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わずか10分!上空9,000mからの地表面観測データを機上で即時処理・地上へ伝送

~高分解能航空機搭載映像レーダ(Pi-SAR2)で桜島を緊急観測~

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2013年8月28日

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 坂内 正夫)は、噴煙や雲の影響を受けることなく地表面を観測することができる、高分解能航空機搭載映像レーダ(略称: Pi-SAR2)の観測データの高速機上処理技術の開発を進めてきました。このたび、平成25年8月18日に発生した桜島昭和火口での爆発的噴火に伴い、桜島周辺の緊急観測を8月20日に実施し、観測画像を直ちに気象庁を通じて火山噴火予知連絡会等関係機関に提供しました。今回の観測では、これまで観測後1日程度要していた偏波疑似カラー画像の提供時間について10分程度までの大幅な短縮を実証しました。なお、今回の地上に伝送された画像データの解析からは、火口及び火砕流が発生したとされる領域において、本年1月観測時からの顕著な変化は認められませんでした。

背景

NICTが開発したPi-SAR2は、Xバンドの電波を利用することにより噴煙の有無、天候、昼夜等に関係なく地表面を映像化することができます。また、Pi-SAR2は合成開口処理により、世界最高レベルの空間分解能(30cm)を有しています。しかしながら、機上ではスペースと電力の制約により観測データから地上の対象を詳細に識別できる偏波疑似カラー画像を作成することは困難でした。このため、観測画像を迅速に提供するためには、機上における高速画像処理を実現する必要がありました。

今回の成果

NICTでは、Pi-SAR2による観測画像の迅速な提供を実現するため、CPUより10倍以上高速な演算能力を有するGPUを利用した高速機上画像化処理装置を開発しました。

今回の爆発的噴火後(8月20日)の噴煙が立ち上る昭和火口とその周辺の地表面を上空約9,000 mから観測した観測データを機上で偏波疑似カラー画像化処理を行い、商用通信衛星(インマルサット衛星)経由で地上に伝送することで、これまで観測後1日程度要していた偏波疑似カラー画像の提供時間を10分程度までの大幅な短縮を実証しました。

観測結果
(左) 航空機内からデジタルカメラで撮影した桜島
(左) 航空機内からデジタルカメラで撮影した桜島
(右) 高速機上処理装置により画像化し、地上に伝送した桜島昭和火口の偏波疑似カラー画像

8月20日に県営名古屋空港を離陸し、13時から約1時間半の間に様々な方角から複数回桜島の観測を実施しました。この画像データは、14時頃に桜島の南西から観測した2km四方の画像で、15時過ぎに地上へ伝送されました。Pi-SAR2の高い空間分解能により火口や山の斜面の細かい起伏形状等を見て取ることができます。地上に伝送された画像は、直ちに気象庁を通じて火山噴火予知連絡会等関係機関に提供されました。

今後の展望

機上処理装置の高速化により、これまで東日本大震災の観測時には処理できなかった機上での偏波疑似カラー画像の作成と衛星回線を用いた画像データの早期配信を実現できました。

今後の課題としては、①機上処理装置の更なる高速化及び高機能化(配信用情報を付加したHTML出力機能付加等)、②高精細/広範囲の処理画像を送るため、より大容量の通信回線の整備等を積極的に検討していきます。

本件に関する詳細は



補足資料

Pi-SAR2について
ガルフストリーム機に搭載された “Pi-SAR2”
両翼の付根に設置された2つのアンテナポットに、送信用のアンテナと受信用のアンテナが格納されている(赤線枠内)。

Pi-SAR2(パイサーツー)は、NICTが開発したXバンドのマイクロ波を利用した航空機搭載映像レーダです。マイクロ波を利用しているため、雲や火山噴煙に遮られることなく、天候が悪い時や夜間でも地表面を観測することができます(全天候性)。また、世界最高クラスの空間分解能(30cm)を有しており、地上に何が写っているかを従来のレーダよりも詳細に観測できます。

さらに、本レーダは、画像の視認性・判読性を向上させるポラリメトリ観測機能や地上の高さ方向の情報を得ることができる観測機能、車両や船舶等の移動体を検出することが可能な観測機能を有しています。

今回開発した高速機上処理装置について

今回、CPUと比べて10倍以上高速なGPUを利用した画像化処理技術を導入することにより、機上で、観測と観測の合間の短時間に記録部から必要なデータのみ切り出し、偏波疑似カラー画像化することができるようになりました。処理時間は、2km四方の偏波疑似カラー画像で5分弱程度です。また、生成された画像データは、商用通信衛星経由で地上に伝送することができます(下図参照)。

高速機上処理装置を用いた画像データの伝送のイメージ
観測当日の桜島の画像


Pi-SAR2の観測で得られた偏波疑似カラー画像
実際の観測時には、雲や噴煙により、火口付近様子を目視では確認できませんでした(下図参照)。

上記のPi-SAR2の観測時に、航空機内からデジタルカメラで撮影した桜島の火口付近



用語 解説

映像レーダ(合成開口レーダ、SAR : Synthetic Aperture Radar)

小型のアンテナで受信信号強度と位相を正確に記録し、これをコンピュータで処理して高い空間分解能の画像を得ることができるレーダ。マイクロ波を送信して地表面から戻ってくる信号を受信するため、天候が悪い時や夜間でも地表面を観測することが可能である(全天候性)。

ポラリメトリ観測機能と偏波疑似カラー画像

物体は、任意の電波の偏波に対し固有の偏波を反射する。この性質を用い、偏波の組み合わせで地表面を観測し、それぞれの場合の散乱信号を精密に測定し、これらを利用して対象を詳細に識別する機能をポラリメトリ観測機能という。Pi-SAR2では垂直偏波 と水平偏波の電波を観測に使用している。これらの電波を組み合わせて得られた偏波観測データにRGBを割り当てることで得られる疑似カラー画像を偏波疑似カラー画像という(下図右)。

紀伊半島で発生した土砂崩れの状況を観測した画像(2011年10月7日)
左は単偏波画像、右は、偏波疑似カラー画像
偏波疑似カラー画像では色が異なるため土砂崩れ位置(赤線枠内)の同定が容易であるのに対して、単偏波画像では困難
Xバンド

レーダに使用されるマイクロ波(1GHz~40GHzの周波数の電波。1GHzは10の9乗ヘルツ)の周波数をいくつかの帯域に分けて呼ぶ慣習的な呼び方。Xバンドは約10GHzのマイクロ波のこと。

空間分解能

地上の物体の大きさがどこまで識別できるかの尺度。例えば、30cmの空間分解能とは、「30cm以上離れた2つのものが映像の中でも2つに分かれて見える」という意味

GPU(Graphics Processing Unit)

PCやワークステーションの画像処理を行う主要な部品の一つ。GPU内の1つ1つのプロセッサは、CPUのプロセッサと比較してその機能・性能は限定的であるが、GPUは非常に多くのプロセッサを有しているため、大量のデータを複数のプロセッサで同時かつ並列処理することができる。このため、GPUに最適化したプログラムを作成することにより、CPUよりも10倍以上高速に計算をすることが可能となる。スーパーコンピュータでもGPUを利用したものが存在する。

インマルサット衛星

インマルサット衛星はインマルサット社の移動体通信を行う通信衛星。通信速度は332kbps(最大)



本件に関する 問い合わせ先

電磁波計測研究所
センシングシステム研究室

上本 純平
Tel: 042-327-6584 
Fax: 042-327-6666
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
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