NICTでは、超臨場感コミュニケーション技術の一環として研究開発をすすめている多感覚インタラクション技術、貴重な文化財をデジタル化して長期に亘る保存や情報共有を可能とするための超高精細映像の表示技術、個人の体験に合わせて文化財の観賞を可能としたミュージアム支援技術の研究開発を進めています。これらの技術をバーチャルとリアルの本格融合したミュージアム展示へ応用し、あたかもそこに実物があるかのごとく五感で体験できるシステムを開発しました。これらのシステムを、平城遷都1300年祭で展示し、貴重な文化財をバーチャルに体験できる新しいミュージアムへの可能性を検証します。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」、理事長:宮原秀夫)けいはんな研究所 ユニバーサルメディア研究センターは、正倉院宝物「銀薫爐」の立体映像、感触、音、香りのリアルな再現や、国宝高松塚古墳壁画の西壁「女子群像」・北壁「玄武」を超高精細映像でリアルタイムなインタラクティブ表示に成功しました。これらの技術を用いて、普段は見たり触れたりすることができない貴重な文化財をバーチャルに五感で体験できるデジタルミュージアムを実現し、平城遷都1300年祭で7月31日(土)から平城京なりきり体験館にて公開します。(協力:宮内庁正倉院事務所、奈良文化財研究所)
- 多感覚インタラクションシステム:正倉院宝物「銀薫爐」があたかも手元にあるがごとくバーチャルに再現し、見て、聞いて、触れるだけでなく、さらに奈良時代の人が体験したであろう香りも再現しました。
- 超高精細映像表示システム:国宝の高松塚古墳壁画をNICTが開発した高速画像表示技術を用いて、リアルタイムに見たい箇所のインタラクティブ表示を実現しました。また、テラヘルツ技術を用いて壁画内部の非破壊調査を行い、保存修復のための有益な情報を取得するとともに可視化を実現しました。
- 写真と地図連携アプリ:NICTが開発した写真と地図とのマッピング技術を活用したアプリケーションと平城京時代の奈良をCGで再現した3次元地図とで連携しました。
平城遷都1300年祭平城京跡会場、平城京なりきり体験館(2010年7月31日~9月3日)
今後は、これらの技術をさらに発展させて、実物がなくても貴重な文化財をバーチャルに五感で体験できる今までにない新しいデジタルミュージアムの実現を目指します。
(1)多感覚インタラクションシステム
立体映像、音、感触、香りを統合して再生可能なシステム。ここでは、正倉院宝物「銀薫爐」を精巧に模した模造品の形状やテクスチャを非接触のデジタイザーで取得し、3 次元モデルを構築し、そこに硬さ、接触音,さらには香りを付与して、あたかもその場に銀薫爐があるがごとく五感で体験可能としました。香りは実際に奈良時代の人が銀薫爐で体験したと考えられる「伽羅(きゃら)」に似せた香りを体験していただけます。
(参考)多感覚インタラクションシステムに関するこれまでの報道発表。
- 2009年11月4日 四つの感覚を統合した多感覚インタラクションシステムの開発に成功 3D映像、音、感触とともに“香り”もインタラクティブに体験~
- 2008年6月18日 高松塚古墳出土「海獣葡萄鏡」の立体映像、感触、音をリアルに再現 ~超臨場感提示技術により貴重な文化財のインタラクティブ展示が可能に~
(2)超高精細映像表示システム
国宝高松塚壁画の西壁「女子群像」と北壁「玄武」を超高精細映像(FullHD(1920x1080画素)の12倍の解像度)で再現するシステム。また、携帯端末を用いてズームイン・ズームアウトや左右ターンなどの操作を可能とし、リアルタイムに見たい個所のインタラクティブな表示を実現しました。また、テラヘルツ技術を用いて壁画を非破壊検査し、見た目では分からない壁画内部の状態も超高精細映像で表示します。
(3)写真と地図連携アプリ
NICTでは携帯端末で写真を撮り、その写真に付与されたメタ情報(位置、向き、仰角)をもとに地図上に写真をマッピングして表示する技術を開発してきました(下図)。今回はこの技術と、CGで再現された平城京時代の奈良の3次元地図とを連携させ、写真を撮影した場所が、平城京時代にどのような場所であったかを体験できるシステムを構築しました。このように、ミュージアム所蔵の文化財(平城京時代の3次元地図)に各人のミュージアム外での体験(写真撮影)を関連付けることで、より深い歴史文化教育が期待できます。
用語解説
銀薫爐は天平勝宝8歳(756年)7月26日に光明皇后が東大寺盧舎那仏に献納された宝物で、その際の目録『屏風花氈等帳』に記載され、由緒の正しさ及び製作の優秀性ともに正倉院宝物を代表する一つである。衣服などに香を焚き込むための球形の香炉で、本体は銀製鍛造、表面には宝相華唐草文の地に獅子や鳳凰を配した文様を毛彫りしたのち、間地を切り透かす。赤道に当たる部分で、上下に分割できるようになっており、下半部の内側には鉄製鍛造の半球形の焚香皿が径の異なる同心円の銀製輪3枚を介して取り付けられている。下半部と三重の輪、それに焚香皿の取り付けは銀製の鋲により、回転軸を各90度ずらして取り付け、焚香皿が常に水平状態を保つジャイロコンパスのような仕組みになっている。(正倉院起要第25号より)
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本件に対する 問い合わせ先
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