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世界で初めて「19コア一括光増幅器」の開発に成功

~マルチコアファイバによる大容量・長距離光通信の実現に大きく前進~

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2013年9月18日
ポイント

    • 1本の光ファイバで19本分の大容量の長距離光伝送を可能とする19コア一括光増幅器原理実証機を開発
    • レンズを用いた空間光学系方式の採用により、従来19台必要であった光増幅器を1台に高効率集約
    • 増大し続ける通信トラフィックを支えるためのマルチコアファイバ長距離伝送システムの実現に期待

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、古河電気工業株式会社(以下「古河電工」、代表取締役社長: 柴田 光義)、その子会社であるOFS Fitel, LLC (以下「OFS」、CEO and Chairman:ティモシー・マレー)、及び株式会社オプトクエスト(以下「オプトクエスト」、代表取締役: 東 伸)と共同で、マルチコアファイバ伝送用の「19コア一括光増幅器」の開発に世界で初めて成功しました。
マルチコアファイバは、光ファイバ1本あたりの伝送容量を拡大する次世代技術として実現が期待されていますが、複数のコア(光の通り道)があるため、長距離伝送に必要な光増幅器の小型・集積化が難しく、マルチコアファイバを用いた長距離伝送システムの実用化の障壁となっていました。今回開発した19コア一括光増幅器は、19のコアの中を流れる光信号を一台で一括増幅することができ、マルチコアファイバを用いた大容量・長距離光通信の実現を大きく前進させるものです。

背景

現在、スマートフォンなどの普及によりインターネットの通信量は年率40%に達する勢いで増大していますが、それを支える光ファイバに挿入することができる光エネルギーには上限があり、現状のままでは物理的な伝送容量の限界を迎える可能性が指摘されています。そこで、この限界を超えるため、1本の光ファイバに複数のコア(光の通り道)を配置したマルチコアファイバの研究が進められています。しかし、マルチコアファイバを用いた長距離伝送に必要な光増幅器の研究については、コアの数だけ光増幅器が必要な個別励起方式による伝送実験はあるものの、光増幅器が1台で済む一括励起方式については動作実証が報告されているだけで、実用に適した小型で高効率、経済的な光増幅器の開発が求められていました。

今回の成果
今回開発した、光増幅用19コアファイバの断面図
今回開発した、光増幅用
19コアファイバの断面図

このたび、19コアファイバ(2012年3月報道発表)に適合する「19コア一括光増幅器」の開発に成功しました。光増幅器は、信号光と励起レーザー光の合波器、増幅用光ファイバ、アイソレータから構成されています。NICTは基本設計と伝送評価を担当、古河電工とOFSは伝送及び増幅用19コアファイバを作成、オプトクエストは光合波器とアイソレータを製作しました。
今回開発した光増幅器の特徴は、レンズを用いた空間光学系方式の採用によって、複雑な光ファイバ加工技術によらずに、複数コアの光信号と励起レーザー光を一括に効率的に合波する光合波器と、増幅後の通信光が反射して再び増幅器に入射することを防ぐ19コア一括アイソレータを実現したことです。これにより、コア数の分の増幅器が不要な、1台で19コア分の光信号を効率的に増幅できる、小型、省エネ、経済的な光増幅器原理実証機を開発できました。空間光学系方式は、簡単にコア数を減らせることから、19コア以下の様々なコア数のマルチコアファイバについても、小型・高効率・経済的な光増幅器を開発することができます。
また、今回、19コアファイバにおいて課題とされていたコア間干渉雑音を抑圧するために、コアの配置を改良しました(補足資料 図2参照)。今後、飛躍的に増大する通信トラフィックに対応するため、マルチコアファイバを用いた長距離伝送システムの実用化が加速していくものと期待されます。

今後の展望

NICTでは、マルチコアファイバ長距離伝送の早期の実用化を目指し、通信事業者やメーカーとの取組を一層推進するとともに、光増幅器の更なる低雑音・高出力化などの性能向上を図りながら、19コア以下の実用的なマルチコアファイバに対しての適用を進めていきます。
なお、本研究成果については、「欧州光通信国際会議(ECOC2013)」(9月22日(日)~26日(木)、英国・ロンドンにて開催)に採択され、9月26日(木)に発表します。



