近年、非破壊・非接触測定が可能で、人体に対する安全性の観点から、テラヘルツ波を用いた分光技術が非常に注目されています。この技術は、空港の保安検査、郵便物の検査、国内外の文化遺産の診断等、様々な用途に利用されています。しかし、従来のテラヘルツ波計測システムは非常に大型であったため、測定の自由度が制限されていました。
独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、スタック電子株式会社(代表取締役 社長:渡辺 勝博)と共同で、テラヘルツ波技術分野において、超小型テラヘルツ波プローブの開発に世界で初めて成功しました。この小型プローブの開発により、従来に比べて、テラヘルツ波検出システムの大幅な小型化を実現しました。 本プローブの実用化により、これまで測定環境が整備された実験室で行われていた測定から、作業現場へ持ち運んでの測定や今まで測定ができなかった場所で測定が可能になります。さらに、小型化されたことで、測定したい場所の直近までプローブを近付けることができ、余計な光学系を介さずに測定ができるため、空間分解能の向上も期待されます。
今回、NICTは、電気光学サンプリング法に基づいた超小型のテラヘルツ波検出システムの開発に成功しました。従来、テラヘルツ波検出は、“空間光学系”を用いて構成されていたため、非常に大型なシステムでした。今回開発したテラヘルツ波検出システムは、“光ファイバ”をベースにし、光通信で用いられる小型モジュール組立技術を採用することにより、小型化を実現しました。同時に、空間光学系で用いるミラーの振動などをなくすことで高安定化を可能にしました。特に、テラヘルツ波を感知するプローブは、直径10mm、長さ60mmの超小型のペン型形状を採用し、市販品と比較して1/100程度の体積を実現しました。また、今回製作したテラヘルツ波プローブでは、従来の市販品以上の3THz(テラヘルツ)までのテラヘルツ波を検出することができました。
今後、さらにセンサの高感度化・広帯域化を行うとともに、当機構で開発された超短パルス光源を用いたテラヘルツ波源と組み合せることにより、テラヘルツ分光システムの構築を目指します。また、今回開発したテラヘルツ波プローブは超小型であるため、ロボットアームに搭載したり、一列に多数並べてリニアアレイセンサを構成する等により、遠隔での測定や広範囲の測定、製造ラインでの検査への応用が期待されます。
なお、本開発の成果は、9月24日(月)~28日(金)にオーストラリア・ウォロンゴンで開催される「赤外とミリ波・テラヘルツ国際会議」(IRMMW-THz 2012)(http://irmmwthz2012.uow.edu.au/index.html)にて発表します。
補足資料
用語 解説
テラヘルツ波は、おおむね0.1~10THz(テラヘルツ)の周波数帯の電磁波を示す。その波長は3mm~30μmであり、電波と光の境界に位置する。テラヘルツは、1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012 Hz)で、THzと記述する。
テラヘルツ波は、紙・プラスチック・繊維等を透過し、また、多くの物質固有の吸収スペクトルがテラヘルツ領域にあるため、X線よりも安全な検査装置として、また、次世代の材料分光分析技術として注目されている。しかし、テラヘルツ波は、これまで未開拓周波数帯の電磁波と呼ばれ、光源やセンサといった要素技術の確立は、ほかの周波数帯の技術に比べて発展途上にある。
材料に光(テラヘルツ波)を照射し、透過した光の周波数成分を分析することにより、材料の特性を調べる技術。テラヘルツ波の領域では、この技術を用いることにより、顔料や化学物質・薬品などの材料特定が可能となる。
電界が加えられると結晶の屈折率が電界の強さに応じて変化する結晶(電気光学結晶(EO結晶))を用いて、電界の強さを測定する方法。テラヘルツ波と光を同時にEO結晶に入射すると、テラヘルツ波の電界により光の振動方向が変化する。その振動方向の変化の度合いを測定することにより、テラヘルツ波の電界の強さを測定することができる。
センサを一列に配列したもの。単一センサに比べて横方向の情報も得られる。対象物あるいはアレイセンサを移動させることにより、画像化することもできる。代表的なものにファクシミリやイメージスキャナがある。
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