以上の結果から、細胞の中にp62がない状態ではDNAはオートファジーの攻撃を受けにくくなり、遺伝子導入されたDNAは分解されずに核内に移行すると考えられます。その結果として、これまでに見られたような遺伝子導入効率の著しい亢進が観察されます。
今回の発見は、細胞外から侵入したDNAが細胞質内で受ける扱いを分子レベルで明らかにしたものです。オートファジーは、細菌感染では細胞内免疫として働くと考えられていましたが、DNAが細胞質内に侵入した場合には核膜構造を作ることによって、オートファジーを回避し得ることが分かりました。
ウイルス感染の治療を目指す場合には、人為的に外来DNAを排除することが求められます。一方、遺伝子治療の場合には、人為的に外来DNAを細胞核内に伝送することが求められます。いずれの場合であっても、細胞の性質を正しく理解する必要があります。今回の発見は、安全・安心な感染症治療・遺伝子治療、高効率な遺伝子デリバリーを実現する上で有用な知見を提供するものです。