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相同染色体の認識と対合の因子を発見! 国際的科学誌 『Science』に掲載

~ 生命の継承と多様性をもたらす 「遺伝情報の組換え」 を導く巧妙な仕組みに RNA が重要な役割 ~

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2012年5月11日

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長: 宮原 秀夫)は、生命が持つ巧妙な情報伝達の仕組みを解明し、未来の情報通信技術に役立てるための基礎研究に取り組んでいます。

今回、NICT は、分裂酵母において、遺伝情報を組み換える際に行われる相同染色体の対合という、生命の存続、継承や進化に極めて重要な意味を持つ生命現象を確実かつ安全に行う仕組みを新たに発見しました。これまで、相同染色体対合のメカニズムは明らかにされていませんでしたが、NICT は、この相同染色体の対合に、染色体の特定領域から転写される非コードRNAが重要な役割を果たしていることを明らかにしました。減数分裂における相同染色体の対合は、生物学や医学において極めて重要な研究課題であり、今回の成果は、この分子機構の解明に向けて大きな前進となります。なお、この成果は、国際的科学誌 Science 2012年5月11日号 (電子版: 米国5月10日(木)Eastern Time 14:00)に掲載されます。

背景

ヒトを含むすべての真核生物は、生殖細胞(精子や卵子等)を作り出す際に、減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂を行っています。この減数分裂の際に、遺伝情報を担う染色体が核の特定の場所に集合し、父母に由来する同種の2 本の染色体(相同染色体)が接合(対合)し、二価染色体を形成することで、遺伝情報の組換えを効率的に行います。これは、生命に進化と多様性をもたらす生物学的に極めて重要な現象です。

一方、相同染色体の対合が正常に行われないと、染色体異常に起因する病気(ダウン症等)や流産の原因にもなります。このため、対合のメカニズムは、医学的見地からも解明が長い間求められてきました。しかし、どのようにして相同染色体が壊れやすい遺伝情報を守りつつ、対合する相手を認識し、組換え部分で接合するかということについて、これまで明らかにされていませんでした。

今回の成果
NICT のイメージング技術によって観察された染色体とRNA(緑の点がRNA)
NICT のイメージング技術によって観察された染色体とRNA(緑の点がRNA)

今回、NICT は、染色体の特定領域が光るように仕掛けを施した分裂酵母を、独自に開発したイメージング技術によって、生きた状態で観察しました。その結果、染色体のsme2という領域において高頻度で相同染色体が対合することを発見しました。さらに、sme2 からは非コードRNA(タンパク質の設計情報を持たないRNA)が合成され、これが蓄積された染色体部分で対合が起こることを明らかにしました。

これは、sme2 から転写されたRNA が、相同染色体とその組換え部分の認識と接合に重要な役割を果たしていることを示しています。また、対合する相同染色体を識別し接合するための装置として、壊れやすく大切なDNA そのものではなく、DNA を鋳型にしたコピーであり必要に応じて合成・分解しやすいRNA を使用することは、確実かつ安全に遺伝情報を次世代に継承するという生物の優れた特徴であると考えられます。

今後の展望

NICT は、これまでに、減数分裂時に染色体の末端(テロメア)が核膜上の一点で束ねられる現象(関連情報参照)や、核の往復運動により染色体を整列させる現象のメカニズムを明らかにしています。今回、染色体の集合から相同染色体の対合という一連の流れの仕組みを発見したことは、遺伝情報組換えメカニズムの解明に向けた大きな前進となります(補足資料参照)。

今後は、今回発見した非コードRNA が相同染色体対合にどのように関わっているか、そのメカニズムを解明するとともに、RNA 等の生体分子を利用したバイオセンサー等、生物が持つ優れた特徴を取り入れたロバストネスな情報通信技術への応用につなげていきます。

なお、この研究成果は、国際的科学誌Science 2012年5月11日号に掲載 されます。

関連情報

NICT のこれまでのプレスリリース: (減数分裂時に染色体の末端(テロメア)が核膜上の一点で束ねられる現象)

染色体の構造変化に関わる新たなタンパク質を発見
〜 生命の多様性をもたらす遺伝情報組み換えシステムの一端を明らかに 〜
[平成21年11月3日発表] https://www.nict.go.jp/press/2009/11/03-1.html

補足資料(1)

相同染色体の対合フローとNICTの研究成果

(1)細胞質融合
(1)細胞質融合

(2)テロメアが核膜上の一か所に集合
(2)テロメアが核膜上の一か所に集合

(3)核融合
(3)核融合

(4)核の往復運動による相同染色体の近接と接着
(4)核の往復運動による相同染色体の近接と接着

(5)sme2を起点に相同染色体が対合
(5)sme2を起点に相同染色体が対合

補足資料(2)

NICTがこれまでに明らかにしてきた相同染色体対合のメカニズムと研究成果

1992年4月 研究室立ち上げ、生細胞イメージング技術の開発を始める。

1993年2月 世界で初めて減数分裂前期の細胞核の往復運動を発見

  • https://www2.nict.go.jp/advanced_ict/bio/w131103/CellMagic/mov/karyogamy.mov
  • https://www2.nict.go.jp/advanced_ict/bio/w131103/CellMagic/mov/horsetail.mov
  • https://www2.nict.go.jp/advanced_ict/bio/w131103/CellMagic/mov/meiosis.hoechst.mov

1993年2月 往復運動する細胞核の先端に染色体の末端(テロメア)が集結することを発見
⇒1994年4月Science誌に論文発表
Chikashige, Y., Ding, D. Q., Funabiki, H., Haraguchi, T., Mashiko, S., Yanagida, M. and Hiraoka, Y. (1994).
Telomere‐led premeiotic chromosome movement in fission yeast Schizosaccharomyces pombe.
Science 264, 270‐273.
減数分裂期前期の染色体は核内空間で配向を大きく変え、テロメアは核膜上一箇所に集結し、核の往復運動をリードする。それは、染色体組換え前の相同染色体対合に寄与するだろうと思われた。

1997年 染色体は核内空間で配向の切り替えに、接合フェロモンによって制御されることを明らかにした。
Chikashige, Y., Ding, D. Q., Imai, Y., Yamamoto, M., Haraguchi, T. and Hiraoka, Y. (1997).
Meiotic nuclear reorganization: switching the position of centromeres and telomeres in the fission yeast Schizosaccharomyces pombe. EMBO J. 16, 193‐202.

1998年 減数分裂前期の細胞核の往復運動は、微小管の重合と脱重合によって引き起こすことを明らかにした。
Ding, D.‐Q., Chikashige, Y., Haraguchi, T. and Hiraoka, Y. (1998).
Oscillatory nuclear movement in fission yeast meiotic prophase is driven by astral microtubules as revealed by continuous observation of chromosomes and microtubules in living cells. J. Cell Sci. 111, 701‐712 .

  • https://www2.nict.go.jp/advanced_ict/bio/w131103/CellMagic/mov/horsetail.tub.hoechst.mov

1999年 分裂前期の細胞核の往復運動にダイニンモーターが関わることを明らかにした。
Yamamoto, A., West, R. R., McIntosh, J. R. and Hiraoka, Y. (1999).
A cytoplasmic dynein heavy chain is required for oscillatory nuclear movement of meiotic prophase and efficient meiotic recombination in fission yeast. J. Cell Biol. 145, 1233‐1249.
これによって、核運動のメカニズムをほぼ解明した。

2001年 細胞核の先端に染色体の末端(テロメア)が集結することに関わるタンパク質Rap1を同定
Chikashige, Y. and Hiraoka, Y. (2001).
Telomere binding of the Rap1 protein is required for meiosis in fission yeast. Current Biology 11, 1618‐1623.

2004年 テロメア集結と核運動が相同染色体の対合を促進することを初めて証明した。
Ding, D.Q., Yamamoto, A., Haraguchi, T., and Hiraoka, Y. (2004).
Dynamics of homologous chromosome pairing during meiotic prophase in fission yeast. Developmental Cell 6, 329‐341.

2006年 テロメア集結に関わるキータンパク質bqt1とbqt2を発見
Chikashige, Y., Tsutsumi, C., Yamane, M., Okamasa, K., Haraguchi, T., and Hiraoka, Y. (2006).
Meiotic proteins Bqt1 and Bqt2 tether telomeres to form the bouquet arrangement of chromosomes. Cell 125, 59‐69.

