NICTけいはんな研究所ユニバーサルメディア研究センター(京都)では、高い臨場感を伴うコミュニケーション技術の確立へ向けて、特殊なメガネを必要としない(裸眼で)自然な立体ディスプレイの研究開発を進めています。テーブル上に立体映像を提示する場合、テレビ型の立体ディスプレイでは奥行き方向の立体感しか表現できず、これをテーブルに平置きして用いてもひとりでしか観察できなかったり、真上から覗き込むようにしか像を観察できないことが問題でした。一方、既存のボリュームディスプレイでは、映像を表示するための縦置きのケース状の装置が従来はテーブル上に必要であり、それが空間を占有するために書類交換などの一般的なテーブルを使った作業の邪魔となることが問題でした。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)けいはんな研究所ユニバーサルメディア研究センターでは、何もない平らなテーブルの上に立体映像が浮かび上がり、椅子に座っていても、周囲から複数人で同時に高さのある立体映像を観察できる、テーブル型の新しい裸眼立体ディスプレイ「fVisiOn」(エフ・ビジョン)の開発に成功しました。
今回新しく開発した技術は、何もない平らなテーブル面上(flat tabletop surface)に高さのある立体映像を浮かび上がらせて再生(floating 3D standing image)でき、着座時のような周囲360°から(from omnidirection of 360°)見下ろすように観察する場面に特化したものであり、複数人が裸眼で自然に利用可能なインターフェース(friendly interface for multiple users)です。
立体映像の再生には、NICTが新しく開発した特殊な光学素子と、円状に並べられた多数の小型プロジェクターを使います。これらの組合せでテーブルの上に置かれた物体が放つはずの光の状態を再現し、テーブルの周囲上方に円環状の立体映像が観察できる領域を創り出します(技術詳細は別紙参照)。これらの仕組みは全てテーブル面よりも下側に配置されており、テーブル上には一切の装置がありません。そのため、紙の資料や実物の模型の隣に立体映像を並べて表示したりすることなども可能です(図1)。
今回の原理検証システムでは、立体映像を再生するためのスクリーンにあたる円錐型の光学素子を試作し、96台の小型プロジェクターを用いることによって、現在は、理想形態の1/3にあたる周囲120°ほどの範囲から観察可能な立体ディスプレイとして実装しました。本試作機では、高さ5cmほどの立体映像が、テーブルの中央に置かれたオブジェのようにテーブル面から飛び出して立体的に見えます(図2)。
今後は、全周360°からの観察へ向けたシステムの拡張や、再生される立体映像の画質向上(像の鮮明さの改善、モアレの除去)や、より大きな立体映像の再生などに取り組む予定です。
開発した技術は、周囲上方からの観察に最適化した方式であるため、従来のテーブルを囲んで行うコミュニケーションの支援だけでなく、俯瞰する場面が多い地図を用いた作業(都市設計、交通整理、防災等)、インフォームドコンセントや手術の事前検討など医療での利用も期待できます。また将来的に装置の大型化ができれば、競技場のフィールドを立体的に再現して周囲の客席から観戦することも可能です。
本ディスプレイの詳細については、東京大学にて開催される「3次元画像コンファレンス2010」(2010年7月8~9日)、米国ロサンゼルスで開催される「SIGGRAPH 2010」(2010年7月25日~29日)にて学会発表されます。展示を伴う一般公開については、本年秋のけいはんな研究フェア(京都・けいはんな研究所)を予定しています。
立体映像の観察に適した領域を視域と呼ぶ。類似方式では、視域はディスプレイに対して真正面の数十度の範囲か、ある特定の領域にしか形成できなかったが、開発した技術によりディスプレイの斜め上方の周囲に円環状の視域を形成することに成功した。円環上視域に両眼があれば、立体的な映像がテーブル中央に裸眼で観察できる。
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