被験者は、画面の中心に表示される多数の点の動きが、全体として右に動いているのか、左に動いているのかを判断する課題を行いました(
補足資料図1参照)。両手にはそれぞれハンドルを握り、右に点が動いていると判断した場合には右手のハンドルを動かし、左に点が動いていると判断した場合には左手のハンドルを動かしてもらいました。
最初、右のハンドルと左のハンドルを動かすために必要な力(負荷)は同一に設定されていますが、途中から片方のハンドルを動かすための負荷が徐々に増大します。負荷は時間をかけて少しずつ増大し、最終的には両手間で2倍弱ハンドルを動かすのにかかる負荷をかけましたが、被験者は両手間の負荷の差に気が付きませんでした。両手間で負荷に差がない場合と、ある場合で、点の動きの判断のパフォーマンスを比較しました。すると、被験者は運動負荷の存在に気が付いていないにもかかわらず、運動負荷の大きな方向の視覚判断を避けるようになりました(
補足資料図2参照)。
これは、運動行為にかかる負荷が、「点の動き方向」という視覚入力の知覚判断に影響を与えたことを意味します。
では、この知覚判断に影響を与えた運動負荷は、「葡萄の熟れ具合」といった見たものの知覚判断そのものを変化させるのでしょうか。それとも、見たものの知覚判断は保ったまま、「つらい運動はやめる」というように運動行為の選択のみを変化させるのでしょうか。この問いに答えるために、被験者は上の実験と同様に、負荷に差のあるハンドルを使って、点の動きの判断を行いました。そして、運動負荷の高い判断を避けるようになった時に、今度は手を使わずに口答で判断を行ってもらいました。もし、点の動きそのものに対する判断が手の運動負荷によって変化したのであれば、口答で判断する際も、手を用いた判断の際に運動負荷の高かった方の判断を避けるはずです。しかし、もし「手」で行うつらい運動を避けているだけなら、口答での判断は変化しないはずです。
結果は、口答判断にも事前に経験した手の負荷の情報が反映されることが分かりました。つまり、片方の手に負荷のかかった判断を繰り返すことで、点の動きそのものに対する判断が変容したと考えられます(
補足資料図3参照)。