2006年 相同染色対合に染色体構造を決めるコヒーシンタンパク質が必要であることを発見
Ding, D.‐Q., Sakurai, N., Katou, Y., Itoh, T., Shirahige, K., Haraguchi, T., and Hiraoka, Y. (2006).
Meiotic cohesins modulate chromosome compaction during meiotic prophase in fission yeast. J. Cell Biol. 174, 499‐508.
http://jcb.rupress.org/content/174/4.cover‐expansion JCBの表紙に採用された。

2009年 テロメア集結に関わるキータンパク質bqt3とbqt4を発見
Chikashige Y, Yamane M, Okamasa K, Tsutsumi C, Kojidani T, Sato M, Haraguchi T, and Hiraoka Y. (2009).
Membrane proteins Bqt3 and Bqt4 anchor telomeres to the nuclear envelope to ensure chromosomal bouquet formation.
J. Cell Biol. 187: 413‐427
Bqtタンパク質1~4の発見によって、テロメア集結に関わる分子機構をほぼ解明した。

2012年5月 相同染色体の相互認識と対合にRNAが関わることを初めて示した。
Da-Qiao Ding, Kasumi Okamasa, Miho Yamane, Chihiro Tsutsumi, Tokuko Haraguchi, Masayuki Yamamoto, and Yasushi Hiraoka. (2012).
Meiosis-Specific Noncoding RNA Mediates Robust Pairing of Homologous Chromosomes in Meiosis.
Science 336, 732-736.

用語解説

生物の形や性質、特徴を次世代に伝えるための情報。

物質としては、塩基・リン酸・デオキシリボースの3 つの成分から成る2 重らせん構造をした化学物質を「DNA(デオキシリボ核酸)」といい、生物の遺伝情報は、このDNA に書き込まれている。DNA は、繊維状の構造を形成し、極めて高密度に折り畳まれ、細胞の核の中に収納されている(ヒトの場合、1 つの核の中に約2 メートルのDNA が収められている。)。細胞分裂の際には、より一層、高密度に集合することで棒のような形状となり、これを「染色体」という。

生命活動に不可欠なタンパク質を作るための設計情報は、DNA に塩基の配列として書き込まれており、このDNA 上の領域を「遺伝子」という。DNA には複数の遺伝子が存在する。

なお、真核生物のDNA には、タンパク質の設計情報を持たない遺伝子以外の領域が非常に多く存在することが知られているが、近年、この領域からRNA(リボ核酸)が合成されることが発見され、遺伝子の働きを調節する重要な役割を担っていると考えられている。

(DNA・染色体構造の簡易イメージ図)
(DNA・染色体構造の簡易イメージ図)

ヒトを例にとると、1 つの細胞には46 本の染色体(うち2 本は性染色体)が存在するが、これは、父母それぞれから1 セット23 本ずつ受け継いだものである。性染色体を除く22 本ずつの染色体は、塩基配列がほとんど同じ(同じ形質・性質)もので対合相手となっており、これを相同染色体という。

相同染色体は、減数分裂の際、互いに対合相手を認識し、物理的に接着(対合)して二価染色体を形成する。これによって、効率的に遺伝情報を組換え、生物に遺伝的多様性をもたらしている。

DNA に記載された遺伝情報を基にタンパク質が合成されるが、この仲立ちをRNA(リボ核酸)が行う。遺伝子に記載されたタンパク質の設計情報は、いったんmRNA(メッセンジャーRNA)にコピーされる(これを「転写」という)。mRNA は、コピーしたタンパク質の設計情報を核の外に運び出し、タンパク質を合成する(これを「翻訳」という。)。

タンパク質に翻訳されずに機能するRNA(リボ核酸)の総称。近年、多く非コードRNA が発見され、生命活動にとって、従来考えられていたよりもはるかに重要な役割を担っていると考えられるようになった。多様な生理機能を持つとされている一方、機能不明のものが多数である。

生殖細胞の形成の際に行われる細胞分裂の形態。1 度の染色体の複製で、2 度の細胞分裂(第1 減数分裂と第2 減数分裂)を行い、染色体数が半分の生殖細胞を形成する(受精すると元の染色体数に回復する。)。

(減数分裂イメージ図) 染色体数1 セット2 本のみの簡易モデル
(減数分裂イメージ図) 染色体数1 セット2 本のみの簡易モデル

suppressor of mei2 の略。sme2 遺伝子からはmeiRNA-L という非コードRNA が転写され、それがsme2 遺伝子座上に蓄積され、相同染色体の対合を強く促進する。

sme2 遺伝子配列を欠失すると、対合頻度は通常のレベルになり、sme2 遺伝子配列を別の染色体部位に移動させると、その部位が高い対合頻度を示すようになることから、sme2 遺伝子座位に形成されるRNA を含む複合体が、相同染色体の相互認識と対合に関わっていることが明らかになった。

本件に関する 問い合わせ先

未来ICT 研究所 バイオICT 研究室

丁 大橋
Tel: 078-969-2243
Fax: 078-969-2249
E-mail:

取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当

廣田 幸子
Tel: 042-327-6923
Fax: 042-327-7587
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