現在、米国FCCや英国Ofcom等の規制当局をはじめ、日本でも総務省において、「ホワイトスペース無線通信システム」は、実現に向け、その技術の検討等が行われています。この検討では、特定の利用目的のために割り当てられている周波数において、既存業務(一次利用者)への影響を回避しつつ、柔軟かつ高度に周波数を活用(周波数の二次利用ともいう)するための技術を検討することが重要な課題であり、規制当局が定めた同一チャネル及び隣接チャネルへの干渉レベル制限値を満たす通信機を開発することが、実用化に向けた大きな技術課題となっています。中でも、比較的干渉回避が行いやすい地方において有線の代替、補助回線として、また、災害時に通信インフラの整備が難しい場合の緊急の無線による通信回線確保等を目的として、無線LANとは異なる遠距離をサポートすることが可能であるホワイトスペースを利用する中長距離地域無線(Wireless Regional Area Network)が米国で検討されており、米国電気電子学会(IEEE)においても、世界で初めてのホワイトスペース利用通信システムの標準化として、ホワイトスペースにおける地域無線システム規格(IEEE Std. 802.22-2011)を2011年7月に発行しました。しかし、この標準規格に準拠した無線機の開発は、欧米各国の規制及び規格が制定した機能の制限が高く、開発例がまだありませんでした。
独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)、株式会社日立国際電気(以下「日立国際電気」、執行役社長:篠本 学)、株式会社アイ・エス・ビー(以下「アイ・エス・ビー」、代表取締役社長:若尾 逸雄)は、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)におけるホワイトスペースを利用する中長距離地域無線(Wireless Regional Area Network)の国際標準である、「IEEE 802.22」標準規格に準拠した「基地局装置」及び「加入者局装置」の開発並びに実証実験に、世界で初めて成功しました。本技術によって、今後、インターネット等が十分普及していない地域への有線の代替、補助回線及び災害時等緊急時における無線による通信回線確保等を目的としたホワイトスペースを利用する地域無線の技術開発が推進されることが期待できます。
NICT、日立国際電気は、今回、国際標準規格、IEEE Std. 802.22-2011に準拠した「物理層(PHY)」及び「メディアアクセス制御層(MAC)」を搭載した、中長距離伝送可能な地域無線システムの「基地局装置」及び「加入者局装置」を世界で初めて開発しました。本装置では、日立国際電気が開発したIEEE 802.22準拠の物理層(PHY)を含む「基地局装置」及び「加入者局装置」に、NICTが開発したIEEE 802.22準拠のMAC層ソフトウェア、干渉回避用ソフトウェア、及びIP通信用ソフトウェアを実装しました。また、アイ・エス・ビーが提供する、一次利用者と二次利用者の干渉を計算し利用可能な周波数を通信機に知らせるホワイトスペースデータベースに接続し(注1)、テレビ放送周波数帯(470MHz~710MHz)において、一次利用者に影響を与えない周波数が自動的に選択され、IPを用いて、無線通信を行うことができることを実証しました。なお、本装置における日立国際電気の開発部分は、総務省から受託した「ホワイトスペースにおける新たなブロードバンドアクセスの実現に向けた周波数高度利用技術の研究開発」の成果を利用して実現したものです。
補足資料
今回開発した地域無線は、IEEE802.22標準化の利用モデルとして想定されていた半径10~40km程度の距離の通信エリアにおいて、最大20Mbps前後の通信速度を提供する「基地局装置」及び「加入者局装置」の開発を行いました。その概観を図1、主な技術仕様を表1に示します。本装置は、今回新たに開発したIEEE Std. 802.22-2011に準拠した、ホワイトスペースを利用するUHF帯で動作する地域無線データ通信デバイスを搭載しています。
項目 | 値 |
---|---|
周波数 | 470-710MHz |
通信帯域幅 | 5.6 MHz |
送信出力 | 1W(注4) |
多元接続/複信方式 | OFDMA/TDD (IEEE Std. 802.22-2011準拠) |
サブキャリア変調 | QPSK,16-QAM,64-QAM |
誤り訂正符号 | 畳み込み符号(符号化率:1/2,2/3,3/4,5/6) |
