スマートフォンやタブレット端末が爆発的に普及し、動画視聴など、大容量通信の要求がますます高まる中、周波数資源のひっ迫問題が深刻化しています。その解決方法の一つとして、テレビ放送帯(470~710MHz)におけるホワイトスペース(テレビ帯ホワイトスペース)の活用が検討されており、米国や英国などでその運用に当たって制度設計が始まっています。NICTは、このテレビ帯ホワイトスペースを活用するための様々な無線通信システムの標準化活動に貢献し、これまでに、テレビ帯ホワイトスペースで運用可能な基地局及び据置型端末の開発を行ってきました。今後、携帯型の端末でのホワイトスペースの利用が可能になれば、周波数資源の有効利用が期待できます。しかしながら、対象とするテレビ帯ホワイトスペースでの運用周波数が従来の周波数(2.4GHz)よりも低く、かつ帯域も広いため、部品や回路規模の小型化が難しい問題がありました。また、テレビ放送への干渉回避技術を実装する必要もあり、携帯サイズのホワイトスペース機器開発は困難でした。一方で、テレビ帯ホワイトスペースの利用を検討するためには、実運用を想定した伝搬特性評価が必要でした。
独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:坂内 正夫)は、テレビ放送帯で通信可能な携帯型タブレット端末を世界に先駆けて開発しました。今回開発した端末は、NICTが開発したホワイトスペースデータベースに問い合わせ、テレビ放送帯(470~710MHz)のホワイトスペースで無線LANの技術を活用した移動通信システムの運用を行うものです。また、無線LANの従来の周波数(2.4GHz)も利用でき、ネットワークマネージャの制御により、トラフィック量などに応じて自動で通信周波数帯を切り替えることが可能です。今後、携帯型タブレット端末によるホワイトスペースの利用が可能になれば、据置型の機材を利用した固定地点間の通信だけでなく可搬利用の道も開け、また、さらなる周波数資源の有効利用が期待できます。
今回NICTは、UHF帯での通信が可能な携帯型Androidタブレット端末を世界に先駆けて開発しました。本端末は、新たに開発したテレビ帯ホワイトスペースで動作させることのできる周波数変換装置を市販のタブレット型端末に内蔵したものです。既存の無線LANシステム(IEEE802.11b/g)の技術を活用した移動通信システムとして2.4GHz帯及びテレビ放送帯のいずれでも通信可能で、ホワイトスペースにおいてはNICTがこれまでに開発したホワイトスペース無線LAN基地局を介してインターネットへのアクセスが可能です。また、この携帯型タブレット端末は、NICTが開発したホワイトスペースデータベースにアクセスすることで、テレビ放送に干渉を与えないと考えられる周波数での運用が可能です。また、ネットワークマネージャからの制御により、トラフィック量や干渉量に応じて自動的に最適な周波数を選択します。
その他にも、本携帯型タブレット端末には以下の機能が実装されています。
ホワイトスペースにおける移動通信の利用には課題が多く、実運用の実現に向けては、テレビ放送への干渉を確実に回避するためのホワイトスペース判定方法の策定が必要です。NICTでは、今後、本端末を用いて伝搬特性評価などを行い、技術基準及び制度設計に資する情報を提供していく予定です。一方で、テレビ帯ホワイトスペース利用の通信規格の標準化活動に引き続き貢献するとともに、社会還元を見据え、今回開発した端末の要素技術などを応用し、これらの通信規格に準拠した小型携帯端末の開発も同時並行で進めていきます。
補足資料
今回開発した携帯型タブレット端末(図1)は、市販のタブレット型端末に周波数変換装置を取り付けたシンプルな構成(図2)を採用しています。携帯型タブレット端末には、周波数変換装置とその制御装置が追加実装されており、携帯可能なテレビ帯ホワイトスペース利用装置として世界に先駆けて開発されました。この携帯型タブレット端末は、テレビ帯ホワイトスペースにおいてはIEEE802.11b/gの周波数をUHF帯に変換することにより通信が可能です。また、3GPPの既存ネットワークと2.4GHz帯におけるWiFiによるデータ通信も併せて利用可能です。
ホワイトスペースにおいては、NICTがこれまでに開発したホワイトスペース無線LAN基地局への接続が可能で、複数のホワイトスペース無線LAN基地局で構成されたメッシュネットワークに、ホワイトスペースを利用して携帯型タブレット端末を接続することも可能です(図3)。接続周波数帯としてはホワイトスペース及び2.4GHz帯のいずれも利用可能で、ネットワークマネージャからの制御により、トラフィック量や干渉量に応じて自動で通信周波数帯を従来の周波数からホワイトスペースに切り替えることも可能です。
今回開発した携帯型タブレット端末の主な機能仕様を表1に示します。運用する周波数は、NICTがこれまでに開発したホワイトスペースデータベースに内蔵GPSモジュールから取得した位置情報を送信し、計算された利用可能チャネルを取得することで決定されます。また、その利用可能チャネルを地図上に表示することも可能です。本端末は、内蔵バッテリのみで駆動可能であり、外部電源なしで動作させることが可能です。
なお、開発した携帯型タブレット端末の試験に当たっては、実験試験局免許を取得して運用を行っています。
仕様/規格 | |
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OS | Android2.3 |
商用ネットワーク | HSPA+/WCDMA/GSM/GPRS/EDGE 対応 (mini PCI Expressカード内蔵) |
WiFi | 802.11b/g/n (2.4 GHz)対応 |
GPS | 受信機内蔵 |
ディスプレイ | 10.1インチ 1366 × 768ドット |
カメラ | 前面: 1.3 メガピクセル 背面: 3 メガピクセル |
電源 | アダプタ:5 V, 2A バッテリ: 3.7 V/9000 mAh (リチウムポリマ) |
サイズ | 268(L) × 170(W) × 35(H) mm3 |
用語 解説
ホワイトスペースデータベースとは、ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、時間、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置又は機能を指す。
NICTが開発したホワイトスペースデータベースは、以下のプレスリリース(2012年5月24日発表)参照
https://www.nict.go.jp/press/2012/05/24-1.html
NICTが開発したテレビ帯ホワイトスペースで運用可能な基地局。運用したい場所に設置し、基地局として運用可能であり、また、複数の基地局でメッシュネットワークを形成することも可能。「IEEE802.11af」暫定規格(IEEE802.11af Draft 2.0)に準拠したシステムのほか、IEEE802.11a/b/gにも対応しており、今回開発した携帯型タブレット端末の基地局として運用可能である。
本基地局の詳細は、以下のプレスリリース(2012年10月16日発表)参照
https://www.nict.go.jp/press/2012/10/16-1.html
IEEE802.11afタスクグループは、ホワイトスペースで無線LANを運用するための国際標準規格を策定するため2009年に発足した。2014年の規格策定完了を目標に、標準化活動が行われている。
IEEE802.11afタスクグループ 公式ホームページ:
http://www.ieee802.org/11/Reports/tgaf_update.htm
本件に関する 問い合わせ先
スマートワイヤレス研究室
原田 博司、石津 健太郎、松村 武
Tel: 046-847-5076
Fax: 046-847-5440
E-mail:
取材依頼及び広報 問い合わせ先
廣田 幸子
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