう設計を行いました。しかし、169MHz帯は遠くに届く特性を持つ反面、920MHz帯に比べ、同じ通信方式の場合、データ伝送速度がおよそ半分以下と小さくなるため、遠隔制御の安定性が維持できるか、また、ドローンからのテレメトリが失われることなく送られてくるか、が焦点となっていました。また、ドローンの飛行中、920MHz帯と169MHz帯の間で周波数を切り替えるときにドローンの飛行状態が不安定にならないかという不安材料もありました。
実験では、初めに920MHz帯で操縦者端末とドローン側の間で通信を確立し、そのまま離陸上昇させ、上空高度30mほどになったところで周波数を169MHz帯に切り替え、ドローンの飛行状態への影響を調べました。その結果、操縦者が制御コマンドを送信してからドローンに届くまでの遅延時間は、920MHz帯では60ミリ秒ほどであったところ、169MHz帯では2秒ほどかかりました。また、テレメトリの伝送速度が、920MHz帯に比べて約半分になるという課題も見つかりました。しかし、ドローンの飛行に支障はなく、安定に飛行が可能であり、地上側でも多少データの更新頻度が落ちるものの、ほぼリアルタイムでテレメトリが得られることが確認できました。
周波数の切替えについては、920MHz帯から169MHz帯に切り替わるまでの時間は約20秒かかりましたが、飛行自体は安全に維持されたままであることが確認できました。今後は、これを更に高速化する検討を行う予定です。一方、169MHz帯から920MHz帯に戻すときは、全く問題なく、瞬時に切り替わることを確認しています。これは、169MHz帯に切り替わった後も、920MHz帯の信号を完全には切断していないことによるものです。今回の開発により、異なる電波の伝わり方をする複数の周波数にまたがるハイブリッド型の運用が可能となり、ドローンの飛行に必要な無線通信の電波をこれまでよりも格段に途切れにくくする見通しが得られました。
さらに、169MHz帯の実験で、
図2に示すように、直接電波が届かない見通し外でのドローン運用を想定し、途中に中継局を搭載した別のドローンをもう1機飛行させ、いったんこれを経由して目的のドローンを制御するマルチホップ中継制御による飛行も行ったところ、遅延時間とデータ伝送速度は直接通信の場合とほとんど変わらず、やはり安定に飛行できることが確認できました(
図3)。
国の新たな規格に準拠した169MHz帯電波を使った上記一連の実験の成功は、まだ他には例がなく、通常使用している電波が弱くなったり干渉を受けたりした場合の緊急通信手段として使えることが示され、ドローンやロボットにとってこれまでよりも更にタフな無線の実現につながる基盤技術が確立できました。また、国が2020年頃までの実現を目指している目視外での安全なドローン運航にも寄与できるものと期待されます。
※2 本飛行実験は、航空法で規定される人口集中地域には該当しない場所で、目視内かつ対地高度150m未満で実施し、国土交通省への飛行申請手続きが不要である条件下で行いました。
※3 複数の通信機をバケツリレーのように数珠つなぎに結ぶ通信方式。障害物等による電波の遮へいや減衰を乗り越えて、直接電波が届かない環境でのドローンやロボットのコントロールを維持することを可能にする技術の一つ