NICTでは、分解能1.5m の航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR)を開発し、先端的な合成開口レーダ技術の先導的な研究を行うとともに、平成12年の有珠山および三宅島の火山噴火災害や平成16年に発生した新潟県中越地震に際して、広域にわたる被災地の状況を観測し、現地の災害対策や復興の一助となりました。一方で、多数の中小規模の土砂崩壊等を客観的に判断するという点で、1.5mという分解能に限界があり、さらなる高分解能性が必要であることが分かってきました。また、観測データを被災地にできるだけ迅速に提供することの必要性があらためて明確になりました。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)電波計測グループは、航空機から30cmの細かさで地上を航空写真のように観測できる合成開口レーダシステム(Pi-SAR2)を開発し、その性能を実証しました。合成開口レーダは、天候や昼夜に関係なく地上を観測することができるため、特に災害時の状況把握に有効です。NICTの開発したレーダはインターフェロメトリやポラリメトリといった先端的な機能を装備し、航空機搭載レーダとしては世界的にも最高の性能であり、災害の把握等の他に都市や建築物の精密な観測などの新たな合成開口レーダ(SAR)の用途が期待されます。
Pi-SARの技術を継承し、分解能を大幅に向上させた新たなレーダシステム(Pi-SAR2)を開発しました。Pi-SAR2では、広い観測幅 (5km-10km)を持ち、インターフェロメトリやポラリメトリといった、前号機の先進機能を維持したまま、分解能が5倍細かい30cmを実現しました。また、Pi-SAR2では、航空機上の処理システムを開発し、5km四方の領域の画像を15分で画像に再生することができます。これにより、迅速にデータを現地に提供することが可能になりました。
30cmの分解能が実現したことにより、災害時の被害状況の把握がより的確になされ、より迅速な対応が可能となりました。災害の把握等の他に都市や建築物の精密な観測などの新たなSARの用途が期待されます。なお、本成果は7月23日(金)及び24日(土)に東京都小金井市のNICT本部で開催される「施設一般公開」にて公開します。また、同時に開催される講演会でも発表します。講演のスケジュールは、NICTのWebページをご覧ください。
高分解能航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)による観測例
- 観測日:平成22年2月3日(水)
- 観測地域:北海道函館市五稜郭付近(図1、図2参照)
- 高分解能航空機搭載合成開口レーダ(Pi-SAR2)の概要
合成開口レーダは、航空機や衛星から地上に向けて電波を照射し、その反射波から地上の様子をあたかも航空写真のように観測することのできるレーダシステムです。合成開口という技術を採用することにより、高い位置から観測しても高い分解能で地上を観測することができます。
- 電波を利用しているため、雨や雲などの天候に左右されず、また、夜間でも観測できます。(通常の航空写真の撮影は非常に良く晴れた日中に限られます。)
- 高い飛行高度(12,000m)からでも、高い解像度(30cm)で、鮮明な映像を取得することができます。(通常の航空写真は、地表近くの水蒸気等の影響による映像のかすみを避けるため、3-4,000mの高度で撮影します。) 高い高度により、広い観測領域(数百平方km)を一度に観測することができます。実際には、約10kmの幅で20kmの距離の領域を約100秒で観測できます。(通常の航空写真では、何十枚もの写真を重ね合わせる必要があります。)
- その他にも、さらに高度な機能を用いて、より詳細な調査が可能です。(同時に地面の高さを測る機能(インターフェロメトリ)や、偏波を用いた地面の識別機能(ポラリメトリ)を有しています。)
レーダ画像の特徴として、地面より高いものはレーダ側(図の上部)に投影される効果があるため、タワーの展望台部分がずれて写っています(図の大きな丸、本来の位置は下の小さな丸の位置、図5 参照)。展望台の窓の様子を詳細に見ることができます。タワーの柱部分は、電波がレーダの方向と違う方向に反射されレーダに戻らなかったため、画像に写っていません。これもレーダ画像の特徴です。展望台の窓枠の格子状のパターンが再現されており、分解能が30cm 程度であることが分かります。
用語解説
浦塚 清峰
Tel:042-327-7536
Fax:042-327-5521
E-mail:
報道担当 廣田 幸子
Tel:042-327-6923
E-mail: