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有機デバイスやナノ配線が簡単に作れる「ナノワイヤ作製キット」を開発

~ 装置コストや線幅が大きく改善、デバイスそのものの特性向上も可能に ~

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2012年2月10日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、ナノスケール単結晶であるナノワイヤを電極間に簡単に作製できる「ナノワイヤ作製キット」を開発しました。ナノワイヤ作製キットは、高真空系などの大掛かりな装置でなく、手のひらサイズの装置を用いて、基板上にナノワイヤを簡単に作製することができるキットです。本キットの製造原理には、NICTが開発した「ナノ電解法」を用いており、この技術により、今後、電子ペーパーやディスプレイなどに利用される半導体を作製するプロセスにおいて、飛躍的な省エネルギー化・低コスト化が実現でき、更に半導体そのものの微小化・高性能化も実現できると考えられます。

   本研究の一部は、(独)科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 さきがけ「ナノ製造技術の探索と展開」研究領域(研究総括:横山直樹(独)産業技術総合研究所 連携研究体 グリーン・ナノエレクトロニクスセンター 連携研究体長(兼)(株)富士通研究所フェロー)における研究(研究代表者:長谷川裕之(研究期間:2007~2010年度))として行われました。


背景

今日、身近に使われているコンピュータや通信装置を更に小型化、高速化するためには、装置内部で使用する半導体の微小化を進める必要があります。しかし、現在の半導体技術では微小化に限界があることから、そのための技術として分子を利用したナノデバイス技術が注目されています。これまで、NICTは、原子や分子の特徴を利用して、自ら集合させる「自己組織化」の手法により、溶液中でのナノスケールの有機デバイスを作成する技術である「ナノ電解法」を開発し、高真空系などの大掛かりな装置を用いることなく低コスト・省エネルギーで高性能なナノデバイスを作成することを実現しました。また、この技術の実用化に向け開発を進めてきました。

今回の成果
ナノワイヤ作製キット
ナノワイヤ作製キット

このたび、NICTは、ナノ電解法を用いて実験室レベルでナノワイヤを作製することができる「ナノワイヤ作製キット」を開発しました(右図)。

ナノワイヤ作製キットは、ナノ電解セル、電極基板及び電源から構成されています(図1)。ナノワイヤによる架橋を構築させたい電極基板を本キットに接続し、ナノワイヤ原料溶液を入れたナノ電解セルに浸し、電源から交流又は直流を通電させることで、簡単かつ選択的に単結晶のナノワイヤを作製できます(図2)。本キットを用いることで、装置コストは従来法(真空蒸着法インクジェット法など)の1/100程度、配線の最小線幅は約十数ナノメートル(インクジェット法の1/1000程度)の微細加工(図3)が可能です。

ナノワイヤの原料として、導電性材料を用いるとナノ配線(図4)を、半導体材料を用いるとトランジスタなどのナノデバイス(図5)を、作製することができます。また、従来法に比べて分子が規則正しく配列するため、作製されたデバイスそのものの特性の向上も期待できます。

今後の展望

ナノワイヤ作製キットを用いることにより、小型化・低コスト・省エネルギーで高性能なデバイス製造への新たな道が切り開かれ、ICTを中心とした豊かな社会の実現に大きく貢献できるものと考えられます。

有機デバイスは、プラスチック基板上に作製できる利点があることから、フレキシブルで環境に優しいデバイスとして、電子ペーパーやディスプレイ、センサなど様々な分野へ利用する研究開発が進められています。今後、本キットの製造原理である「ナノ電解法」によるナノデバイス作製技術が広く活用され、ナノデバイス作製装置などの実用化が進展するように努力して まいります。

本技術は、岩田硝子工業株式会社にて製品化を準備中であり、本年2月15日~17日に東京ビックサイトで開催される「国際ナノテクノロジー総合展・技術会議(nano tech 2012)」において実演展示する予定です。

補足資料

ナノワイヤ作製キットの概要

本キットは、ナノ電解セル、電極基板及び電源から構成されており(図1)、ナノ電解セルにはナノワイヤの原料溶液を注入し、電極基板をセットします。電極基板は電源に接続し、数ボルト程度の電圧を印加し、数分間程度電流を流します。 ナノワイヤの作製場所は流す電流で制御でき、直流の場合は電極上に、交流の場合は2 つの電極が最も接近した場所だけに2 つの電極を橋渡しするように形成され、そのまま配線として利用することができます(図2)。ナノワイヤの幅や長さは10nm 程度以上であり、太さや長さの制御が可能です(図3)。

図1 ナノ電解セルと電極基板
図1 ナノ電解セルと電極基板

図2 電極間をナノワイヤで架橋が可能
図2 電極間をナノワイヤで架橋が可能

図3 これまでで最細(幅14nm)のナノワイヤ 原料分子約10 個分の幅に相当
図3 これまでで最細(幅14nm)のナノワイヤ
原料分子約10個分の幅に相当

図4 ナノ電解法によるナノ配線作製の例
図4 ナノ電解法によるナノ配線作製の例



図5 ナノ電解法によるナノデバイス作製の例
図5 ナノ電解法によるナノデバイス作製の例

用語解説

サイズがnm(ナノメートル:1 ナノメートルは100 万分の1 ミリ)程度のレベル。

結晶のいずれの位置においても、結晶軸の方向が変わらないもの。

ナノメートルスケールの線状物質。複数の分子が集合してできたものや、1つの巨大分子でできたものなどがある。ナノワイヤの長さや幅は数ナノメートルから数百ナノメートル。

ナノ電解法は、電気化学的手法の1つである電解結晶成長法を基にした、低コスト・省エネルギーで高性能なナノデバイス作製法。この手法では、電極間に選択的にナノワイヤを作製することができ、電解条件によって、作製位置の制御と複数箇所同時作製が可能となる。本技術で作製されたナノワイヤは、複数の分子が集合した単結晶であり、環境に合わせてその場で分子を組み立てられ、更に電気分解によって通常の分子よりはるかに電気が流れやすくなっている特長がある。

関連報道:
平成16年10月26日 「低コストでナノワイヤを自在に配置する新技術開発に成功」
https://www2.nict.go.jp/pub/whatsnew/press/h16/041029-2/041029-2.html

ナノスケールで電流のオン、オフや発光などの機能を果たす素子。

自然と秩序が生じて、自分自身でパターンのある構造を作り出して、組織化していく現象のこと。

有機材料を使ったデバイス。フレキシブルなプラスチック基板上に、塗布や印刷プロセスにて、室温に近い低温で作製でき、軽量、フレキシブル、低コスト、大面積化が容易に行えるなどの利点から、研究開発が活発化している。代表的な有機デバイスとしては有機ELディスプレイ、有機トランジスタ、有機太陽電池、電子ペーパーなどがある。

主に低分子化合物を材料とする薄膜を製造する際に用いる技術。真空のチャンバー内で、原料化合物を加熱し蒸発させることにより、真空チャンバー内に置かれた基板の上に、化合物が薄く(数ナノメートルから数百ナノメートル)蒸着される。

インクの微細粒子をノズルより吐き出してパターンを形成する印刷法。



本件に関する 問い合わせ先

社会還元促進部門 技術移転推進室

稲森 康治、金子 明弘、武捨 清
Tel: 042-327-7239
Fax: 042-327-6659
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取材・広報に関する 問い合わせ先

広報部 報道担当

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Fax: 042-327-7587
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