国立研究開発法人情報通信研究機構
2015年12月16日
ポイント
- IEEE802.11af規格準拠、ホワイトスペース無線LAN対応のベースバンドICを開発
- 従来の通信装置に比べて、1/30以下の小型軽量化、約1/15の低消費電力化を実現
- 1/10以下の低コスト化により、ホワイトスペース無線LAN技術の商用展開が容易に
NICT ワイヤレスネットワーク研究所は、テレビ帯におけるホワイトスペースで無線LANの利用が可能なベースバンドICの開発に世界で初めて成功しました。今回開発したICは、ホワイトスペースを利用する無線LANの国際標準規格であるIEEE802.11afに準拠しており、小型で省電力な通信装置の開発に利用できます。また、市販のノートPCなどにUSBで接続できる、UHF帯のアンテナを一体化したカード型データ通信装置の試作開発にも成功しました。
今回の成果により、製品開発において大幅な低コスト化が期待でき、さらに、汎用的な通信用ICとして、ほかの通信機器への組込み、統合も容易になり、安い価格での商用展開が期待されます。
背景
周波数の有効利用や電波伝搬特性の優位性の観点から、様々な国や地域でテレビ帯のホワイトスペースを活用する技術が検討されています。NICTは、これまで、テレビ帯ホワイトスペースを利用する無線LANの国際標準規格であるIEEE802.11afの策定に貢献してきました。また、この規格に対応したボックス型通信装置を世界に先駆け開発し、様々な利用シナリオにおける実験を通じて、ホワイトスペース通信技術の有用性を実証してきました。
一方で、広く社会に普及させるためには、従来のWi-Fiシステムと同等程度の利便性・簡易性が求められており、設置の容易さに加え、小型かつ低消費電力の実現が強く求められていました。
今回の成果
今回NICTは、IEEE802.11afに準拠したベースバンドIC(図1赤枠内参照)を開発しました。これまでFPGAで実現していたベースバンド処理部を新規にIC化することで、通信装置の小型化・省電力化が容易になりました。また、一層の低コスト化が期待でき、加えて、汎用的な通信デバイスとして、ほかの通信機器への組込み、統合も容易になり、ホワイトスペース無線LAN技術の商用展開が期待できます。
さらに、NICTは、このICを搭載した低コストかつ小型で省電力なカード型データ通信装置(図2参照)の試作に成功しました(補足資料参照)。
その他の主な特長は、以下となります。
(1) ベースバンドICの搭載により、これまでに開発したボックス型通信装置と比較して、約1/40の小型化、約1/30の軽量化、また、約1/15の低消費電力化を実現。さらに、試作開発コストとして1/10以下の低コスト化を実現
(2) 送信信号の波形は、各国のテレビホワイトスペースにおける法規制に準拠
(3) 一般的な市販のカード型データ通信機器と同様に、USBインターフェースを具備し、市販のノートPCからのUSB給電だけで通信が可能
(4) アンテナが一体化したシンプルな構成
(5) アクセスポイントとしてもステーションとしても使用が可能。複数使用することで、ホワイトスペース無線LANネットワークを容易に設置
これにより、ユーザのトラヒックが集中する場所などに簡単に設置でき、トラヒックの効率的な分散が実現できます。さらに、テレビ帯の電波がより遠くまで届きやすい特長を利用して、有線ネットワークの展開が困難な地域での通信インフラの構築や、既存の無線ネットワークにおける機器設置数の削減などにも期待できます。
今後の展望
今回開発したベースバンドICは、通信装置の小型化・省電力化に貢献するだけでなく、低コスト化も期待できるため、有線ネットワークの展開が困難な地域に安価な通信インフラの提供が可能になります。このように、ホワイトスペース利用技術は、単に、電波資源を有効に利用するだけでなく、デジタルディバイド(情報格差)問題などの様々な社会的課題の解決にも期待できます。
また、これまでに開発した、ほかのホワイトスペース技術を組み合わせることで、更なる社会展開に貢献していきます。
補足資料
ホワイトスペース無線LAN対応ベースバンドICを搭載したカード型データ通信装置
図1に、今回開発したホワイトスペース無線LAN対応のベースバンドIC(赤枠内)と実装基板を示します。ベースバンドICは、テレビ帯のホワイトスペースを利用する無線LANの国際標準規格であるIEEE802.11.afに準拠しています。
図2に、ベースバンドICを搭載したカード型データ通信装置(以下「カード型通信装置」)の外観を示します。このカード型通信装置は、市販のRF ICと組み合わせて無線通信機能を実現しています。
表1は、今回開発したカード型通信装置とこれまでに開発したボックス型通信装置(以下「ボックス型通信装置」)の仕様を比較したものです。ベースバンド信号の処理回路をIC化したことで、表1に示すとおり、ボックス型通信装置と比較して約1/40の小型化、約1/30の軽量化、また、約1/15の低消費電力化が実現できました。また、送信信号の波形は各国のテレビホワイトスペースにおける法規制に準拠しており、英国の法規制に対しては100mW、米国の法規制に対しては50mWの送信電力で通信することができます。このカード型通信装置はIEEE802.11af規格で定めるBPSKとQPSKに対応し、2台使用することで最大で約2.6Mbpsの通信速度を得ることができます。
図3は、今回開発したカード型通信装置とボックス型通信装置の外観を比較したものです。カード型通信装置は、一体化されたアンテナを使用する場合はアンテナ部分を立てて使用しますが、その状態でも、ボックス型通信装置と比較して大幅な小型化が実現できました。さらに、省電力化により、USB給電のみで通信ができ、市販のPCなどのUSBポートに接続することで通信装置として使用できます。また、今回の成果により、試作開発コストとしてボックス型通信装置と比較して1/10以下の低コスト化が実現できました。
カード型通信装置は、汎用的なUSBインターフェースを採用し、利便性・簡易性を実現しました。また、アクセスポイントとしてもステーションとしても使用できるため、カード型通信装置を複数使うことで、簡単に、ホワイトスペース無線LANネットワークの構築が可能です。
テレビ帯の電波は、従来のWi-Fiと比較してより遠くまで届きやすい特長があるため、有線ネットワークの展開が困難な地域での通信インフラの構築にも応用できます。また、比較的広い家屋や会議室などを一つのアクセスポイントでカバーするなど、既存の無線ネットワークにおけるアクセスポイント設置数の削減も期待できます。
ホワイトスペース開発関連の過去の報道発表
- 2012年5月24日
「テレビの周波数を利用したホワイトスペース通信の実証実験に成功」 - 2013年11月27日
「テレビ放送帯のホワイトスペースで、LTE技術を活用した移動通信システムを世界に先駆け開発」 - 2014年1月23日
「世界初!テレビ放送帯のホワイトスペースを用いた長距離ブロードバンド通信に成功」 - 2014年3月17日
「LTE技術を活用したホワイトスペース対応のスマートフォンを開発」 - 2014年7月23日
「ロンドン市街地でホワイトスペースを用いた40Mbps高速ブロードバンド通信に成功! 」 - 2015年5月7日
「フィリピン政府情報通信技術局がNICTのTVホワイトスペース利用技術を採用」 - 2015年5月26日
「ホワイトスペースに対応した小型軽量なLTEフェムトセル基地局を開発」 - 2015年11月24日
「インドの通信困難集落においてインターネット接続の無線通信インフラ構築を実証」
用語解説
テレビホワイトスペースは、放送等の目的で割当てが行われている周波数帯のうち、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合に、ほかのシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することを対象とした周波数帯(日本では470MHz~710MHz)を示す。単に「ホワイトスペース」と記してテレビホワイトスペースを意味することが多い。
変復調を行う通信システムでは、送信時の変調前の信号及び受信時の復調後の信号をベースバンド信号と呼ぶ。移動体通信や無線LANなどの通信システムでは、ベースバンド信号としてデジタル信号を扱っており、このベースバンド信号を扱うデジタル回路をベースバンド回路という。一般的な通信装置は、ベースバンド回路と高周波回路を組み合わせて構成され、このベースバンド回路をIC化したものがベースバンドICである。
今回開発したベースバンドICは、後述のIEEE802.11af規格に準拠したベースバンド信号の処理を行うデジタル回路をIC化したもので、それを実装することで通信装置の小型化・省電力化を実現した。
IEEE802.11afは、テレビホワイトスペースで無線LANを運用するための国際標準規格で、2009年にタスクグループが発足し、2013年に策定が完了した。テレビ帯の電波伝搬特性から、従来のWi-Fiに比べてより遠くまで電波が届く特長があり、単に、電波資源の有効利用のみではなく、郊外地域における広域通信への応用も期待されている。
FPGAとはField-Programmable Gate Arrayの略称で、ICの一種ではあるが、特定用途向けに量産されるIC(いわゆるASIC)とは異なり、製造後に回路構成の部分的な再構成などが可能である。そのため、通信装置の基礎開発の段階では、回路構成や無線パラメータなどの最適化検討のため、FPGAを使用することが多い。
FPGAを使用することで、バグの修正などに適時対応できるほか、開発・製造期間が短くて済むなどのメリットがあるが、ASICに比べてサイズが大きく、消費電力が大きいというデメリットがある。コスト比較については製造個数によるところが大きいが、一般的な無線通信システムにおいては、ASICに比べて高額になることが多い。
本件に関する 問い合わせ先
ワイヤレスネットワーク研究所
スマートワイヤレス研究室
スマートワイヤレス研究室
松村 武、石津 健太郎、児島 史秀
Tel: 046-847-5076
E-mail:
広報
広報部 報道担当
廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
E-mail: