今回開発した仮想化対応WiFi基地局(vBS)は、物理的なWiFiネットワーク上に、通信の重要性等に応じて柔軟にネットワーク資源(無線周波数)を配分することが可能な仮想基地局をソフトウェアとして構築することができます。図1に、vBSの構成と外観を示します。仮想化対応WiFi基地局の主な構成要素は、①フロー制御部、②仮想基地局部(基地局資源抽象化レイヤ)、③基地局資源スタックです。
① フロー制御部
WiFi通信の重要性やアプリケーション種別等を、通信パケットのあて先や送信元のIPアドレス、ポート番号等を基にパケット毎に識別し、それに基づき対応する仮想基地局に転送します。今回開発したvBSでは、この仕組みをオープンフローにより実現しました。オープンフロー機能は、Linux OS上で動作するOpen vSwitch(OVS)と呼ばれるオープンフロースイッチソフトウェアを利用しました。
② 仮想基地局部(基地局資源抽象化レイヤ)
Linux OSを用いて、複数の仮想基地局をソフトウェアとして構築します。vBSの特徴は、各仮想基地局に対して、通信品質の確保が求められる通信のトラフィック量や求められる通信品質等に応じて柔軟にネットワーク資源(無線周波数)を配分することができる点です。今回は、無線LANにおける周波数チャネルをネットワーク資源の単位とし、仮想基地局に対して、周波数チャネルの異なる複数の無線LANインタフェースモジュールを割り当て、同時使用することを可能にしました。また、接続端末数や計測されたトラフィック量が一定値以上になった場合に、割り当てる無線LANモジュール数を動的に追加する仕組みも導入しました。なお、無線LANインタフェースモジュール間のパケット(フロー)の振り分けは、フロー制御部と同様にOpen vSwitch(OVS)で実現しました。
③ 基地局資源スタック
個別に設定が可能な無線LANインタフェースモジュールの集合体です。今回は、IEEE 802.11a/b/g/n 及び2.4GHz/5GHzデュアルバンドに対応した4つの無線LANインタフェースモジュールで構成し、基地局4局分の資源を同時利用可能な構成としました。基地局側の物理的な無線LANモジュール構成を端末に対して隠ぺいするために、すべての無線LANモジュールに同一のBSSID(無線LANにおけるネットワーク識別子)とESSID(複数のWiFi基地局が設置されたネットワークで使用される、BSSIDを拡張したネットワーク識別子)を設定した上で、各仮想基地局には固有の仮想BSSID(vBSSID)と仮想ESSID(vESSID)を設定しました。
ハードウェアとしては、2つのCPUボード(Linux搭載)をギガビットイーサネットで結合する構成としました。1つ目のCPUボードには、有線ネットワークに対するギガビットイーサネットインタフェースとフロー制御部を、2つ目のCPUボードには、仮想基地局部と基地局資源スタックを、それぞれ構築しました。フロー制御部のソフトウェア処理負荷を考慮し、フロー制御部専用のCPUボードを採用する構成としました。