本文へ
文字サイズ:小文字サイズ:標準文字サイズ:大
  • English Top

世界初、広域ネットワークの自動構築に成功

~ 管理が簡単で障害に強い。今後の新世代ネットワークに向けて大きく前進 ~

  • 印刷
2012年6月7日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 宮原 秀夫)は、新世代ネットワークの構築に向けて、これまでは手動でしか設定できなかった広域ネットワーク機器の位置情報を自動的に割り当てる仕組み「HANA」を使って、「広域ネットワークの自動構築」に世界で初めて成功しました。

本成果により、ネットワーク設定の人為的ミスが避けられ、作業時間が短縮できるため、運用コストの低減につながります。また、障害発生時に有効な迂回経路があらかじめ確保できます。

なお、NICT は、6月13日(水)~15日(金)に幕張メッセで開催される「Interop Tokyo 2012」において、本成果のデモ展示を行います。

背景

現在、広域ネットワークの管理者は、ネットワーク機器の追加や変更が必要になった場合、手動で、必要な位置情報を機器に設定しています。そのため、運用管理における作業の複雑化や人為的ミス等が起きかねません。また、障害発生時に、機能しなくなる経路情報の発見に時間がかかり、迅速な経路切替えができません(補足資料 図1 参照)。

今回の成果
HANAによって自動構築された領域ネットワーク
HANAによって自動構築された領域ネットワーク

今回、NICT は、ネットワーク機器に位置情報を自動的に割り当てる仕組み「HANA」(補足資料 図2 参照)を実装し、JGN-X上で広域ネットワークの自動構築に成功しました。自動構築された広域ネットワークは、実験室の模擬データセンタ、IPv4、IPv6 ユーザ端末が利用できるネットワーク等から構成されます(補足資料 図3 参照) 。パソコンのほか、これまで手動で設定していたルータにも、自動的に複数の位置情報が割り当てられます。各機器が複数の位置情報を持つことで、障害発生時に有効な迂回経路を確保できます。

本成果を広域ネットワークの管理に利用することによって、自動化が図れ、運用管理における作業の効率が上がります。 また、迂回経路の確保が容易になり、障害に強いネットワークを構築しやすくなります。

今後の展望

今後、HANA によって構築されたネットワーク拠点を増やし、より広域なネットワーク及び大規模なデータセンタにおいても適用できることを実証していきます。

なお、NICT は、2012 年6月13日(水)~6月15日(金)に幕張メッセで開催されるInterop Tokyo 2012 において、本成果のデモ展示を行います。

補足資料

図1 広域ネットワークの障害時の経路切替え
図1 広域ネットワークの障害時の経路切替え

現在のインターネットを利用するためには、企業やデータセンタ等の組織は、固有のアドレス空間(位置情報の集合)を確保し、ISP と接続します。その後、組織内のアドレス空間を含めた経路情報を外部のルータへ通知すると、通信が可能となります。現在、そのように通知された経路情報の数は40 万にも及び、障害時に機能しなくなる経路情報の発見に時間がかかり、迅速な迂回経路への切替えを妨げる要因となっています。

図2 HANA の概念と障害時の経路切替え
図2 HANA の概念と障害時の経路切替え

組織が固有のアドレス空間を確保せず、接続するISP から、アドレス空間の一部を切り出して割当てが行われると、組織内の固有の経路情報が外部のルータに通知されなくなり、インターネットの経路情報が削減されます。

さらに、組織が複数のISP と接続すると、指定するあて先アドレスによって異なる経路が利用できます。障害時には、利用するあて先アドレスを切り替えるだけで、別の経路が選択できるので、迂回経路への迅速な切替えができます。HANA による自動割当ての例を図2-A に示します。

図2-A HANA による自動割当ての例
図2-A HANA による自動割当ての例

図3 HANA によって自動構築された広域ネットワーク
図3 HANA によって自動構築された広域ネットワーク

用語 解説

エネルギー消費効率化、セキュリティの抜本的対策、ネットワークの簡素化などを、インターネットの改良ではなく、白紙から新しく作り直すべく研究開発を進めているネットワーク。

インターネットにおける位置情報は、アドレスと呼ばれる。現行のインターネットの規格であるIPv4 では、32 ビットである。IPv4 では、32 ビットの数値を8 ビットずつ十進数で「.(ドット)」で区切り、表記される(例えば 10.1.1.1)。インターネットでは、あて先アドレスをルータの経路表と照合して、データの流れる方向を決める。また、アドレスは、通信相手を識別する番号としても利用される。

HANA 【Hierarchical Automatic Number Allocation】

階層的・自動的に位置情報を割り当てる技術。これまでのDHCP での自動アドレス割当ては、末端PC のみに対応していたのに対して、HANA は、企業内のルータや広域ネットワークのルータにおいても自動割当てする。

広域ネットワーク 【WAN: Wide Area Network】

企業内などの狹いネットワークを意味するローカルエリアネットワーク(LAN: Local Area Network)の対義語で、広域に構築されたネットワーク。企業やISP(インターネットサービスプロバイダ)を接続するネットワーク、ISP 同士を接続するネットワーク等がある。

あるIP アドレスに対して、どの経路を選択すればいいかという情報。インターネットのコア(中心部)を形成するルータ群は、それぞれのアドレス空間に対して、次にどのルータに転送すればよいかという情報を保持している。

日本をまたがる広域テストベッドネットワーク。JGN-X は、NICT が推進する新世代ネットワークの研究開発を支え、また、その他の先進的なネットワークの研究開発・各種アプリケーションの実証実験を行うことができる。

インターネットで受け取ったデータを転送するネットワーク機器。家庭用の100Mbps(ビット毎秒)程度の能力を持つブロードバンドルータから、広域ネットワークで使われるT(テラ)bps 級のものまである。

あるアドレスからあるアドレスまでの範囲を示すもの。例えば 10.1.1.0〜10.1.1.255 までのアドレスは、アドレス空間としては10.1.1.0/24 などと表記される。この場合、上記24 ビットまでが、共通のアドレスを一つのアドレス空間で表記している。ある組織に対して、このアドレス空間を持つISP(インターネットサービスプロバイダ)から10.1.1.0~10.1.1.15 までを切り出して割当てが行われると、ネットワークでは、10.1.1.0/24 の経路情報だけが流れ、経路情報は増えない。

ISP 【インターネットサービスプロバイダ】

インターネット接続を提供するネットワーク事業者。

インターネットで配送されるデータは、パケットと呼ばれる細切れのデータに分割され、それぞれにあて先となるアドレスが付けられ、個別に配送される。ルータは、受け取ったパケットのあて先を見て、次に配送するルータを決定する。

DHCP 【Dynamic Host Configuration Protocol】

PC などの末端のネットワーク機器に自動的にネットワークを割り当てる標準規格。

本件に関する 問い合わせ先

光ネットワーク研究所
ネットワークアーキテクチャ研究室

藤川 賢治
Tel: 042-327-7315
Fax: 042-327-6680
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
E-mail: