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世界的「光原子時計」の研究者が日本に初集結

~新時計有力候補を開発しているNICTの最新成果等を基に、新たな秒の定義を国際会議で議論~

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2013年2月6日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、周波数標準を定め日本標準時を通報すると同時に、次世代の原子時計である「光格子時計」と「単一イオン光原子時計」を開発しています。NICTが開発したこれらの時計は共に国際的にその信頼性が認められ、光格子時計については秒の定義変更を実現する有力候補となっています。最も高精度な計量単位である“秒”の定義を半世紀ぶりに変更することが議論されている今、これら光に基づく新しい周波数標準とその比較伝送技術について、2月7日(木)~8日(金)、 “NICT Workshop on the Optical Frequency Standards” (NICT 光周波数標準ワークショップ) をNICT本部 (東京都小金井市)にて、開催します。

本ワークショップでは、各国を代表する光原子時計の研究者が集結し、近年発展が著しいこの原子時計の二大方式について最新報告を基に現状分析を行います。 また、秒の定義変更への必要条件である「各国の“究極の1秒”が本当に国際標準として世界最高の精度で一致しているか検証する方法」について議論します。

背景

現在、“秒”の国際的な定義は、セシウム原子の持つ固有の周波数に基づいています。秒及び周波数は、最も高い精度が得られる計量単位であり、その決め方は科学技術に大きな影響を及ぼします。近年、現行の「セシウム原子時計」の正確さを大きく超える「光原子時計」の進展が目覚ましく、秒の定義の変更が検討されています。いくつかの「光原子時計」がその候補となっており、日本発の「ストロンチウム光格子時計」も2006年にその候補となりました。

NICTは、秒の定義を討議する国際諮問委員会(CCTF)に参加する標準機関として、時間・周波数標準の研究開発を通し国際貢献をしています。光原子時計の研究としては「 カルシウム単一イオン光原子時計」及び「ストロンチウム光格子時計」を開発し、比較伝送技術では世界トップクラスの計測精度を実現して、その実績は国際学会での招待講演や昨年の光原子時計計測データのCCTFにおける承認などで、国際的にも認められています。

ただ現状では、秒の定義の変更のためには、まだたくさんの課題があります。例えば、どの原子・どの方式を使った「光原子時計」が一番正確で安定なのか、そして新方式で生成される“1秒”が本当に地球規模でかつてない精度で一致しているかどうか、その検証方法をどうするのか、などについて、十分な議論が必要です。

今回の議論

このたびNICTでは、「光原子時計」の国際状況を見渡し、将来展望と今後の課題を議論するための国際ワークショップを開催します。初日はNICTを含む各国の研究機関における代表的な研究者が講演を行い、最新の研究現況を紹介するとともに各課題について世界の情勢を分析します。NICTからは、光格子時計を実際の高精度計測に応用した例や、これまで確認が困難であった海外の原子時計との高精度比較を可能にする手法について報告します。2日目はこれらの研究現況を踏まえ、秒の定義の変更やその実用化も睨んだ展望に関して自由に議論し、将来への課題を確認する予定です。これらの講演及び議論においては各国の代表的研究機関(米:NIST、英:NPL、独:PTB、仏:SYRTE、中:武漢大学)におけるトップクラスの研究者 及び 時刻・周波数の国際標準を司る国際度量衡局(BIPM)のリーダーが参加します。CCTF等でも中心的な役割を担うこれらの研究者が日本に集結し、光原子時計に焦点をあて将来展望と今後の課題を議論する国内初の貴重な機会となります。

今後の展望

NICTは更なる時計の高精度化を進めるとともに各国の先端研究機関とも密に連携して、“究極の1秒”を実現する原子時計の開発とその精度比較検証技術の双方で、世界をリードしていきます。

補足資料

NICTで開発されている光原子時計

●カルシウム単一イオン光原子時計

カルシウム単一イオン光原子時計

 

たった1つのカルシウムイオンを電極で囲まれた中心点(写真中矢印)に電場でトラップし、そのイオンに対してレーザー周波数が常に共鳴状態になるよう発振周波数を調整することによって、周波数がぶれない、安定なレーザー光源ができます。NICTでは、このイオンの共鳴周波数を5年前に世界で初めて計測し、更なる計測精度の向上の結果、直近においては411,042,129,776,398.4±1.2Hz と測定しています。1秒は、生成される光の振動をこの回数だけ数え上げることで、15桁の不確かさで決めることができます。

