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世界初!ナノテクノロジで高精度かつ波長可変特性を持つ“光源”を開発

~ 新しい周波数帯を利用した超高速・大容量光通信への道を拓く ~

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2011年12月13日

独立行政法人 情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、ナノレベル構造の半導体量子ドットを活用し、現在、光情報通信で利用されていない波長を含む帯域において、多くの波長の光を高精度に生成する光源の開発に世界で初めて成功しました。さらに、この光源とフォトニック結晶ファイバを利用した光伝送実験に成功し、光情報通信における新たな波長帯域利用の可能性を世界に先駆けて実証しました。

今回開発した「量子ドット光源技術」によって、現在の光通信波長帯の約10倍の光周波数資源(約70テラヘルツ)を確保でき、効率良く帯域を利用することが可能になります。また、量子ドットやフォトニック結晶ファイバはナノレベルの構造を持つため、ナノテクノロジ活用による光情報通信の技術革新が期待されます。

なお、本成果の詳細は、2011年12月12日(月)、米国光学会出版の『Optics Express』誌に掲載されました。

背景

現在の光ファイバ通信では、光信号の減衰やデータの歪みが少ない、波長1.55ミクロン帯の10テラヘルツほどの帯域が利用されています(図1)。この波長帯で効率的に光信号を利用するための研究開発は進められていますが、将来の超高速・大容量光情報通信を実現するには、このような対策だけでは不十分で、周波数資源不足が問題となっています。

そこで、NICTは、光周波数資源の新たな開拓とその効率的利用に関する研究として、広帯域ではあるものの伝送や光発生が難しく、実用化に至っていない光周波数帯域(図1)を有効に活用するフォトニクス基盤技術研究を実施してきました。

今回の成果
高精度波長可変量子ドット光源
高精度波長可変量子ドット光源

今回、NICTは、波長1.0~1.3ミクロン帯で動作する光増幅材料として半導体量子ドットを活用し、広帯域な波長の可変性と、光周波数の効率的利用につながる高い光周波数の安定性を併せ持つ量子ドット光源の開発に成功しました(図2)。この光源の要となる量子ドット材料の開発には、原子オーダー(サブナノレベル)で結晶構造を制御するため、NICT独自の「サブナノ層間分離技術」(図3)を用い、量子ドットの高品質化と従来比2倍ほどの高密度化を達成しました。また、この光源と超広帯域光伝搬特性を有するフォトニック結晶ファイバを組み合わせた高速光データ伝送サブシステム(図4)の構築とエラーフリー光データ伝送に成功し、光情報通信における新しい波長帯域利用の可能性を確実なものとしました。

今後の展望

量子ドットやフォトニック結晶ファイバなどのナノテクノロジを光ネットワークコンポーネントの基盤技術に活用することで、光情報通信に利用可能な光周波数資源の大幅な拡大や、光周波数の効率的利用による技術革新が期待されます。さらに、この新しい波長帯域(1.0~1.3ミクロン帯)は、人体の皮膚や水分の透過性が優れていることから、バイオイメージングや医療センシングなど、より身近な利用も期待されます。

また、今回NICTが開発した「量子ドット光源」に関しては、光伸光学工業株式会社及びセブンシックス株式会社にてプロトタイプ装置を作製し、製品化に向けて技術移転展開を検討しています。

なお、本成果の詳細は、2011年12月12日(月)、米国光学会出版の『Optics Express』誌(Vol. 19, Issue 26)に掲載されました。(http://www.opticsinfobase.org/oe/abstract.cfm?URI=oe-19-26-B636

補足資料

図1: 光通信に割り振られたバンド名と光周波数(波長)帯域の関係
図1:光通信に割り振られたバンド名と光周波数(波長)帯域の関係

現在、光情報通信帯域として、波長1.55ミクロン帯のCバンドやLバンド(約10テラヘルツ)が最も広く利用されていますが、これに対し、今回注目している波長1.0~1.3ミクロン帯のTバンドやOバンドには、非常に広大な光周波数帯域(約70テラヘルツ)が期待されます。

