NICTでは、多言語サービス基盤である「言語グリッド」を2006年4月より開発してきました。言語グリッドでは、言語の専門家によって開発された汎用かつ高度な辞書や翻訳ソフトウェア等と現場で制作され分野に特化した用語集や用例集等がWebサービスとして登録されます。また、ユーザはこれらのサービスを自由に組み合わせて利用することができます。今まで、言語グリッドの運営は京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻で、非営利利用及び研究利用を対象に行われ、医療、教育、防災などの現場で多文化共生活動の支援に利用されてきました。しかしながら、国内の運営では、海外の言語資源提供者にアクセスすることに限界があるため、言語グリッド上のサービスが日本語や英語に関するものに偏っており、国内の多文化共生活動支援に必要なアジア言語のサービスの拡充が現在のユーザから求められていました。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)と国立大学法人京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻(石田 亨教授)を中心とする研究グループは、タイ国立電子・コンピュータ技術研究所(以下「NECTEC」という。所長:Pansak Siriruchatapong)と連携してインターネット上の多言語サービス基盤「言語グリッド」の運営を開始しました(以下、複数の組織が連携して言語グリッドの運営を行うことを連邦制運営と呼ぶ。)。この連邦制運営により、これまで国内の単一組織による言語グリッド運営では限界のあったアジア諸国からの参加者やアジア言語の言語資源の獲得が促進されます。また、国内の多文化共生活動や国際交流活動でのアジア言語のサービスの利用を可能にします。
NICTは複数の言語グリッドを接続可能とする言語グリッド連携基盤を開発するとともに、京都大学と共に総務省戦略的情報通信研究開発推進制度 (SCOPE)の助成を受けて、言語グリッドの連邦制運営モデルを構築しました。また、NECTECの言語グリッドの運営開始に伴い、平成23年1月から複数言語グリッド間で多言語サービスを共用できる言語グリッドの連邦制運営を開始しました。これにより、お互いのユーザは多言語サービスを相互に利用することができるようになります。これまでも単一言語グリッドでの多言語サービスの共有は行われてきましたが、多言語サービス基盤間を接続し、お互いの多言語サービスを連携させる試みは世界で初めてです。
言語グリッドはオープンソースソフトウェアとして公開しており、また言語グリッドの覚書は、言語グリッドが運営されている国の法令に準拠しており、国内外での連邦制運営の展開が容易です。NICTと京都大学は、今後は、言語グリッドの連邦制運営をアジアだけでなく、ヨーロッパにも展開していく予定です。
<京都大学及びNECTECの言語グリッドの運営状況>
京都大学社会情報学専攻は、2007年12月から言語グリッドの運営を開始し、これまでに日欧言語を中心に20カ国語94言語サービスが登録されている。一方、NECTECは、今年の1月から言語グリッドの運営を開始し、アジア言語(インドネシア語、韓国語、タイ語、日本語、ヒンディ語、ベトナム語等)を中心に概念辞書サービス、翻訳サービス、音声合成サービスなど13カ国語20言語サービスが登録されている。
<言語グリッドの連邦制運営モデル>
NICTの開発した言語グリッド連携基盤により接続された京都大学とNECTECの言語グリッドを用いて、アジアの外国人との多言語コラボレーションを支援するための多言語サービスを実現します。例えば、京都大学の運営する言語グリッド上で、日英ライフサイエンス辞書サービスと日英翻訳サービスを連携させて医療分野に特化した日英翻訳サービスを実現し、もう一方のNECTECの運営する言語グリッドの英泰翻訳サービスとタイ語音声合成サービスを連携させることで、その翻訳結果をタイ語の音声で出力します。
用語解説
豊かなユビキタスネット社会の実現に向けてICT分野のイノベーションを生み出すことを目指し、総務省が定めた戦略的な重点研究開発目標を実現するための独創性・新規性に富む研究開発を支援する競争的資金制度。
戦略的情報通信研究開発推進制度の通称で、総務省による情報通信技術(ICT)分野の研究開発における競争的研究資金制度です。
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