近年、電気/ガス/水道の各種メータを制御することにより、家庭で消費されるエネルギー使用量をできるだけ削減し、環境に優しい社会を作る動きが進んでいます。特に、災害時等の緊急時に電気/ガス/水道供給会社が有線接続を利用できない場合や電気等が使用できない場合においても、容易に、確実に各家庭に設置されている各種メータの無線による自動検針、状況監視、メータ制御を行うことができる無線通信と各種メータの融合に関する研究開発が急務とされています。このシステムはスマートユーティリティネットワークという名称で内外において研究開発が行われており、NICTでは上記利用形態を想定した各種メータの無線による自動検針、状況監視、メータ制御方式の技術を新たに研究開発すると共に、その研究成果を米国IEEE802委員会にて策定中の標準規格に提案し、最新のドラフトに標準仕様の形で収録することに成功しました。しかし、この標準仕様の実用化を念頭においた実証試験はまだ行われておりませんでした。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、米国IEEE802委員会で策定中の電気、ガス等の各種メータの無線による自動制御、検針、状況監視等を容易にかつ確実に実現するスマートユーティリティネットワーク(以下「SUN」)標準化ドラフトに準拠した無線機を開発し、ガスメータを用いた自動検針の実証試験に成功しました。
本無線機は、電源投入時にマルチホップ通信によるメータ間のデータ収集/配信経路を自動的に構築できるとともに、電気を利用することが難しいガスメータ、及び緊急災害時に給電できない場合にも対応し駆動が可能なように、乾電池だけで数年動作する省電力化を実現する通信方式(物理層、MAC層)を具備しており、通常時のみならず緊急災害時にも安定に動作する事が可能です。
今回開発した無線機は、NICTからIEEE 802標準化委員会に提案し、ドラフト仕様に採択された無線の通信方式を具備しております。今回の実証試験の結果、電源投入時にマルチホップ通信によるメータ間のデータ収集/配信経路を自動的に構築できることを確認できました。また、電気を利用することが難しいガスメータや緊急災害時に給電できない場合にも対応して電池等により駆動が可能なように、通信待ち受けやデータ送受信の動作を、無線機間でタイミングを合わせ間欠的に行うことで、従来の連続的な動作と比べ、1/100程度の省電力化を実証しました。これらより仮に電池駆動になっても数年間の動作を実現することが可能になりました。
IEEE802委員会の標準化は、2011年末に完了する予定です。同時に国内の無線局設備規則整備に本実証試験の成果を用いて貢献し、SUNシステムの早期導入を促進し、ICTを利用した安全安心社会の実現を目指します。
<想定システムの概要>
図1にSUNのシステムイメージを示します。
各家庭に設置されたガス・電気・水道メータ等には無線機が接続されていて、検針データを適時発信します。検針データは、集合住宅や、戸建の住宅区画に相当するSUNのサービスエリア内の収集・制御局で集約されます。
図のように、無線機同士でデータの多段中継を行うことで、通信距離を確保し、遮蔽等による電波不感地帯も解消することができます。このようにSUNで収集された検針データは、広域系通信によってさらに中継され、より広域の収集・制御局にて収集されます。
表1 無線機諸元 | |
サイズ | 20cm×17cm×7.5cm |
周波数帯 | 953.0 MHz |
送信電力 | 10 mW |
変調方式 | Filtered-2FSK |
伝送速度 | 50, 100, 200kbps |
物理層 ペイロード長 |
0~2047オクテット (1オクテット=8ビット) |
アクセス 制御方式 |
アクティブ区間における 競合型アクセス |
ルーティング 方式 |
ツリー構造に基づく各無線機から根への単方向ルーティング |
2.実証試験
図4に、実証試験における本無線機の動作を示すインタフェース画面を示します。試験では、収集・制御局を含め5台の無線機によるSUNのためのデータ収集経路が自動的に構成されました。さらに、収集・制御局以外の4台の無線機は、ガスメータに接続され、定期的に指針値のデータを収集・制御局まで通知する動作を確認することができました。本実証試験では、150m程度までの距離をおいて直接通信が問題なく行われたことを確認し、2段のマルチホップ通信により、半径 300m程度のSUNサービスエリアが実現可能であることを確認しました。
用語解説
米国の電気・電子技術の学会であるIEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)内で、LAN等の規格策定を行っている委員会です。このうち、無線パーソナルエリアネットワーク(Wireless Personal Area Networks; WPAN)の標準化は、IEEE 802.15というワーキンググループ(WG)によって推進されています。本WGには、標準化対象に応じて以下のとおり複数のタスクグループ(TG)が組織されています。
IEEE802.15.4:
低消費電力・低伝送速度のサービスを提供するための物理層及びMAC層の標準化を行ったTGです。策定されたIEEE802.15.4標準規格は、868MHz、902MHz、及び2.4GHz帯を用いて、それぞれ20kbps、40kbps、及び250kbpsまでの伝送速度を実現する物理層仕様と、PANと呼ばれる無線機群を形成し、TDMAあるいはCSMAによるアクセス制御を行うMAC層仕様を規定しています。
IEEE802.15.4g:
SUN実現のために、既存のIEEE802.15.4の物理層仕様の変更を策定しているTGです。最新のIEEE802.15.4gドラフトでは、このような変更点として、変調方式の追加、周波数帯の拡張、データサイズの拡張等が収録されています。
IEEE802.15.4e:
上記IEEE802.15.4g標準規格のような、IEEE802.15.4の物理層仕様の変更に伴い、必要となるMAC層仕様の変更を策定しているTGです。最新のIEEE802.15.4eドラフトでは、IEEE802.15.4gに関連するMAC層変更点として、間欠型通信動作の規定等が収録されています。
IEEE802委員会ホームページ:http://www.ieee802.org/
IEEE802.15WGホームページ(関連TGへのリンクあり):http://www.ieee802.org/15/
ガス、電気、水道のメータに無線機を搭載し、無線通信を介して検針データを効率的に収集する無線通信システムです。電波の劣化等を考慮したうえで所望のサービスエリアを確保することや、システムメンテナンスの見地より省電力動作を確立することが主な技術課題と考えられます。将来的には、検針データの収集にとどまらず、収集データに基づいた、エネルギーの制御・管理技術等にも有効利用されることが予想されます。
無線機間の一対一の直接通信に対して、第三の無線機によって通信が1回以上中継される通信形態を指します。中継数に応じて、通信の伝達距離は比例的に増大するほか、逆に直接通信の場合と同等の通信距離を、より低い送信電力で実現することも可能です。また、無線電波に対する障害物を回り込むような中継経路の設定によって、電波の不感地帯を解消することもできます。
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