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世界初、ヘテロジニアス波長可変レーザの開発に成功

—シリコンフォトニクスと量子ドット技術の融合が、超小型・広帯域光デバイス実現の新機軸に—

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2015年5月13日

国立研究開発法人 情報通信研究機構
東北大学大学院工学研究科

概要

国立大学法人東北大学大学院工学研究科 北 智洋助教、山田 博仁教授及びNICT 山本 直克光通信基盤研究室室長の共同研究グループは、広い波長可変範囲を持つ超小型の波長可変レーザの実現に世界で初めて成功しました。本レーザは、東北大学においてシリコンフォトニクスを用いて開発した高い波長選択機能を持つ超小型の波長可変フィルターチップと、NICTの独自のナノテクノロジーで開発した量子ドットを用いた光増幅器チップとを効果的に組み合わせることで実現しました(参考図)。このようにして実現された波長可変レーザは、従来デバイスの数百分の一のサイズでありながら、広い可変波長範囲を持ちます。本レーザの実現により、光通信システムの更なる大容量化、低消費電力化を図ることが期待されます。本成果は、米国サンノゼにおいて開催される国際会議The Conference on Lasers and Electro-Optics (CLEO)において2015年5月13日に発表され、また関連研究がApplied Physics Express誌に近日中に掲載予定です。なお、本研究の一部は総務省若手ICT研究者等育成研究“大容量光通信用高機能シリコンフォトニック波長可変レーザの開発”の助成のもと実施されました。

研究の背景

現在のインターネットや映像配信などの大量の情報伝送は、光ファイバーを伝送路として光で情報をやり取りする光通信システムによって担われています。異なる波長を用いれば、別々の光信号を一本の光ファイバーを使って伝送できるため、現在の光通信システムでは、80波長以上もの光信号を一本の光ファイバーに束ねて、大量の情報を同時に伝送する事が可能になっています。このようなシステムの中で重要な役割を担うのが、一つのデバイスから様々な波長の光を取り出せる波長可変レーザです。さらに既存の光通信システムの延長線上のみでは今後の爆発的に増加する情報通信量をカバーできないために、従来用いられてきた光通信波長帯を拡大し、より広い波長帯を利用するために量子ドット技術を用いた光通信用デバイスの研究が進められています。例えば現在では1.53~1.57 µmの狭い波長範囲で80波長程度を用いているため、帯域利用が非常に過密で、これ以上の多波長化は困難です。量子ドットの利用によって使用できる波長範囲を広げる事ができれば、伝送できる情報容量を飛躍的に増加させる事が可能になります。量子ドットを用いたレーザは、従来の半導体レーザと比べて様々な長所を持っており、これを利用することで既存のシステムの限界を超える新しい光通信システムを構築する光源となることが期待されています。さらに、アクセス系やデータセンタ、一般家庭などの中・短距離の範囲でこのような高機能光デバイスを利用できるようになれば、社会全体の情報通信の高度化につながるため、光デバイスの小型化・低消費電力化が求められています。

成果の内容

これまでに東北大学の研究グループでは、トランジスタなどの電子集積回路に用いられてきたシリコンとその製造プロセスを利用する事で、非常に小型で高機能な光デバイスを低コストに実現することが可能となるシリコンフォトニクス技術の研究開発を進めてきました。一方でNICTでは、独自に開発した高密度・高品質自己形成量子ドット作製技術を応用する事で、従来の光通信技術で用いられてきた波長である1.55 µm帯よりも短い波長1.0 µm~1.3 µmにおいて動作する広帯域光デバイスの開発を進めてきました。
本研究では、シリコンフォトニクスと量子ドット技術という二種類のナノテクノロジーを効果的に融合し、それぞれの長所を生かすことで従来にない超小型でありながら広い波長範囲で使用できる波長可変レーザの開発に成功しました。それぞれの技術は製造方法や材質が異なるために、従来は一体化が困難でしたが、両者を効率よく結合する技術の開発によって世界で初めて波長可変動作が可能になりました。参考図にシリコンフォトニクス技術を用いて作製したシリコンフォトニクスチップを示します。本チップは、幅400 nm×高さ220 nmの非常に微細な光の通り路(シリコン細線光導波路)によって構成された二つのリング共振器によって特定の波長のみが選択される波長フィルターの役目をはたしており、チップ上に形成したマイクロヒーターによって選択波長を自由に制御することが可能です。この波長可変フィルターチップと量子ドット光増幅チップとを結合させたものがヘテロジニアス(異種材料集積)波長可変レーザです。このようにして開発した波長可変レーザは、従来の量子ドット波長可変レーザでは数cm角程度の大きさが必要だったのに対して3mm×1mm程度と非常に小型であり1.200~1.244 µmの波長範囲で良好な波長可変動作を示しました。このように面積にして数百分の一以上の小型化が達成され、消費電力や応答速度も大幅に低減されました。

今後の展開

本研究によって開発したヘテロジニアス-シリコン/量子ドット超小型波長可変レーザの波長範囲をさらに広げていく事で、光通信システムの更なる大容量化が可能になっていきます。超小型・低消費電力でありながら光通信の情報量を飛躍的に増大させる可能性を持つ本波長可変レーザは、今後のビッグデータの利活用などによって急激に増加する情報通信を根底で支えるキーデバイスとなることが期待されます。

外部発表概要

会議名:The Conference on Lasers and Electro-Optics(CLEO) 
論文タイトル: " Ultra-compact Wavelength Tunable Quantum Dot Laser with Silicon Photonic External Cavity"
著者: Tomohiro Kita, Naokatsu Yamamoto, Tetsuya Kawanishi, and Hirohito Yamada

雑誌名:Applied Physics Express
論文タイトル: " Ultra-compact Wavelength-Tunable Quantum-Dot Laser with Silicon-Photonics Double Ring Filter"
著者: Tomohiro Kita, Naokatsu Yamamoto, Tetsuya Kawanishi, and Hirohito Yamada



参考図


ヘテロジニアスシリコンフォトニクス/量子ドット波長可変レーザの外観。
大きさは3mm×1mm程度。シリコンフォトニクスチップと量子ドット光増幅チップを結合。
[画像クリックで拡大表示]



用語説明

シリコンフォトニクス

光ファイバーなどの光学デバイスの材質は一般的に石英ガラスが用いられています。石英ガラスよりも強く光を閉じ込める事が可能なシリコンを用いて光学デバイスを作製する技術として注目を集めているのがシリコンフォトニクスです。光閉じ込めの強いシリコンを光の通り路にすることで非常に小さなサイズで光の制御が可能になり光学デバイスの大幅な小型化・低消費電力化が実現できます。また、トランジスタなどの電子デバイスを作製する技術を用いて光デバイスを作製できるため、製造コストの低減や電子デバイスと光デバイスを一つのチップに集積化させることも可能になると考えられています。

量子ドット

量子ドットとは、ナノメートルスケールの微小な粒で、半導体結晶で構成されています。この微小な構造を発光材料や光増幅材料として光デバイスなどに用いると、従来困難であった長波長・広帯域動作が可能となります。また、この量子ドット構造の光デバイスは、低消費電力化などの低環境負荷・グリーン技術としても期待されています。さらには、太陽電池への応用や量子情報通信技術への応用も期待されています。

波長1.0 µm~1.3 µm帯

光ファイバー通信には1.55 µm帯(Cバンド)の光が用いられていますが、利用可能な波長域が狭く、波長資源の枯渇が懸念されます。波長1.0 µm~1.3 µm帯(Tバンド:1.0~1.26 µm、Oバンド:1.26~1.36 µm)の新規帯域には膨大な波長資源が潜在し、中・短距離光通信用の新たな波長帯域として注目されています。また、この波長帯域は生体の窓としても知られ、バイオイメージング等の医療応用にも期待されています。

ナノメートル

1ミリメートルの100万分の1で、約10個分の原子を並べた長さに相当します。



お問い合わせ先

東北大学工学研究科

担当:山田 博仁
電話番号:022-795-7101
E-mail:

国立研究開発法人 情報通信研究機構

担当:山本 直克
電話番号:042-327-6982
E-mail:

担当:北 智洋
電話番号:022-795-7102
E-mail:

広報
電話番号:042-327-6923
E-mail: