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準天頂衛星初号機「みちびき」と技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」を用いたGPS津波計からのデータ伝送実験を開始

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2013年12月16日

高知工業高等専門学校(高知高専)、東京大学地震研究所(東大地震研)、宇宙航空研究開発機構(JAXA)、情報通信研究機構(NICT)及び日立造船株式会社(Hitz)は、標記の実験を12月16日から開始しました。高知県室戸沖に設置しているGPS津波計(高知県の黒潮牧場16号ブイ)で津波や波浪を観測するために必要なデータを準天頂衛星初号機「みちびき」を用いて送り、観測結果を技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」を用いて陸上に伝送する実験です。
この実験は、平成24年度に実施した基礎実験(技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」を用いたGPS津波計からのデータ伝送実験)の成果に基づいて、より完成度の高いシステムとして実証することを目的としています。最終的には、将来の「防災等に資する情報通信衛星」の全体像を明確にすることを目指しています
本実験は、科学研究費基盤研究(S)21221007及び文部科学省平成25年度宇宙科学技術推進調整委託費でサポートされています。
 

本実験を通して、東日本大震災で提起された以下の課題に対して、衛星によるデータ伝送が有効であることを実証します。
(1)GPS津波計のさらなる沖合展開
GPS精密測位による津波・波浪・潮汐の観測には、鉛直方向についてcmオーダーの分解能、精度及び速報性が必要であり、津波観測には100kmを超す沖合のデータが望まれます。従来は、陸上の基準局からの距離が20km程度に限定される課題がありましたが、本方式では衛星のサービスエリア内であれば距離の制約がなくなります。
(2)被災地域の通信網の寸断に対する対策
従来は陸上の通信網に依存していたため大規模な停電で使用できなくなりましたが、本方式では衛星を使用するので被災地から離れたところにデータを伝送することで停電の影響を受けなくなります。

図1 実験構成
図1 実験構成

各機関の役割分担

・高知工業高等専門学校:全体総括。
GPS津波計の津波波浪観測データの出力,実験結果の評価とまとめ。
・東京大学地震研究所 :実験結果に基づく次世代津波防災システムの検討。
・宇宙航空研究開発機構:「みちびき」から精密暦(衛星の時計と軌道)を発信。
「きく8号」でGPS津波計の観測結果を受信して陸上局へ伝送。
実験結果に基づく次世代情報通信衛星への要求仕様の検討。
・情報通信研究機構  :GPS津波計から「きく8号」へのデータ送受信の機器・システム開発。
陸上伝送及び次世代通信衛星の平時データ利用の検討。
・日立造船株式会社  :「みちびき」から発信する精密暦(衛星の時計と軌道)の生成。
GPS津波計のPPP-AR測位結果出力装置の設計製作。



詳細情報

今回の実験の背景

GPS津波計は、宇宙技術を活用した新しい海面変位計測装置として開発してきました。東日本大震災時には、国土交通省港湾局がGPS波浪計として東北地方を含む全国に15基を配備しており、リアルタイムでデータが公開されていました。各種マスコミで報じられたとおり、釜石沖のGPS波浪計が観測した津波高さのリアルタイムデータは6.7mを示し、気象庁はこのデータを含む複数のデータを根拠に津波警報を引き上げました。残念なことに、この第1波の観測データを発信した後、被災地域の大規模な停電によって、通信網は寸断され、それ以降のリアルタイムデータが発信されなくなってしまいました。ただし、観測データそのものは高台に設置された基準局のバックアップ電源の下、完全な津波波形が記録保存され、その後の種々の解析に活用されています。

平成24年度に実施した基礎実験結果

「きく8号」によるデータ伝送実験は、高知県室戸岬沖(約35km)の海上ブイに設置しているGPS津波計で観測した波浪情報を、静止衛星の「きく8号」を用いて陸上に送る実験でした。室戸岬沖では、高知高専や東大地震研などの科研費研究チームがGPS津波計の沖合展開のための機能拡大実証実験を進めています。災害等の非常時に強いデータ伝送手段として衛星回線を利用することを目指し、NICTはJAXAの超小型端末を活用した小型センサ局を開発し、平成24年10月24日から海上ブイに小型センサ局を設置してデータ伝送実験を行いました。伝送したデータは、室戸岬沖のGPS津波計上で計測したデータだけを用いて海面変位をcmのオーダーで精密に単独測位できる単独精密変位測位法(PVD法-Point precise Variance Detection method)で得られる波浪データを用いました。
洋上に設置して波や潮流に揉まれるブイ上から観測データを長期間・連続的に衛星回線で伝送するためには、ブイに設置する衛星通信用アンテナの指向性の問題や通信装置等の省電力化が課題となります。この課題を解決するため、小型センサ局と大型展開アンテナ(19m×17m)を持つ「きく8号」のシステムとしての有効性の確認・検証を行いました。データ伝送の結果は満足出来るものでしたが、アンテナの改良などの技術的課題も明らかになりました。

今回の実験の技術的特徴

今回の実験における技術的な特徴を示します。
(1) 早期津波警戒システムへの貢献
東日本大震災時に提示されたGPS津波計の沖合展開と通信網の寸断に対応するには、GPS測位法の改善と、発生した地震・津波による被害の無い地域へ津波のデータを伝送することが必要です。GPS測位法の改良に目処が立っている現状では、第2の課題のデータ伝送方法への取り組みが喫緊の課題であり、図1に示した構成でこれを克服して理想的な早期津波警戒システムを確立します。
(2) GPS測位法からの要請事項
洋上のGPSブイのGPS観測データだけで津波・潮汐を観測できるようにする課題につきまして、既に周期30秒程度までの短周期の波浪については、平成24年度の実験に用いたPVD法によって解決されています。しかし、長周期の津波・潮汐の観測には、新たな視点での検討が必要でした。これには、国土地理院が全国に約1200カ所展開している電子基準点を用いてGPS衛星の位置と時計を正確に求め、この伝送負担の小さいデータをブイで計測するGPSデータに適用して測位するPPP-AR法(Precise Point Positioning with Ambiguity Resolution)によって、海面の鉛直方向変位を求めていくことが出来るようになりました。この方法を適用するには、伝送量が少ないながらもGPSブイにGPS衛星の精密暦(軌道と時計)を送る必要があります。この役割を担うのが「みちびき」になります。
(3) 「みちびき」と「きく8号」
「みちびき」から伝送された精密暦は、ブイ上でPPP-ARによる測位結果として、津波、波浪、潮汐のデータが出力されます。その結果は、「きく8号」を用いて陸上に伝送することになります。この部分だけを抜き出したシステムを図2に示します。「みちびき」から発せられる精密暦は、将来、日本近海への配置が期待される多数のGPSブイに同時配信、すなわち放送的に伝送されます。「きく8号」の果たす役割は、将来の「防災に資する通信衛星」に委ねられることになります。
これらの検討によって、衛星回線を用いたデータ伝送手段が確保できれば、衛星のサービスエリアの範囲内で離岸距離の制限無く大洋のいずれの位置にもGPS津波計を設置することが可能になり、東日本大震災によって明瞭に提起された課題を克服することができるようになります。


図2 「みちびき」と「きく8号」を用いたGPS津波計データ伝送実験
図2 「みちびき」と「きく8号」を用いたGPS津波計データ伝送実験
データ伝送実験結果

津波データ伝送システムとして構成した図1の実験システムで得られた室戸沖の波浪。津波データは、12月16日(月)から12月27日(金)の間、http://www.tsunamigps.com/でリアルタイムデータ公開をします。ご覧になって下さい。



用語 解説

準天頂衛星初号機 「みちびき」(JAXAホームページより)

カーナビやGPS機能がついた携帯電話の普及によって、人工衛星を使った測位情報は私たちの暮らしに欠かせないものとなりました。測位衛星により位置を特定するためには、最低4機の人工衛星から信号を受信する必要がありますが、これまで日本国内の都市部や山間地では、高い建物、山などが障害となって4機の人工衛星からの測位信号が届かないことがあり、測位結果に大きな誤差が出ることがたびたびありました。準天頂衛星システムは、「準天頂軌道」と言う日本のほぼ天頂(真上)を通る軌道を持つ人工衛星を複数機組み合わせた衛星システムで、現在運用中のGPS信号やアメリカが開発を進めている新型のGPS信号とほぼ同一の測位信号を送信することで、日本国内の山間部や都心部の高層ビル街などでも、測位できる場所や時間を広げることができます。
さらに準天頂衛星システムは、補強信号の送信等により、これまでの数十m程度の誤差だったGPSに比べて、1m程度、さらにはcm級へ測位精度の向上を目指しています。

技術試験衛星Ⅷ型(Engineering Test Satellite Ⅷ)「きく8号」

技術試験衛星Ⅷ型は2006年12月18日にH-ⅡAロケットで種子島より打ち上げられた衛星です。大型の展開アンテナを搭載し、衛星の送受信性能を大きく向上させることで、地上では小型携帯端末で静止衛星と直接通信が可能となる等の特徴があります。残念ながら、受信用の大型展開アンテナは不具合が生じていますが、送信用の大型展開アンテナ及び受信用にバックアップ用アンテナを用いて実験を継続しています。
現在は後期利用段階であり、JAXAが衛星の管制運用を行い、東日本大震災での自治体への通信回線提供支援を踏まえ、災害発生時の通信手段の確保及び災害対応センサを用いた監視データにより災害発生予測や被害の軽減を図ることを目的とした防災利用実証実験を実施しています。災害対応センサは、山間部、海上及び僻地などの通信回線や電力の供給が無い場所からでも小型地球局を設置して気象情報や災害の早期検出のための情報収集を行うことが出来、本実験のGPS津波計は津波を早期検出するための重要なセンサと考えています。

PVD法(Point precise Variance Detection method)

RTK法は、観測位置を世界測地系の座標値として精密に求める方法です。RTK法を用いる場合は、その鉛直方向位置の時系列の変化を海面変動としています。一方、PVD法は、座標値を求めるのではなく、観測を行う度に前回の計測位置との変化量を直接求める方法です。これには、観測点と複数個のGPS衛星との間の距離と方角のデータを必要とします。距離の計測にはGPS電波の搬送波位相を用い、この中に含まれる衛星軌道成分、誤差要因などをフィルタリングして用いています。これによって、基準局のデータのくびきから解き放たれ、ブイ上のGPS観測データだけで浮体の時々刻々の変位を計算することが出来ます。現在、実用性が確認されているのは、周期30秒程度以下の波浪観測であり、室戸岬沖の実証実験(http://www.tsunamigps.com/)で公開中の波浪データの表示は、PVD法によって求めた結果です。科研費研究チームによって開発された測位法であり、日米加の特許を取得しています。

PPP-AR法 (Precise Point Positioning with Ambiguity Resolution)

PPP-ARは、観測位置を世界測地系の座標値として精密に求める方法です。RTK法との違いは、陸上の基準局で計測されたGPS電波の搬送波位相データを必要とせず、GPS衛星の精密暦(時計と位置)があれば、ブイ上のGPS観測データだけで浮体の座標値を計算することが出来ることです。PPP法は、多くの研究者によって取り組まれているが、ここで採用したPPP-ARは米国のGPS Solutions社と日立造船が開発したものです。国土地理院の電子基準点データからGPS衛星の精密暦を算出し、精密測位において必要とする整数値アンビギュイティを解くことによって実現されています。精密暦と測位計算結果の伝送方法が課題となっていました。



本実験内容についての問い合わせ先

高知工業高等専門学校

教授 寺田 幸博
TEL: 088-864-5586
E-mail:

各機関 取材等の問い合わせ先

高知工業高等専門学校:寺田 幸博
E-mail:

東京大学地震研究所:加藤 照之
E-mail:

宇宙航空研究開発機構:広報部 
Tel. 050-3362-4374 Fax. 03-3258-5051

情報通信研究機構:広報部 
Tel. 042-327-6923 Fax. 042-327-7587

日立造船株式会社:総務・人事部 
広報グループ Tel. 06-6569-0013
東京総務グループ Tel. 03-6404-0802