図2:今回開発した量子ドット光源

(a)「高品質量子ドットを光増幅材料として用いた光源の外観図」(b)「開発した量子ドット光源の波長可変特性の一例」

低コスト・大面積のGaAs(ガリウムヒ素)半導体基板上の量子ドットとして、世界最長級の波長1300ナノメートル(1.3ミクロン)超を達成し、広帯域の波長可変特性と光周波数の効率的利用につながる高い光周波数安定性を実現しました。

図3:サブナノ層間分離技術
図3:サブナノ層間分離技術

(a)
「サブナノ層間分離技術の断面模式図」
(b)
左図:「従来技術により作製された量子ドット構造」 右図:「今回開発した新技術による高品質量子ドット構造」
(c)
「光増幅デバイスの外観」

NICTが独自に開発した「サブナノ層間分離技術」は、原子オーダー(サブナノメートル長程度)の結晶を量子ドットと量子井戸の間に挟む構造を持ちます(a)。

量子ドット構造は、従来、結晶品質や光増幅特性の劣化につながる巨大な凝集構造が多数発生していました(b左図)が、今回開発した新技術により、およそ倍以上の世界最多級の高密度・高品質の半導体の作製に成功しました(b右図)。

(c)は、今回開発した広帯域波長可変・狭線幅量子ドット光源に組み込まれた「光増幅デバイス」です。

図4: 高速光データ伝送サブシステム
図4:高速光データ伝送サブシステム

2つのコンポーネント(a)、(b)を組み合わせて光伝送サブシステムを構築しました。

ナノテクノロジを活用することで、光情報通信ネットワークに利用可能な光周波数帯域の拡大に貢献できる可能性を世界に先駆け実証しました(c)。



用語解説

ナノ

1ナノ(n)は10億分の1のことです。およそ原子10個分の大きさに相当します。

量子ドット
光増幅材料として用いられる量子ドット構造の鳥瞰イメージ図
光増幅材料として用いられる量子ドット構造の鳥瞰イメージ図
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量子ドットとは、ナノメートルスケールの微小な粒で、半導体結晶で構成されています。この微小な構造を発光材料や光増幅材料として光デバイスなどに用いると、従来困難であった長波長・広帯域動作が可能となります。また、この量子ドット構造の光デバイスは、低消費電力化などの低環境負荷・グリーン技術としても期待されています。さらには、太陽電池への応用や量子情報通信技術への応用も期待されています。

フォトニック結晶ファイバ

光の伝搬するコア領域近傍に規則的、周期的な空孔を開けた構造の光ファイバです。従来の光ファイバよりも広波長帯域の光が伝搬可能で、高い光入力パワーに耐えられる性能や、折り曲げに強いなどの配線自由度も特徴としています。ホーリーファイバが代表的構造です。

テラ

1テラ(T)は1兆のことです。

ナノテクノロジ

原子や分子のサイズはナノメートルになり、ナノテクノロジはナノメートルの精度を要する技術です。ナノテクノロジを駆使することで、従来に無い性質を持った新素材開発や光・電子デバイスの高性能化が可能になります。材料、工業、医療、環境など多くの分野での応用が期待されています。

ホーリーファイバ
ホーリーファイバの断面模式図
ホーリーファイバの断面模式図
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光ファイバは屈折率の高い領域(コア)とその周りの屈折率の低い領域(クラッド)で構成され、コア領域を光が伝搬します。ホーリーファイバでは多数の空孔によりクラッドが形成されています。ナノメートルスケールでこの空孔の大きさや配置、形状などを調整することで、光ファイバの特性を向上させることができます。



本件に関する 問い合わせ先

光ネットワーク研究所 光通信基盤研究室
山本 直克、赤羽 浩一、川西 哲也

Tel:042-327-7453
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取材依頼及び広報 問い合わせ先

広報部 報道担当
廣田 幸子

Tel:042-327-6923
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