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「きずな」で世界最高速1.2Gbps(単一搬送波)の伝送に成功

より高品質での超高精細3D映像伝送をめざして

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2010年11月30日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS) (以下「きずな」という。)を使用して、将来の超高精細映像伝送を可能にする超高速データ伝送実験に取り組んでいます。この中で(1)フルハイビジョンの 4倍の画素数の4K超高精細3次元映像(4K3D)の衛星による伝送に成功しました。これは世界で初めての試みで、伝送速度は622Mbpsです。(2)1.2Gbpsの単一搬送波による通信に対応した地上局用システム(高速バーストモデム)の開発に取り組み、伝送エラーゼロでの伝送試験に成功しました。これは、衛星通信で世界最高速であるとともに、より高品質での超高精細映像の3D伝送を可能とするものです。

4K3Dの映像伝送実験では、平城遷都1300年祭の模様を中継伝送しました。その4K3D録画映像は、先般横浜で開催されたAPEC2010の政府展示会場において大きく展示されました。

これらの成果は12月2日(木)にNICT(本部)にて開催されるWINDSワークショップで報告する予定です。

背景

NICTは、「きずな」を使用して、高速衛星通信の研究開発を行っています。高速データ伝送の重要なアプリケーションである次世代の超高精細映像の伝送に必要な技術開発の一環として4K3Dの伝送を可能にするための実験に取り組んでいます。

この「きずな」実験用に622Mbpsが伝送可能な衛星通信用モデムを開発し、伝送実験に使用してきました。さらに、NICTが開発した2GHz高速多重D/Aコンバータを使用し1.2Gbps(単一搬送波)の高速通信に対応できるモデムの開発も平行して実施しています。

4K3D映像の伝送は、実験用ネットワークを用いた伝送実験には成功していますが、衛星回線での伝送が課題でした。

今回の成果

(1)では、平城遷都1300年祭の会場(奈良県奈良市)に直径2.4mのパラボラアンテナを搭載した車載地球局を持ち込み、「きずな」を通じて 622Mbpsで伝送する実験を実施しました(TDMAモード)。伝送パラメータの最適化などを行う事により、十分な品質で映像伝送ができることを確認するとともに、伝送した映像を11月のけいはんな情報通信研究フェアではリアルタイムで公開し、APEC2010横浜の政府展示では録画映像を公開しました (図1、図2参照)。

(2)では、「きずな」搭載中継器の1.1GHz帯域を最大限使用した、単一搬送波の1.2Gbps伝送に成功しました。これまでは 622MbpsTDMAモードを実現していましたが、今回、NICTが開発した毎秒2GHzの高速多重D/Aコンバータを用いた地上局用システム(超高速バーストモデム)を構築し、1.2Gbpsでの実通試験を試みました。その結果、鹿島宇宙技術センターに設置された4.8m径アンテナ地球局と「きずな」間の折返し伝送実験で、計測用の擬似雑音データを伝送することにより、単一搬送波1.2Gbps伝送におけるビット誤り率が0となることを確認し、通信衛星として世界最高速の性能を達成したことを確認しました。これは、超高速インターネット衛星「きずな」がその主要なミッションの一つとして位置づけていたギガビットクラスのデータ伝送技術を確立したといえるもので、画期的な成果です。

今後の展望

今回の成果をさらに発展させた技術実験に加え、「きずな」の特徴を活かした様々な応用実験に取り組みます。今後は、さらに、1.2Gbpsの帯域をフルに活用して安定した性能を発揮できる、より高精細な4K3D映像伝送実験に取り組むとともに、多地点間でのSS-TDMAによる高速衛星通信実験を行うことで、非常時通信やアジア・太平洋域のデジタル・ディバイドの解消に貢献することを目指します。

図1 APEC2010での展示風景
図1 APEC2010での展示風景
図2 伝送録画された遷都1300年祭の風景(遠方に見えるのは朱雀門)
図2 伝送録画された遷都1300年祭の風景(遠方に見えるのは朱雀門)
補足資料

