ユーザー企業である三菱重工工作機械株式会社様の本社・栗東工場内やトヨタ自動車株式会社様の堤工場及び高岡工場内にて、共同実験各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサーを生産設備に取り付け、複数のセンサーから取得した多様な情報を無線で送信する評価実験を実施しました。
これまで、無線通信の現場の課題事例を利用空間と時間にわたって詳細に確認した結果、無線資源が有効に活用されていない以下のような実態がわかりました。
・短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるという現状。
・設備ごとに無線設備が導入されており、工場全体での無線設備を協調させた制御・管理が必要。
・大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいる。
・工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化する。
・複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかる。
工場内で様々な無線システムが混在することにより、無線通信が不安定化するリスクを確認できました。
また、本プロジェクトの一環として、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理しました。この通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに用いることが可能です。
さらに、実際の製造現場で必要とされる具体的な利用シーンを想定し、設備ごとに独立した無線システムを協調させて制御することで安定化するためのソフトウェア構成を
無線アーキテクチャとして提案しました。この無線アーキテクチャは、工場の生産設備の無線化に当たり、無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定し、以下を特徴としています。
①920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数を対象としている。
②これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえて設計されている。
③アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、
物理層によらず制御を可能にした。
なお、本プロジェクトでは、複数の通信方式や周波数にまたがる統合分析と全体の取りまとめをNICTが、実験設計をATRが、通信メーカーとして通信機器への実装を想定した評価をNEC、NEC通信システム、富士通、富士通KCNが、機器メーカーとして実際の利活用を想定した評価をオムロン、サンリツ、村田機械が担当しています。