今回の実証実験では、仮想化Wi-Fi基地局によるWi-Fi仮想網、及びユタ大学が開発した仮想化基盤ProtoGENIを用いて構築したクラウド機能を有する仮想網(以下、ProtoGENI仮想網)を、仮想化ノードによる有線仮想網(以下、VNode仮想網)を介して相互接続し、異なる3つの仮想化基盤(ドメイン)でWi-Fi仮想網内のWi-Fi端末からProtoGENI仮想網内のサーバまでの全区間を包含する有無線マルチドメイン仮想網を構築しました。3つのドメインそれぞれにおいて利用する無線資源、ネットワーク資源、サーバ資源をまとめて記述した一つの仮想網(スライス)定義ファイルを作成し、日米にまたがる有無線マルチドメイン仮想網がワンクリックで構築できることを実証しました。仮想網定義ファイルの入力から仮想網の構築完了までの所要時間は約4分でした。
図1-1に、今回の有無線マルチドメイン仮想網の実験構成を示します。各ドメインの仮想網は、それぞれNICT本部に設置された仮想化Wi-Fi基地局2台、JGN-Xが運用する国内3拠点の仮想化ノード、ユタ大学キャンパス内に設置されたProtoGENIノード4台を用いて構成しました。仮想網間をSEPにより相互接続するために、制御プレーン相互接続用のゲートキーパー(GK)ノード及びデータプレーン相互接続用のゲートウェイ(GW)ノードを各ドメインに1台ずつ構築しました。GK間通信を中継するSEPコアノードを、GKと同じ制御用ネットワーク上に構築しました。
物理構成としては、SEPコア、VNode仮想網向けVNode-GK及びVNode-GW、ProtoGENI仮想網向けOmni-GK及びOmni-GWをユタ大学内に設置しました。Wi-Fi仮想網向けWiFi-GK及びWiFi-GWは、仮想化Wi-Fi基地局とともにNICT本部(東京)に設置しました。NICT本部・JGN-X間の接続にはJGN-Xのアクセス回線を、JGN-X・ユタ大学間の接続にはTransPAC国際回線、米国内はInternet2、ユタ州内はUtah Education Network(UEN)といった回線を、それぞれ利用しました。
VNode仮想網内は、ノード間でレイヤ2トンネルを構築する技術であるGREによるメッシュ型トポロジーとし、仮想網内での輻輳や障害発生時に即座に代替ルートに切り替えるといった機能を必要に応じて導入することが可能な構成としました。すなわち、任意のプロトコルやパケットフォーマットが新規に設計できるというVNode仮想網の「高機能」という特徴は、今回構築した有無線マルチドメイン仮想網でも維持されています。
図1-2は、今回構築した有無線マルチドメイン仮想網により、NICT本部内のWi-Fi端末がユタ大学内のクラウドサーバからパケットロスなく安定した応答が得られる様子を示しています。Wi-Fi端末40台により擬似的なWi-Fi輻輳状態を生成した上で、端末・クラウドサーバ間で400KByteのデータが往復する時間を、応答時間として計測しました。なお、図1-1の実験構成では、VNode-GWをユタ大学に設置した関係で、上記データが端末・クラウドサーバ間を1往復する間に、物理的に日米間リンクを3往復することになります。64Byteという小さいサイズのデータでも応答時間は約400msになります。このような理由により、図1-2では有無線マルチドメイン仮想網利用時でも、応答時間が400ms以上となっています。