MAC方式 | IEEE Std. 802.22-2011準拠 |
さらに、今回開発した「基地局装置」及び「加入者局装置」には、IEEE Std. 802.22-2011に準拠したMAC層ソフトウェアが実装されています。MACは、ポイントツーマルチポイント接続(単一の「基地局装置」と複数の「加入者局装置」間の接続、図2)による「基地局装置」から複数の「加入者局装置」間に、最大20Mbps前後の通信速度を提供します。並びに、「基地局装置」から複数の「加入者局装置」への下りアクセスと、複数の「加入者局装置」からの「基地局装置」への上りアクセスを時分割多重(TDM)と直交周波数分割多元アクセス(OFDMA)で行うことで、最適QoSレベルの品質制御をサポートします。また、米国の規格に準拠して構築されたホワイトスペースデータベースに接続することで、「基地局装置」及び「加入者局装置」の位置情報に基づいて、一次利用者に干渉を与えない周波数が自動的に選択されます。
用語 解説
本来、放送用などある目的に割り当てられているが、地理的条件や時間的条件によって、ほかの目的にも利用可能な周波数帯をホワイトスペースという。ホワイトスペースは、その周波数の利用がない場合や本来のシステムに与える影響が十分に小さい場合、ほかのシステムが放送や通信の目的で二次的に使用することが検討されている。外国では、技術基準を検討している国や標準仕様の策定も行われている。日本でも、総務省が発表した「周波数再編アクションプラン(平成24年10月改定版)」で、UHF 帯(地上テレビジョン放送用周波数帯)のホワイトスペースにおいて、センサーネットワークシステム等の実用化が可能となるよう、必要な無線設備の技術的条件やホワイトスペースを有効活用するための枠組みを検討する、とされており、そのための課題の洗い出しや技術開発が急務であると考えられる。日本においては、まず、平成24年4月よりホワイトスペースを利用するエリア放送システムが制度化されており、ホワイトスペースを利用する無線ブロードバンドシステムの実現に向けては、今後、日本の地上デジタルテレビジョン放送の利用状況や保護基準等を踏まえて検討していく必要がある。
地域無線(WRAN)は、現状の携帯電話よりも広い通信エリアを想定し、最大20Mbps前後の通信速度を提供することが目的とされている。IEEE802.22標準化においては半径10~40km程度の通信エリアを想定していた。
IEEE 802.22ワーキンググループは、IEEE 802標準化委員会のうちの作業部会の一つ、ホワイトスペースで地域無線を運用するための国際標準規格を策定するために発足した。ここから、この作業部会で作られた仕様をIEEE 802.22と呼ぶ。NICT、日立国際電気、アイ・エス・ビーは当該グループにおいて多数の技術提案を行っている主要メンバーである。
ホワイトスペースデータベースとは、ホワイトスペースとして二次利用者が利用可能な周波数を、一次利用者の情報(送信所の場所、周波数、送信電力等)や地形情報等を考慮し、一定の計算基準に基づいて選択して、その結果を二次利用者からの問い合わせに対して返答する装置又は機能を指す。日本においては、干渉及び混信計算基準や、二次利用者の運用情報の取扱いについても、これから議論がなされていくものとみられる。
前回NICTが開発したホワイトスペースデータベースは、以下のプレスリリース(2012年5月24日発表)を参照。
<参考文献>
各社の役割分担と問い合わせ先
○株式会社日立国際電気: IEEE 802.22準拠の物理層(PHY)を含む「基地局装置」及び「加入者局装置」を開発
[問い合わせ先] 映像・通信事業部 企画本部 技術開発部 浅野 勝洋
Tel:042-322-3111(代表) Fax:042-322-3233
E-mail:
○株式会社アイ・エス・ビー: 一次利用者と二次利用者の干渉を計算し 利用可能な周波数を通信機に知らせる「ホワイトスペースデータベース」を提供
[問い合わせ先] 新事業推進室 平間 正則
Tel:03-3490-1761(代表) Fax:03-3490-7718
E-mail:
本件に関する 問い合わせ先
スマートワイヤレス研究室
原田 博司、表 昌祐
Tel:046-847-5076 Fax:046-847-5440
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取材依頼及び広報 問い合わせ先
廣田 幸子
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