実験データの解析
fMRI実験の解析では、まず、信頼ゲームにおける45回の試行それぞれに対し、“罪悪感”(相手の期待と実際の差)と“不平等”(相手と自分の取り分の差の絶対値)を計算します。次に、これらの変数とfMRI計測で得られた脳の血流データとの相関解析を行うことで、“罪悪感”と“不平等”を表現する脳の部位を探しました。この解析の結果、“罪悪感”と“不平等”に相関する部位は、それぞれ右前頭前野(図3左参照)と、扁桃体と側坐核(図4参照)でした。
図2は、“自分の報酬”、“罪悪感”、“不平等”が協力行動に大きな影響を持つことを示しています。したがって、各被験者が協力か非協力かの行動を決めるのに使う基準(効用関数)は、“自分の報酬”、“罪悪感”、“不平等”を用いて以下の式で書けるはずです。式中のβ1からβ3は、各被験者が“自分の報酬”、“罪悪感”、“不平等”を重視する程度を示しており、個人ごとに異なります。例えば、“罪悪感”を避ける被験者ならβ2が大きくなり、“不平等”を避ける被験者ではβ3が大きくなります。β1からβ3は、各被験者の行動結果(協力か非協力か)を用いた最適化計算で求めることが可能で、図3右の協力する程度にはこれらの値が用いられています。
効用 = β1×自分の報酬 - β2×罪悪感 - β3×不平等
経頭蓋直流電流刺激の実験
経頭蓋直流電流刺激の実験では、fMRI実験とは別の22名の被験者にfMRI実験と同じ課題を3日間あけて2度行っていただきました(課題の長さは552秒、直流刺激条件と比較条件、条件の順序はランダムにしました。)。直流刺激条件では、課題開始の5分前から2mAの刺激を開始し、課題中も連続して刺激を行いました。一方で、比較条件では、最初の30秒だけ(つまり、課題開始の5分前から4分30秒前まで)刺激を行い、その後は刺激を止めました。被験者には、その日の体調により経頭蓋直流電流刺激の感じ方には差が生じるという教示を行ったこともあり、全実験終了後に両条件の差をレポートした被験者はいませんでした。
右前頭前野に経頭蓋直流電流刺激を行うことで生じた信頼ゲーム中のβの変化が図3右です。直流刺激条件では、比較条件と比較して、β2つまり“罪悪感”の影響が有意に増加しました。これに対し、“不平等”の影響(β3)は変化しませんでした。この結果は、右前頭前野の脳活動が表現する“罪悪感”と協力行動の間の因果関係を示しています。