本研究では、障害物によって電波が遮られる見通し外に遠隔制御対象となるロボットが置かれた場合でも、ネットワークを構成する他のロボットを経由して対象とするロボットの遠隔制御やその状態監視(テレメトリ)を行う新たな通信方式に関する技術を開発しました(
図1)。
本技術を用いることで、操縦者とロボットが見通し外の位置関係であっても、無線が同時に複数局に対して送信する性質を活用して、制御データ及びテレメトリデータを、中継局を経由する複数の通信経路によって冗長性を持たせて伝送することで、ロボットを途切れなく遠隔制御することを可能にしました。
本技術を実現できたポイントは、無線LAN等の既存の通信方式を根本から見直し、“ロボットの制御用”であることに特化し、“中継伝送すること”を前提として、応答遅延時間が小さく、かつ、通信信号同士が互いに干渉しないことを両立させた新たな通信手順(アクセス制御プロトコル)を設計・開発したことによります。具体的には、制御局—中継局間、中継局—中継局間、あるいは中継局—ロボット局間などの各経路に対し、通信信号をやりとりする時間のタイミングをあらかじめ割り振る「時分割多元接続」方式をロボット制御用として採用することで、データ伝送における時間スロットを効率的に使用できるとともに、無線LAN等のように端末間の自由競争によるアクセス制御プロトコルと異なり通信路を確保するために応答遅延時間を一定に保つことができ、途中の中継局を経由してもロボットが受信する制御データの“鮮度”を一定に保つことが可能になります。
また、従来の通信方式では主に端末の位置が固定、あるいはあまり頻繁には動かない場合を前提としており、時間がかかっても必要なデータを全て送るために、通信開始前に中継経路の探索や設定などが行われています。本技術ではこの手順をなくし、移動する端末を対象とした制御用として単純化しました。具体的には、異なる経路を経由して受信される信号を上記の時分割多元接続方式を用いて常にすべて受信し、受信側にてどちらか強い信号だけを受け取るという手法をロボット制御用の中継方式として初めて採用しました。これらの技術により、これまで条件によって数十ミリ秒~数百ミリ秒まで変動していた中継局経由の応答遅延時間を、今回の開発装置では制御データの送信周期である50ミリ秒以内に抑え(※2)、制御の不安定化の回避を可能にするとともに、中継経路がロボットの移動によって変更された時に発生する通信の切断をなくすことを実現しました(※3)。
開発した無線装置(
図2、
図3)は、920MHz帯を制御信号とテレメトリ信号の双方向で使用しています。この周波数帯は、これまで多く使われている2.4GHz帯に比べて遠く
(※4)に電波を飛ばすことができ、かつ2.4GHz帯等のWi-Fiと同じく無線装置の技術基準適合証明は必要ですが、無線局免許や無線従事者資格は不要で、デバイスの価格も安価になってきています。なお、本実証実験で使用した無線装置も技術基準適合証明を取得しています。また、相互の干渉なく安全に電波を共用するための規格が定められており、混信を受けるリスクは小さくなっています。
また、今回NICTと産総研は、本技術を検証するため、試作装置を用いた屋外におけるフィールド実証実験を実施し、操縦者から見て見通し外にある小型四輪ロボットの安定な遠隔制御及びそのテレメトリ信号受信の実証に成功しました。中継装置は、ドローン(マルチロータ型無人航空機)に搭載し、上空高度約20m~30mでホバリングさせ
(※5)、これを経由して小型四輪ロボットへの無線通信回線を構成しました(
図4、
図5)。ドローンを経由して他のロボットを制御し、かつ中継経路が途中で切り替わっても通信を切断させない技術は、世界でもまだ実現した例がありません。
※2 この数値はロボット操縦者の重視するものが応答速度なのかデータ量なのかによって設定可能。
※3 中継経路の変更に要する時間についても、本開発装置の場合、50ミリ秒以内となり、その間に失うデータは最小限に抑えることが可能。
※4 無指向性のアンテナを送受信に用いた場合、地上・上空間で約1km程度。
※5 実験におけるドローンの飛行は、改正航空法(平成27年12月10日施行)に従って行いました。