特長(1) 速い運動を高い精度で滑らかに再構成したこと
5人の実験参加者について予測誤差(脳活動から予測した位置と実測した位置とのずれ)の平均を計算すると、15 ミリメートルであった。指先の往復移動距離は20センチメートルなので、わずか7%の誤差で再構成できたことになります。速い運動を滑らかに再構成するためには、脳波やMEGなど、神経細胞の電気的な活動を計測する必要があります。我々は、脳波やMEGによる従来の再構成手法に従い、センサー信号から直接、指先の位置を再構成することも試みましたが、今回提案した手法の方が、高い精度で再構成できました。提案手法は、センサー信号を皮質電流に変換することで、再構成にとって重要な指先の運動に関連する脳活動を効率的に選択できたためです。
特長(2) 速い運動を高い精度で滑らかに再構成したこと
脳のさまざまな部位の皮質電流に対する重みの値を、脳の表面上に色で示すと図6のようになります。重みの絶対値が大きい(赤・青)場所は、再構成にとって重要であることを示しています。このように皮質電流を使って再構成すると、脳のどの場所の活動が再構成にとって重要であったかがすぐに解り、神経科学における知見と比較・検討することができます。神経科学では、運動野は「身体運動を直接にコントロールする部位」、体性感覚野は「運動によって生じる感覚情報を受け取る部位」、頭頂連合野の一部は「運動を計画する部位」とされていますが、今回の推定でもそれらの部位に高い重みの値が見られ、指先の運動に関わる脳活動を利用して運動を再構成していたことが確認できました。
また、今回は「スパース推定」を用いて、重要な皮質電流を自動的に選び出しましたが、上記のような神経科学的な知見と脳の解剖地図を基に、研究者が手動で皮質電流を選び出すことも可能です。サンプルデータが少ないときに、手動による選択方法が有効であることも、具体的なデータに基づき明らかにしました。
【図6】脳の表面上に色で表した皮質電流に対する重みの値