1.超高速インターネット衛星「きずな」(WINDS)

アジア・太平洋地域のデジタル・ディバイドの解消、衛星利用の高度化等に必要なギガビット級の超高速衛星通信技術の確立を目的に、NICT及びJAXA が開発した技術実証を目的とした衛星で、平成20年2月23日にH-IIAロケットで打ち上げられ、平成20年6月30日から定常運用されています。衛星通信能力として、「きずな」(WINDS)に搭載されているNICT開発の再生中継器を用いることで、小型地球局(VSAT)を用いて最大155 Mbpsのメッシュ接続による通信が可能です。また、1.1 GHz帯域幅のベントパイプ型の衛星中継モードを用いれば、世界最高速の1.2 Gbps伝送が可能です。

国内9ビーム、国外10ビームの固定マルチビームアンテナ及び広域電子走査アンテナ(アクティブ・フェイズド・アレイ・アンテナ:APAA)によりアジア太平洋全域を通信可能エリアとしてカバーします。APAAは洋上や離島も含め、どこでも自在にブロードバンド通信が可能で、デジタル・ディバイド解消や機動性を必要とする様々な用途に利用できます。

超高速インターネット衛星「きずな」の役割

2. 1.2Gbps高速バーストモデム

「きずな」(WINDS)の非再生交換中継によって最大1,244 Mbpsと高速の情報伝送を可能とする通信システムの開発を行いました。高速バーストモデムは、変復調装置と付属のデジタルターミナルから構成されます。その中心となる変復調装置は、TDMA方式の高速バーストの変復調を行います。デジタルターミナルは、無線回線の制御及びデータの伝送先の指定やコンピュータなどの実験端末とのインターフェースなどを行います。変復調器をFPGAで構成したほか、誤り訂正に高効率のターボプロダクト符号化復号を採用するなど、最先端のデジタル技術を採用しています。

1,244Mbpsのデータレートに対応するため、新規にFPGAと接続用のマルチプレクサーが付いた2Gsamples/秒と高速なデジタルアナログ変換器を開発しました。

高速バーストモデム
(a)モジュレータ
(a)モジュレータ
(b)デモジュレータ
(b)デモジュレータ
(c)デコーダ
(c)デコーダ
(d)デジタルターミナル
(d)デジタルターミナル

3. 4K3D超高精細3次元映像伝送技術

NICTでは、並列PCで構成される「マルチチャンネル映像伝送システム」(ソフトウエアコーデック)を研究開発しています。この伝送システムは、 HD(フルハイビジョン)映像を1対のPC(1チャンネル)でエンコード/デコード(圧縮符号化/復号化)し伝送します。また、数百チャンネル(数百枚) の映像を同期して伝送することができます(超マルチチャンネル同期映像伝送の実現)。従って、超多視点3次元映像(裸眼(メガネなし)3次元映像)を同期伝送することができます。

今回の実験では、このマルチチャンネル映像伝送システム8チャンネルを使用し、4K3D映像(HD映像8枚に分割)を同期伝送することに成功しました。

4K3D超高精細3次元映像伝送技術

用語解説

「きずな」(WINDS)

超高速インターネット衛星(Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)。NICTと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発した技術実証のための衛星で、平成20年2月に打ち上げられ、精力的に通信実験が行われています(補足資料1参照)。

高速バーストモデム

WINDS高速衛星通信用にNICTが開発したモデムで、主要諸元は以下の通り。

伝送速度:622Mbps、1.2Gbps
変調方式:QPSK
誤り訂正方式:ターボ積符号(128,120)2

SS-TDMA(Satellite Switching – Time Division Multiple Access)

時分割多元接続(TDMA)方式とマルチビームシステムにおいて衛星搭載スイッチを組み合わせて使用する通信方式。

<本件に関する 問い合わせ先>
新世代ワイヤレス研究センター推進室
秋岡 眞樹

Tel:042-327-6885
E-mail:

<広報 問い合わせ先>
総合企画部広報室
報道担当 廣田 幸子

Tel:042-327-6923
E-mail: