国立研究開発法人情報通信研究機構
2015年7月21日
ポイント
- フェーズドアレイ気象レーダで観測される3次元データのスマホアプリの実証実験を開始
- 豪雨の危険性をいち速く通知、30秒ごとの雨雲の様子を3Dアニメーションで表示
- 実証実験で得られた知見を基に、更に高精度の短時間降雨予測情報の提供を目指す
NICTは、株式会社エムティーアイ(エムティーアイ、代表取締役社長: 前多 俊宏)との共同研究を通して、以下の実証実験を開始します。NICTは、大阪大学吹田キャンパスに設置したフェーズドアレイ気象レーダで観測される3次元降雨データをリアルタイムに処理し、エムティーアイは、そのデータを利用するスマートフォンのアプリケーションを開発してデータ配信を行います。このスマホアプリ 「3D雨雲ウォッチ~フェーズドアレイレーダ~」 は、30秒ごとの3次元降雨分布をアニメーションで表示するほか、ユーザの現在地上空に溜まっている雨量を2~3分以内に通知することでゲリラ豪雨の早期検出の可能性を探ります。このスマホアプリを無料で利用していただき意見収集等を行う実証実験を、平成27年7月21日(火)から10月30日(金)までの約3か月間の予定で実施します(補足資料参照)。
背景
30秒間隔で詳細な3次元降雨分布を観測することを可能にした「フェーズドアレイ気象レーダ」は、ゲリラ豪雨が地上に達する10~15分前に上空に現れるファーストエコーが成長する様子や、集中豪雨をもたらす複数の積乱雲の振舞などの調査研究のほか、短時間予報実験や自治体へのリアルタイムデータ配信実験などの実利用にも使われてきています。しかし、このような3次元データを一般の方々に直接利用していただくまでには多くの課題があり、時間がかかると考えられていました。
今回の成果
このたび、「フェーズドアレイ気象レーダ」の観測データを広く利用していただきたいNICTと、天気総合情報サイト「ライフレンジャー天気」を運営しているエムティーアイの、最先端技術のデータをモバイルコンテンツとして多くのユーザに届けたいとの意向が合致し、ゲリラ豪雨の3Dアニメーションをリアルタイムに配信するという世界でも類を見ないスマホアプリが完成しました。
観測データのリアルタイム処理は、大阪大学とJGN-X回線で接続されたNICTサイエンスクラウド上で行われ、エムティーアイの配信用サーバからAndroid端末のアプリに送られます(iOS及びApple Watchは8月以降対応予定)。
アプリには、スマホで検出されるユーザの現在地(もしくはユーザが登録したMY地点)において10 km×10 km範囲内の上空に溜まる雨量がしきい値を超えた時にプッシュ通知によるお知らせが届き、その後の上空の雨量変化、WebGLを用いた過去10分間の3次元アニメーション(20フレーム)を表示することができます。
今後の展望
今後は、今回の実証実験で得られる意見を基に、さらに、アプリ機能、データ処理・配信手法などを改良して、ユーザの皆様にとって、益々便利で役に立つ精度の高い短時間降雨予測情報の提供を目指します。
補足資料
実証実験について
実証実験期間 | 2015年7月21日(火)~2015年10月30日(金) |
対象地域 | 大阪府吹田市を中心とする80 km×80 km 領域 (大阪府、兵庫県、京都府、奈良県、それぞれの該当地域) |
対象端末 | Android 4.4以上推奨(WebGL非対応端末一部あり) iOS 8以上推奨、Apple Watch(ポップアップ表示のみ)※ |
課金額 | 無料 |
アクセス方法 | Google Play、App Storeで『3D雨雲ウォッチ』で検索 又はhttp://pawr.life-ranger.jp にアクセス |
アプリ 『3D雨雲ウォッチ~フェーズドアレイレーダ~』 の紹介
【1】 豪雨の危険性を、いち速くスマホのプッシュ通知でお知らせ (図1参照)
- 場所:「現在地」もしくはユーザが登録した「MY地点」※
- 通知内容:今から30分以内の30mmを超える豪雨の可能性を通知
- 例:〔3D気象レーダ速報〕 現在地周辺から10km以内のエリアで、上空に大量の雨粒を観測しました。この後、バケツをひっくり返した様な豪雨の可能性がありますので、ご注意ください。
【2】 雨雲内部の様子を3次元レーダーマップで表示 (図2、3参照)
- 「現在地」又は「MY地点」上空の危険度を表示(現在地周辺から10km以内のエリア上空に、どの程度の雨が溜まっているかなど)
- 10分前から現在までの上空の雨粒が地上に落ちてくるまでの様子を30秒ごとに3D描画で高速表示
- 地図の回転、視点の切替え(斜め上空からの鳥瞰図及び真上から見た地図上の降雨分布)が可能
補足説明
● 今回データを利用するフェーズドアレイ気象レーダは、大阪大学とNICTとの共同研究によって観測実験を実施していますが、校正検証実験やメンテナンス作業等によって、数時間から数日間にわたり、通常観測が中断する可能性があります。その場合は、スマホアプリへのデータ提供が停止されます。
● NICTでは、フェーズドアレイ気象レーダの観測データは、研究目的、実証目的を問わず、広くどなたにでも提供したいと考えております。ただし、NICTは、気象観測を行う現業機関ではありませんので、データ利用を希望される方は個別にご相談ください。
● 今回の実証実験では、降雨予報データの配信は含みませんが、豪雨発生に関わる情報提供は、「ライフレンジャー天気」の情報提供元である「いであ株式会社」が実施しています。
用語解説
多数のアンテナ素子を配列して電子的にアンテナビーム方向を変えることができるレーダ。本レーダはXバンド(9GHz帯)の単偏波1次元フェーズドアレイ方式で、仰角方向に電子スキャンを行い、方位角方向にはアンテナを機械回転させています。現在、2012年5月に設置された大阪大学吹田キャンパスのほかに、2014年3月にNICT未来ICT研究所(神戸市西区岩岡町)とNICT沖縄電磁波技術センター(国頭郡恩納村)にも設置して、観測実験を行っています。また、これらの観測データは、http://pawr.nict.go.jp/にて過去データを含めて公開しています。
局地的大雨(ゲリラ豪雨)をもたらす積乱雲は、まず、上昇流が発生して水蒸気が持ち上げられ凝結することで雲粒が生成されます(目で見える雲の発生)。その雲粒は、上昇しながら更に大きくなり上空(例えば高度4~6 km程度)で最初の雲粒の100倍近い大きさの雨粒まで成長します。Xバンドの気象レーダでは小さな雲粒は観測できないため、最初に観測されるエコーは上空で大きくなった雨粒によるものです。これがファーストエコーであり、ゲリラ豪雨のタマゴと呼ばれることもあります。このファーストエコーを検知して、その後の成長を監視することで、ゲリラ豪雨の短時間予測(10~20分前)が可能になると期待されています。
エムティーアイが運営する、生活に密着した地域情報も配信する天気総合情報サイト。全国約2,000カ所の市区町村レベルのピンポイントな天気・気温・降水量の予報を1時間おきに発表し、各地の人々の暮らしに役立つ様々な気象情報を提供するサービスです。地震・津波などの災害情報はもちろん、豪雪地帯向けの「吹雪指数」「道路ライブカメラ」、台風多発地域への警報・注意報、その他、火山灰・ダム情報など、簡単に確認でき便利です。サービス及び利用料金など詳細については、スマートフォン、PCで『ライフレンジャー天気』で検索、又はhttp://tenki.life-ranger.jp/ にアクセスの上、ご参照ください。
NICTが新世代ネットワーク技術の実現とその展開のための新たなテストベッド環境として2011年4月から運用を行っている新世代通信網テストベッド『JGN-X』(JGN eXtreme)。先端的開発技術を実利用に近い広域ネットワークであるJGN-Xに実装・展開していくことで、ネットワーク技術や利活用技術の研究開発を推進しています。
科学研究目的に特化したクラウドシステムで、高速バックボーンネットワークJGN-X上に展開された複数のデータセンターで構成される分散型クラウド。データ指向型研究手法による新たな科学研究とクラウド技術の研究開発の2つの研究開発を目的としています。
ブラウザ上で3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)を表示させるための標準仕様。グラフィックスハードウェアのアプリケーションプログラミングインタフェース (API)であるOpenGL(Open Graphics Library)を利用して高速な3DCG描画を実現する技術であるWebGLは、Webページ記述などに用いる言語HTMLの第5版(HTML5)のAPIの一つでもあります。
* Android、Google Playは、Google Inc.の商標です。
* Apple Watch、App Storeは、Apple Inc.の商標です。
* その他、各会社名、各製品名及びサービス名などは、各社の商標又は登録商標です。
本件に関する問い合わせ先
電磁波計測研究所
センシングシステム研究室
センシングシステム研究室
佐藤 晋介
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