なお、昨年度のノーベル物理学賞は、このようなイオントラップを利用した単一イオンの量子操作の確立に与えられており、単一イオン光原子時計もその応用例になります。

 

●ストロンチウム光格子時計

ストロンチウム光格子時計

 

数千個の中性ストロンチウム原子を光の干渉縞で形成された多数のトラップ格子に閉じ込め、この多数の原子にレーザーを照射して常に共鳴が得られるようにレーザー周波数を調整して時計とします。 NICTでは、このストロンチウム原子の共鳴周波数を 429,228,004,229,873.9±1.4Hzと測定しています。この周波数は日米仏独で動作している、ほかの4機関との間で+/-0.4Hz以内で一致しており、日本発の光格子時計の高い周波数再現性が確認されています。

また、国内には東京大学にもストロンチウム光格子時計があります。両者を光ファイバでつなぐことで、両拠点の標高差56mから生じる一般相対論効果により、標高の高いNICTに設置されたストロンチウム光格子時計では東大・本郷キャンパスより時間が早く流れていることを検出できます。

用語 解説

周波数標準

正確な周波数の基準として位置付けられる周波数のことで、国家標準の周波数などを指します。

光格子時計、 ストロンチウム光格子時計

2001年に東京大学工学系研究科の香取秀俊准教授(当時)によって提案され、2005年に実現された新しい光原子時計の方式。光を用いて空間内に格子状に位置する場所に原子が固定された状態を作り、スペクトルの不確定性を大幅に減少させる技術を用いています。現在、ほとんどすべての先進国の標準研究所でその開発が精力的に進められており、その中でもストロンチウム原子を用いたものは日米仏独の4ヶ国5機関で動作しており、秒の再定義において有力な候補の一つとなっています。

単一イオン光原子時計、 カルシウム単一イオン光原子時計

たった1つのイオンを交流電場の零点に捕捉することによって原子を空間的に固定し、そのイオンの吸収遷移に光周波数を安定化させることによって実現する時計方式。1980年代初頭から欧米で開発されてきた光原子時計の実現法です。様々な原子で実現されており、NICTで開発したカルシウムイオンを使用するものは必要なレーザー光源を用意するのが比較的容易で、ほかにもインスブルック大学(オーストリア)、 武漢大学(中国)でも開発されています。

秒の定義

現在、1秒は、セシウム133原子の基底状態の超微細構造間遷移の際に放射される電磁波(9,192,631,770Hz)の周期が91億9263万1770回継続する時間として定義されています。

光に基づく新しい周波数標準

秒の定義となっているセシウム原子の周波数は電波(9GHzのマイクロ波)の帯域ですが、より高い周波数を使えばより精密な原子時計が作れます。そのため、光領域の周波数を用いた原子時計が次世代の周波数標準として脚光を浴びています。

比較伝送技術

離れた地点にある原子時計同士を評価するために、その周波数や時刻を高精度に比較・伝送する技術です。近距離では光ファイバ、大陸間のような遠距離では衛星を仲介とする比較伝送技術が用いられています。

国際諮問委員会 (CCTF:Consultative Committee for Time and Frequency)

諮問委員会CC(Consultative Committee)は、メートル条約の最高機関である国際度量衡総会から委託された、標準に関する研究課題を検討する委員会です。各委員は、各課題における研究実績を持った国家計量標準機関を中心に構成されています。長さや重さなど単位別に10の部会があり、CCTFは時間と周波数の標準に関する部会です。

代表的研究機関 (米:NIST、英:NPL、独:PTB、仏:SYRTE、中:武漢大学)

  • 米国: NIST (National Institute of Standards and Technology)
  • 英国: NPL (National Physical Laboratory)
  • ドイツ: PTB (Physikalish-Technische Bundesanstalt)
  • フランス: SYRTE (Observatoire de Paris, le Systèmes de Référence Temps Espace)
  • 中国: 武漢大学 (Wuhan University)

国際度量衡局 (BIPM:Bureau International des Poids et Mesures)

メートル条約の下に設置された、時間・長さなど世界の計量単位の決定及び管理を行っている国際機関で、本部はフランスにあります。標準時については、世界中の機関で得られた原子時計のデータを基に、国際原子時(TAI:International Atomic Times)と協定世界時(UTC:Coordinated Universal Time)が決められています。

 
 

本件に関する 問い合わせ先

電磁波計測研究所 時空標準研究室

花土 ゆう子
Tel: 042-327-7624
Fax: 042-327-6694
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取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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