NICTでは、時間と空間を超え同じ環境を共有しているかのような感覚が得られる超臨場感コミュニケーション技術の研究開発を進めています。その重要な要素技術の一つとして、物理法則(波動方程式)に可能な限り基づいた立体音響技術を研究しています。従来の5.1chに代表されるサラウンド方式は、音源のある一方向の表現が可能であり、また、音源の移動表現が可能なため、映画等の大型の映像システム用として開発されてきました。しかし、空間的に立体表現が可能な映像システムでは、映し出されている物の向きも表現可能で、視聴する位置により異なった映像を見ることができるため、音響システムにおいても同様な技術を開発する必要があります。従って、音源を全ての方向に再現する方式の実現が望まれていました。これまでにNICTは演奏者が静止した状態での音源の立体表現が可能な、26方向へ音響を放射する音響システムを開発してきましたが、さらに、滑らかな動きを表現するための新しいスピーカーの開発が課題となっていました。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原 秀夫)は、立体映像技術用の立体音響技術として、演奏家の動きも含めて、楽器や歌声等の音源の立体表現を可能とした立体音響システムを世界で初めて開発しました。
従来のステレオ方式や5.1chに代表される音響システムは、音源の移動を表現することは可能ですが、音源のある一方向しか再現できず、音源の向きや動きを再現できませんでした。本開発では、独立駆動する62chの音響信号を異なる方向へ放出して、音源を空間中で合成することにより、音源の向きや動きの立体表現を実現しました。これは、従来の装置と比較して、水平方向で2.5倍、上下方向で1.5倍の分解能に改善され、より滑らかで立体的な音響表現を実現することができるようになりました。
今回NICTが開発した立体音響システムは、音源の向きの表現精度が向上し、例えば歌を歌っている人の向き、ヴァイオリン奏者の演奏中の動き等が音を聞くだけで想い描けるようになりました。水平方向に20分割、上下方向にそれぞれ2分割の合成領域を持ち、球面状に62方向の放射が可能です。スピーカーの直径を17㎝から28㎝に大きくすることによって、合成の音響密度を上げ、音源の動きを滑らかに表現でき、再現可能な音源の種類も増加しました。これらにより、従来に比べ、より広い範囲で存在感と臨場感が向上した音響表現を実現できるようになったため、ホテルのエントランス等の広い公共空間でのサービスへの利用が期待できます。
今回の開発で、将来の究極の立体テレビや、それを利用した超臨場感コミュニケーションの実現に向けて技術を前進させることができました。今後は、本開発のシステムにおける正確に再現可能な周波数帯域の拡大をするとともに、さらなる、複数の音源を再現する技術とその音響システムの実現に向けた研究開発に取り組んでまいります。
なお、この成果を10月5日(火)~9日(土)に幕張メッセで開催されるCEATEC JAPAN 2010において展示します。
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