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光ファイバの最大伝送容量の世界記録を更新、2.15ペタビット毎秒を達成

〜高精度光コム光源の採用により、長距離化・大規模化への期待〜

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2015年10月1日

国立研究開発法人情報通信研究機構
住友電気工業株式会社
RAM Photonics, LLC

ポイント

    • 従来世界記録1ペタビット毎秒の約2倍である2.15ペタビット毎秒を達成
    • 品質が均一で長距離伝送に好適な同種コア型のシングルモード22コアファイバを採用
    • 将来の大規模デジタルコヒーレント光ネットワークに向け、高精度光コム光源を採用

NICTは、住友電気工業株式会社(住友電工、社長: 松本 正義)、RAM Photonics, LLC(RAM、CEO: John R. Marciante)と共同で、従来世界記録であった光ファイバ1本あたりの伝送容量を2倍以上に更新し、2.15ペタビット毎秒の光信号の送受信実験に成功しました。光ファイバ1本当たりの伝送容量を拡大する次世代技術として、新型光ファイバが世界的に研究されている中、今回、品質が均一で長距離伝送に好適な同種コア型のシングルモード22コアファイバと波長多重光を一括で生成可能な高精度光コム光源を用いて、30km伝送の実証を行いました。
光伝送システムでの利用が期待されている高精度光コム光源を採用した今回の実験により、将来の大規模デジタルコヒーレント光ネットワーク実現の可能性が拓けます。なお、本論文は、第41回欧州光通信国際会議(ECOC2015)にて高い評価を得て、最優秀ホットトピック論文として採択されました。

背景

増大し続ける通信トラフィックに対応するために、従来の光ファイバの限界を超える新型光ファイバと、それを用いた大規模光伝送の研究が世界中で盛んに行われています。NICTは、これまでマルチコア光ファイバや結合装置、増幅器などの基本機能やそれらで構成されるネットワークの研究開発を行い、2015年3月に光ファイバの製造技術限界を突破するための世界最高コア数36コア、かつマルチモードの光ファイバ伝送実験にも成功しました。
しかしながら、実際の光ファイバ通信システムにおいて、既存の光ファイバ伝送システムの能力を大幅に凌駕するためには、高品質の新型光ファイバだけでなく、高性能の光通信装置との相乗効果が不可欠です。また、実用的な新型光ファイバでは、長距離伝送に耐え得る低損失、低クロストークを実現する必要があります。さらに、波長多重技術を使う光通信装置では、伝送能力を左右するレーザ光源の性能を高める必要があり、一括で数百の光搬送波を生成する高精度光コム光源の利用が期待されていました。

今回の成果
22コアシングルモードファイバ断面写真(左)高精度光コム光源が一括生成した光スペクトル(右)
22コアシングルモードファイバ断面写真(左)
高精度光コム光源が一括生成した光スペクトル(右)
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今回NICTは、長距離伝送への適応性を考慮し、シングルモード22コアファイバと、高品質なレーザ光源群よりも優れた性能を持つ光を、通信波長帯において一括生成する高精度光コム光源による光伝送システムを構成し、従来記録の2倍以上となる2.15ペタビット毎秒の光信号の送受信実験に成功しました。
本実験では、住友電工が「シングルモード22コアファイバ」を設計・製造しました。また、「高精度光コム光源」は、住友電工が独自開発した専用の高非線形ファイバを使用し、RAM社が設計・製造しました。
22コアファイバは、すべてのコアが従来ファイバと同じシングルモードであることから、長距離伝送特性に優れ、なおかつ、全コアが同等の物理特性である同種コア型であるためコア間の信号品質が均一となり、空間符号化自己ホモダイン伝送などの高度な伝送方式にも対応可能です。高精度光コム光源では、25GHz間隔の399波長の搬送光を一括生成しています。既存の波長多重伝送システムで一般的なレーザ光源群に比べ、雑音を大幅に抑え、周波数の安定性も高いために、高密度な信号伝送を可能にします。
本実験結果により、マルチコアファイバの潜在能力を押し上げると共に、高精度光コム光源の大容量伝送への適用を実証したことで、将来の大規模コヒーレント光ネットワークの可能性を拓きました。

今後の展望

今後、マルチコアマルチモードファイバ伝送技術の実用化を目指して、通信事業者、メーカーとの取組を積極的に推進し、光通信の更なる大容量化技術の研究開発に取り組んでまいります。
なお、本実験の結果は、スペイン、バレンシアで開催されている光ファイバ通信関係最大の国際会議の一つである第41回欧州光通信国際会議(ECOC2015、9月27日(日)〜10月1日(木))で高い評価を得てポストデッドライン論文(最優秀ホットトピック論文)として採択され、現地時間10月1日(木)14:00に発表します。



補足資料

今回開発した22コアファイバと高精度光コム光源を用いた伝送実験結果

(1)光ファイバ

図1 今回開発した22コアシングルモードファイバ
図1 今回開発した22コアシングルモードファイバ

新型光ファイバの実用化に当たっては、コア数の増大だけでなく、長距離伝送特性や様々な通信方式への適応性などシステム動作の観点から総合的な検討が必要です。今回、実用化に向けた長距離伝送特性を考慮して、同種コアシングルモードで最大コア数の22コアファイバを作製しました。各コアはシングルモードコアであるため、モード多重伝送では必須となるMIMO(Multi Input Multi Output)デジタル信号処理回路が不要で、機器コスト、電力などの効果的な節約が見込めます。
また、光の伝搬速度が同一の同種コア配置とし、空間符号化や自己ホモダイン伝送など、マルチコアファイバの潜在能力を活用する高度な伝送方式にも問題なく対応可能です。
今後は、外径寸法の低減、長尺化、信号干渉の更なる低減などが課題となります。

(2)高精度光コム光源

図2 高精度光コム光源で一括生成した光スペクトルと既存のレーザで生成した光スペクトル
図2 高精度光コム光源で一括生成した光スペクトルと既存のレーザで生成した光スペクトル

伝送容量の抜本的拡大のためには、空間チャネル数を増やすことに加えて、波長多重を極限まで高めることが重要です。今回の実験では、実験室環境及びフィールド環境双方で高周波数利用効率、グリッドフリーの伝送システムを実装するために開発された新型光コム光源を使用しました。この光コム光源は、6.25GHzから400GHzの範囲で選択可能な周波数間隔を持つ数百の高コヒーレント光搬送波を生成します。既存の波長多重伝送システムの一般的なレーザ光源群に比べ、電力消費は1/10に抑えられ、さらに、10倍以上の相互コヒーレンスと周波数安定性を持つため、高密度な信号伝送が可能になります。

(3)伝送実験

図3 実験概要図
図3 実験概要図
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図4 今回の実験結果
図4 今回の実験結果
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今回の伝送実験では、図3のように光コム光源で一括生成した光を22本の既存のシングルコアシングルモードファイバに送信、22本のシングルコアシングルモードファイバを22コアファイバに結合し、トータルで2.15ペタビット毎秒を31km伝送しました。伝送後の符号誤り率(BER)は、図4のとおり2.7×10-2以下で、十分な伝送品質結果を得ました。
これまでのマルチコアファイバを用いた伝送実験では、12コアや14コアファイバを用いた毎秒約1ペタビットが世界記録でした。今回の成果は、実際の伝送能力を2倍以上更新したことになります。



用語解説

ペタビット

1ペタ(P)ビットは1000兆ビット、1テラ(T)ビットは1兆ビット、1ギガ(G)ビットは10億ビット、1メガ(M)ビットは100万ビット。
通常の家庭用光ファイバサービス(FTTH)は、最大でも毎秒2ギガビットほどの速度であり、1ペタビットはその50万倍に当たる。

新型光ファイバ

新型光ファイバ 主な特徴
異種コア(物理特性が違うコアを配置)
マルチコアファイバ
コア間クロストークの低減が容易で、コア数を増やすことも可能である。
コア毎の光の進行速度が異なるため、空間符号化や自己ホモダイン伝送には不適。
シングルモードタイプ、マルチモードタイプが存在する。
これまでは、36コアファイバが最高コア数である。
同種コア(全コア物理特性が同じ)
マルチコアファイバ
各コアの光が同じ速度で進行するので、空間符号化や自己ホモダイン伝送など高度な伝送方式に対応可能。
コア間クロストーク低減に高度な技術が必要で、コア数を増やすことが難しい。
シングルモードタイプ、マルチモードタイプ及び混在タイプが存在する。
これまでは、19コアファイバが最高コア数であった。

光コム

周波数コムとは、電気信号が周波数スペクトル上で見ると、同じ強度の等間隔の成分が櫛の歯(comb)のように並んでいることから付いた名称であり、工業的に様々な応用形態が提案されている。光コムとは、同様に光周波数領域で櫛の歯状のスペクトルを持つ光源を指し、分光計測などに用いられるほか、波長多重光通信の光源としても有望視されている。分光用と通信用では光コムのスペクトル幅に大きな違いがあり、後者ではCバンド(波長1530~1565nm)やLバンド(波長1565~1625nm)などが対象となる。光コムの生成には種々の方法があるが、評価すべき品質は、スペクトルの平坦性、出力強度、周波数間隔設定の自由度、線幅、光信号の雑音比(OSNR: Optical Signal to Noise Ratio)などが挙げられる。

デジタルコヒーレント

光の位相を用いて周波数利用効率を向上するコヒーレント伝送方式を実現するため、デジタル信号処理を活用した通信手法。現在は光信号の位相と強度を制御して信号点をマッピングする直交振幅変調(QAM: Quadrature Amplitude Modulation)方式が中心的に研究されており、信号点の数をとって16QAM、64QAMなどと呼称される。信号スロットあたり1ビットを収容する旧来の方式に比べて、例えば16QAMでは4ビット、64QAMでは6ビットの収容が可能となる。

空間符号化

マルチコアファイバなどのファイバ断面空間での自由度を利用して符号を形成し信号搬送に利用する技術。シングルコアシングルモードファイバでは、ファイバ断面の光の状態は固定されているため符号化はできないが、コアやモードが増えることにより空間的なパターンを付与することが可能となる。符号化によって受信感度などの伝送特性が改善されることが見込まれる。

自己ホモダイン伝送

デジタルコヒーレントの応用技術の一つ。デジタルコヒーレント受信では、レーザの位相揺らぎを補償して位相情報からビット信号を読み出しているが、これには受信機における演算パワーが必要になる。ネットワークが大規模化していくに従い、受信機での演算パワーが必要とする装置コスト、電力消費などが増大するため、演算プロセスのスリム化が求められている。自己ホモダイン伝送とは、送信機レーザ光源の位相情報を光信号の一つとして受信機側に送信してデジタルコヒーレント受信をするため、レーザ位相揺らぎ補償のための演算パワーを割愛できる高効率な伝送方式。



本件に関する問い合わせ先

NICT
光ネットワーク研究所
フォトニックネットワークシステム研究室

淡路 祥成、和田 尚也
Tel: 042-327-6337
E-mail:

住友電工
光通信研究所

平野 正晃、林 哲也
Tel: 045-853-7172
E-mail:
E-mail:

広報

NICT
広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
E-mail:

住友電工
広報部 広報グループ

Tel: 06-6220-4119