補足資料

図1 今回開発した「19コア一括光増幅器」構成図
図1 今回開発した「19コア一括光増幅器」構成図



今回開発した19コア一括光増幅器の各構成機器の特徴は、下記のとおりです。

(1) 光合波器:
空間光学系の方式により、マルチコアファイバの19個の信号光と19個の励起レーザー光をぴたりと合わせることを可能とし、無駄のないエネルギー供給を実現
 
空間光学系の方式による一括合波方式 →

(2) 増幅光ファイバ:
コア間干渉による信号雑音を軽減するために、コア配置を改良した19コア増幅光ファイバ。各コアにエルビウムイオンが添加されており、励起光レーザーにより励起されたエルビウムイオンが信号光を増幅する。

(3) 19コア一括アイソレータ:
空間光学系の方式により、世界で初めて一括処理を実現した19コア一括アイソレータ。増幅された光信号の反射を抑え、増幅器のレーザー発振動作を防ぐ。

19コア一括アイソレータ →



図2 新型19コアファイバ(左) と 従来の19コアファイバ(右)の比較
図2 新型19コアファイバ(左) と 従来の19コアファイバ(右)の比較


従来の19コアファイバは、コアを六角格子上に配置していましたが、新型は同心円上に配置し、コア間干渉雑音を抑圧し、長距離化が可能となりました。



用語 解説

信号光と励起レーザー光との合波方式

伝送された光信号を光のまま増幅するには、最初に信号光と、レーザーで生成した異なる波長の光(励起光)を合わせて(合波して)、増幅用の光ファイバに入射する。増幅用光ファイバでは、励起光のエネルギーが希土類イオン(一般にはエルビウムイオン)を通じて信号光に供給され、増幅が起きる。複数のコアを持つマルチコアファイバでは、各コアの信号光とレーザー光を合波する必要があり、いくつかの方式が検討されているが、光ファイバとの接続が容易で損失が小さく、増幅効率の高い光増幅器は実現されていない。
・個別励起方式:
マルチコアファイバの各コアとシングルコアファイバをファンイン・ファンアウトを使って接続し、その後に個々にシングルコア用増幅器を接続し、合波を含めた増幅処理を行う。マルチコアファイバとシングルコアファイバとの接続方法やコア数の分の増幅器数が必要であり、実用化は難しいとされている。
・クラッド励起方式:
マルチコアファイバのコアの周囲(クラッド)にレーザー光を当て、そのレーザー光の一部が各コアの信号光に合波する方式。必要なコア以外に光が漏れ、エネルギー損失が大きく、効率の改善に課題を残す。

個別励起方式によるマルチコアファイバ対応の光増幅器の構成
個別励起方式によるマルチコアファイバ対応の光増幅器の構成
19コアファイバ

2012年3月にNICTが報道発表を行った (https://www.nict.go.jp/press/2012/03/08-1.html)。
光の通り道(コア)を複数持つマルチコアファイバは、伝送容量の拡大に非常に有効であり、19コアは世界最高密度の伝送用マルチコアファイバである。

アイソレータ

信号を一方方向のみに伝達し、逆方向への伝達を阻止する素子。光増幅器内の重要な部品で、光信号の反射を抑え、増幅器のレーザー発振動作を防ぎ、増幅信号を確実に出力させる。これまでは、複数コアの信号を同時にアイソレートできる素子は実現していなかった。

空間光学系の方式

特殊な光ファイバ加工技術などを使って結合系を実現する方式と異なり、レンズを使ってマルチコアファイバの各コアの入出力を一括に操作する方式。マルチコアファイバを含む空間分割多重方式との親和性が高く、多重数の増加や光学素子の挿入などに柔軟に対応できる。

コア間干渉雑音

マルチコアファイバでは、コア間が近接しているため、あるコアから漏れた信号が他のコアに侵入し、干渉することで雑音が発生することがある。19コア光ファイバは、コア間が非常に狭く、コア間干渉雑音を抑制するのは高度な技術が必要である。

ファンイン・ファンアウト(fan-in・fan-out)

マルチコアファイバ伝送システムにおいて、マルチコアファイバの各コアとシングルコアファイバを接続するためのデバイス(光素子)。接続時におけるコア間信号干渉抑圧、挿入損失の低減、各コアの偏差の最小化、量産性確保などの種々の課題を解決する必要があり、様々な方式が研究されている。



本件に関する 問い合わせ先

光ネットワーク研究所
フォトニックネットワークシステム研究室

淡路 祥成
Tel: 042-327-6337
E-mail:

広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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