東日本大震災では、大地震と津波によって多くの光ファイバやネットワーク装置等の通信設備が損壊し、通信復旧まで長期間を要しました。このような災害時に、損壊を免れた生残設備を利用して、暫定的なネットワークを構築・運用ができれば、サービスの早期復旧が実現できます。しかし、一般に、光通信機器は、それぞれ、製造ベンダが独自に研究開発したオリジナル製品であるため、通信事業者は、同一ベンダの装置群で構築された複数ネットワークを個々に運用しており(補足資料 図1参照)、製造ベンダが異なる装置を用いて、迅速に暫定ネットワークを構築することは、実質的に不可能でした。
独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)と株式会社KDDI研究所(以下「KDDI研」、代表取締役所長:中島 康之)は、東日本大震災の教訓を踏まえ、災害時に素早く簡単に“暫定光ネットワーク”を構築するために、製造ベンダが異なる光通信装置を統合的に制御管理するシステムを開発し、光パスの設計・制御の実証実験を行いました。本技術が実用化されれば、災害で設備が損壊した場合でも、損壊を免れた地域の設備を利用して暫定的な光ネットワークの構築が簡単になり、多くの人々が必要とする通信の早期復旧に貢献できます。なお、本成果は、総務省平成23年度補正予算「情報通信ネットワークの耐災害性強化のための研究開発」にて開発したものです。
今回、NICTとKDDI研は、実際のユースケースを検討し、製造ベンダが異なる光ネットワーク装置を協調動作させて、暫定光ネットワークを構築する「ネットワーク統合制御管理システム」を開発しました(補足資料 図2参照)。
NICTは、光パス設計、光パス制御を行う「統合制御管理部」、統合制御管理部からの命令を各ベンダ(A、B)装置の命令に変換する「ミドルウェア」及び「ベンダA装置制御部」を開発しました。一方、KDDI研は、「ベンダB装置制御部」を開発しました。そして、NICTとKDDI研は、共同で、「ネットワーク統合制御管理システム」を使って、製造ベンダが異なる装置をまたぐ光パスの設計から各装置への制御までの一連の光パス設定処理を実行し、光信号でコンテンツを配信しました(補足資料 図3参照)。
本技術は、損壊を免れた設備を利用する対処で、同一ベンダ装置のみでは実現できない早期暫定復旧を可能とします。あらかじめ通信事業者の管理システムに実装しておくことで、災害時の大きな備えとなります。
今後は、装置からのアラームを同時に管理する機能など、実用上重要な機能を順次実装する予定です。
なお、本技術については、3月25日(月)~26日(火)に仙台で開催される「耐災害ICT研究シンポジウム及びデモンストレーション 災害に強い情報通信技術発表会 -つながる!こわれない!-」において、動態展示を行います。
補足資料
用語 解説
光ネットワーク上の情報伝達経路を表す。具体的には、光送信機から光受信機までをつなぐ光ファイバ網上に設定される概念的な通信回線であり、波長によって識別される。光パスは、波長多重リンクごとに一定帯域が確保され、光パス間で帯域が干渉されることはない。通常、数十~100ギガビット毎秒(ギガは1000,000,000倍のこと)程度の大きな容量を持つ。
光ネットワーク装置を構成する個々の部品は、おおむね標準化されており汎用性が高いが、それらを組み合わせて構築されるネットワーク装置、またその制御方式やコマンド類、管理機構などは、各製造ベンダの知的財産やノウハウが盛り込まれた独自仕様になっている。そのため、異なる製造ベンダ間では、たとえ光の入出力のインターフェースの見かけが同じで、実際に光の入出力ができたとしても、装置同士の協調動作はできないことが普通である。例えるならば、光信号を相互に入出力することが、鉄道のレールのゲージを揃えて車両が乗り入れ可能にすることだとすると、ミドルウェアを含めた相互接続を行うことは、鉄道運行システムや信号機システムなど、統括運用するシステムを構築することに当たる。
物理的な光ファイバや光スイッチで構成される光ファイバ網に、概念的な回線である光パスを設定して使用するためには、どの波長を使って、どのような経路にするかという計算を行う必要がある。その際、既に利用されている光パスに割り込まないように空き情報などを収集し、最適化して計算する必要があり、これを光パス設計と呼ぶ。
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