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有機分子層における脳のようなコンピューティング

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2010年4月26日

独立行政法人 物質・材料研究機構(NIMS、理事長:潮田 資勝)ナノ計測センター(センター長 藤田 大介)先端プローブ顕微鏡グループのアニルバン・バンディオパダヤイらは、米国ミシガン工科大学、独立行政法人情報通信研究機構(理事長 :宮原 秀夫)と共同で、人間の脳に似たプロセスを持つ「進化回路(evolutionary circuit)」を世界で初めて実現させた。

今回発表された研究は、有機分子層において、情報処理を行う回路が人間の脳神経(ニューロン)のように自己進化するプロセスを創製し、それにより今までよりもさらに複雑な問題を解くことができる。

この回路を用いた分子プロセッサーは以下の特徴を持つ。

大規模並列処理が可能。世界最速のスーパーコンピュータが、各々、それらの経路で順番にビットを処理するのに対して、今回の回路は一度に300ビットまでのパラレルで瞬間的な処理ができる。

欠陥がある場合、それを自ら修復することができる。有機分子層の自己組織力により、既存のコンピュータにはない自己修復性を有している。また、ある神経回路(ニューロン)が失われた場合、別の回路がその機能を引き継ぐ。

この分子層には知性が認められる。この研究は、アルベルト クレディ(Alberto Credi)の「IQを持つ単分子層」の予測(2008年)を実現した。

このユニークな特徴を証明するために、グループは熱の拡散とガン細胞の進展という2つの自然現象をシミュレーションした。

このような自然災害及び病気の発生の予測など、現在のコンピュータアルゴリズムが及ばない問題に、解決をもたらすことが考えられる。

この研究は日本時間4月26日(月)2:00(ロンドン現地時間25日18:00)に、ネイチャー姉妹誌Nature Physics誌電子版にて公開された。

研究の背景

1987年にJ.J.HopfieldとD.W.Tankによって提案されたように、バイオプロセッサーの力に匹敵するため、コンピューティングのハードウェアはダイナミックに変化しなければならず、また、符号化された問題に対応してハードウェア自身が進化する必要があった。    23年後の2010年、分子スイッチのアセンブリを使って、そのテクノロジーを実現した。 

科学者は、彼らが選択した様々なマテリアルを用い、アセンブリを構造的に再編成することによって、同様な機能を持つシステムを組み立てることができる。

コンピューティングの『夢』を実現するこのアイデアのブレークスルーは、今後多くの分野の科学者に重要となると考えられる。

研究開発成果

  1. 有機分子層における単一テンプレートにより、1024個の進化回路の選択を実現。
    (従来のCMOSに基づく進化回路では、6~7個の選択)
  2. この進化回路は、1955年にフォン・ノイマンにより提案された「セルオートマトン」(Cellular Automaton)モデルに基づく。今回、世界で初めて、このモデルは分子層において、物理的に実現された。

波及効果と今後の展開

  1. 現在のコンピュータ、スーパーコンピュータのプロセッサーパワーを超える問題を解くことができるようになると考えられる。特に、自然災害や病気の発生のような不良設定問題を解くことが期待できる。
  2. 人工知能は、この分子プロセッサーの大きな同時並列性により恩恵を受けると考えられる。
  3. 現在のロボットは変化する環境に対処することができないが、この分子コンピューティングのパラダイムを採用することにより、現在よりもはるかに知性的になると考えられる。

ブレインライクな(脳のような)分子回路の概念
図:ブレインライクな(脳のような)分子回路の概念

a.DDQ(2,3-dichloro-5,6-dicyano-p-benzoquinone,2,3-ジクロロ-5,6-ジシアノ-p-ベンゾキノン)分子
b.分子アセンブリの走査トンネル顕微鏡イメージ(上)と対応する分子回路(下)
c.○は分子、数字は連結するワイヤ数を表す

掲載論文

Massively parallel computing on an organic molecular layer
Anirban Bandyopadhyay, Ranjit Pati, Satyajit Sahu, Ferdinand Peper, Daisuke Fujita
Nature Physicsにオンライン掲載された。

用語解説

CMOS

Complementary Metal Oxide Semiconductor; 相補型金属酸化膜半導体 従来のコンピュータの設計・実装に使われている。

不良設定問題

数学用語。物理現象の数学的モデルの特質として「解の存在」「解が一意」「連続的なパラメータ変化の時、解も連続的に変化」を満たすものが良設定問題。これに当てはまらない場合、不良設定問題といわれる。

<研究内容に関する 問い合わせ先>
独立行政法人物質・材料研究機構ナノ計測センター先端プローブ顕微鏡グループ
研究員
Anirban Bandyopadhyay(アニルバン・バンディオパダヤイ)
(*英語対応のみ)

Tel:029-859-2167
Fax:029-859-2801
E-mail:

独立行政法人情報通信研究機構未来ICT研究センター ナノICTグループ
主任研究員
Ferdinand Peper(フェルディナンド・ペパー)
(*日本語対応が可能)

Tel:078-969-2161
Fax:078-969-2259
E-mail:

<広報 問い合わせ先>
独立行政法人物質・材料研究機構広報室

〒305-0047 茨城県つくば市千現1-2-1
Tel:029-859-2026
Fax:029-859-2017

独立行政法人情報通信研究機構総合企画部 広報室

〒184-8795 東京都小金井市貫井北4-2-1
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