量子暗号や量子情報通信技術の実現には、高感度、高速かつ低雑音で光子を検出する技術の開発が一つの鍵となっています。なかでも、超伝導単一光子検出器は、光子検出技術のキーデバイスとして期待されてきました。これまでに、NICTは独自の超伝導薄膜・デバイス作製技術と光ファイバ実装技術、及びシステム化技術を開発し、国産第1号機となる超伝導単一光子検出システム(図1)を開発(平成20年9月30日に報道発表)、都市圏敷設ファイバで世界最長、最高速の量子暗号鍵配送を実現しています(平成20年3月26日に報道発表)。しかし、都市間伝送などの長距離・高速伝送の実現や、高感度光子検出器としての実用化・製品化には、より高い性能(検出効率と動作速度の向上)が求められてきました。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、量子情報通信技術を支えるコア技術として、高検出効率のマルチチャンネル超伝導単一光子検出器(SSPD)システムの開発に成功し、1550nm通信波長帯において、市販されている半導体アバランシェ・フォトダイオード(APD)の性能を遙かに凌駕する世界最高性能(検出効率20%、動作速度100MHz、暗計数率100Hz)を達成しました。また、開発したシステムは、最大6チャンネルを搭載すると共に、100Vの家庭用電源で駆動可能な小型冷凍機により構成され、小型化と低消費電力性の実現によって、実用化に向けて大きく前進しました。
今回開発したマルチチャンネル超伝導単一光子検出システムは、2年前のNICT開発のシステムに比べて検出効率が7倍、動作速度が2倍に向上しました。また、トータル性能として半導体APDを100倍凌駕しました(表1)。
今後、デバイスの改良とシステムの最適化を図り、さらなる高性能化(検出効率40%、動作速度1GHz)を実現することによって量子暗号システムへの実用化を目指します。また、基礎科学と応用光学など様々な分野での実用化・製品化を目指して、規格化や標準化などの国際戦略活動を行い、新たな産業創出に貢献することも期待されます。
なお、本成果の詳細は、2010年7月1日にOptics Letterにて論文掲載されました(Optics Letters, Vol. 35 Issue 13, pp.2133-2135 (2010))。また、2010年8月1日からアメリカで開催される国際会議「Applied Superconductivity Conference 2010」にて発表を予定しています。
表1 超伝導単一光子検出器とAPDの性能比較(検出効率20%、動作速度100 MHz動作時)
検出器 | 暗計数率(kHz) | アフターパルス確率 | ゲート動作 | 性能指数 x103 |
SSPD (NICT) |
0.1 | ~0 | 不必要 | 200 |
InGaAs/InP APD |
10 | 2×10-4 | 必須 | 2 |
検出効率:検出した光子数と入射した光子数の比。最大100%。
動作速度:検出可能な光子の繰り返し速度。
暗計数率:入射光子がゼロのときに検出した光子数。理想は0です。
アフターパルス:正規のアバランシェに続けて誤ったアバランシェ増幅が起こる現象。
性能指数:性能におけるメリットとデメリットの比(検出効率x動作速度/暗計数率)、トータル性能を表す指数。
用語解説
厚さ数ナノメートル、幅100ナノメートル(1万分の1ミリメートル)ほどの超伝導体細線に光ファイバから単一光子が入射すると、超伝導状態が壊れることを利用し、光子を検出する。半導体APD検出器に比べ極めて低雑音で、かつ光子の到来時間を正確に捉えることが可能。
SSPD: Superconducting Single Photon Detectorの略語
半導体におけるアバランシェ倍増(雪崩現象とも呼ばれる)現象を利用して受光感度を上昇させるフォトダイオードである。
APD: Avalanche Photodiodeの略語
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