現在のインターネットでは、セキュリティの問題、可用性・堅牢性の問題、持続進化できない問題など、困難な課題を多数抱えています。そこで、ユーザにとって、使いやすく安全に利用できるネットワークを確立するために、白紙からネットワークを設計し、様々な新しい通信プロトコルを提案・実装・検証するため、実際の環境に近いテストベッドの早期構築が必要とされています。現在、PlanetLabというPCサーバをノードとして用いたオーバーレイネットワーク型の分散アプリケーションを開発するための地球規模のテストベッドがあります。しかし、PCサーバだけでは性能や実現可能な機能に限界がありました。そこで、さらに高速で柔軟な機能を追加でき、自由に新しいサービスを利用できるネットワーク仮想化環境の実現が望まれていました。各国で新たなテストベッド構築の検討が開始されていますが、まだその基本設計が定まっていないのが現状です。本共同研究は、これまでの世界の研究開発を超える機能、飛躍的な性能の実現を目指して実施するものです。
(独)情報通信研究機構(NICT)・国立大学法人東京大学・日本電信電話株式会社・日本電気株式会社(NEC)・株式会社日立製作所・株式会社富士通研究所は、クラウドサービス等の新しいネットワーク利用に加え、さらに新たなサービス利用シーンに必要なネットワーク機能を自由に創ることができる「ネットワーク仮想化」を実現する「仮想化ノード」開発の産学官共同研究と実証実験を開始しました。
「ネットワーク仮想化技術」は、総務省が『新世代ネットワーク基盤技術に関する研究開発』の中で推進し、NICT・東大(中尾彰宏准教授・NICT プロジェクトリーダー兼任)を中心に研究開発を進めています。「仮想化ノード」開発はネットワーク仮想化を支える産業界の先端技術と、東京大学とNICT の先端知を結集した産学官連携の共同研究による世界初のシステム実証を目指すものです。
今後、わが国のテストベッドJGN2plus上に展開するとともに、米国や欧州のテストベッドとの連携も進める予定です。本共同研究の成果により、将来的に、ユーザにとって使いやすく安全なネットワークを実現し、産業界にとっても、新たなネットワーク利用技術開拓による市場創出につなげて参ります。
仮想化ノードで構成するネットワーク基盤の基本設計を行い、これらの統合管理・制御を行う技術を確立します。本技術により提供できるネットワーク基盤は、高速なパケット転送を維持したまま、多様で柔軟なプログラマビリティやアクセス制御機能を提供します。これにより、様々なネットワークの開発に携わる人たちにとって、新たな利用目的に合わせたネットワークをゼロから構築することが容易となります。また、新たに構築されたネットワークの利用者は、アクセスゲートウェイを介して新しいサービスを享受できるようになります(補足資料 新しいネットワーク基盤のイメージ参照)。
東京大学/NICT
東京大学とNICTは、これまでの共同研究により、来るべき新世代のネットワークでは、要求の異なる複数のネットワークを同時に収容可能な新しいインターネットの基盤技術として「ネットワーク仮想化技術」の研究開発を進めてきました。今回の、産学官連携による「仮想化ノード」の研究開発では以下の担当を推進しています。
- 産業界の先端技術と大学・研究所の先端知を結集したプロジェクトの先導
- 複数の多様な要件に基づいて設計された仮想ネットワークを相互に干渉しないように収容するために必要な各構成要素とシステム全体の詳細設計
日本電信電話(NTT 未来ねっと研究所)
多様化するネットワークの利用目的や異なる通信プロトコルに最適化された複数のネットワークを、共通の設備の上に構築するためのネットワーク管理・制御の技術を主に担当します。このための取り組みとして、
- ネットワーク研究開発者が仮想ネットワークを設計する際に用いる記述法を提案
- 複数の仮想化ノードに指示を行い、仮想ネットワークを動的に構築するためのネットワーク管理・制御技術の基本機能を考案
- これらに基づき、仮想ネットワークの構築を自動的に行うためのネットワーク管理・制御システムを実現
日本電気
NECは、実ネットワークに近い環境で研究者のアイデアを検証可能とする「プログラマブルネットワークノード」の研究開発を担当しています。本ノードは、パケット処理プロセッサと汎用プロセッサとOpenFlowスイッチからなる統合システムであり、以下の特長を有しています。
- OpenFlowスイッチ技術により、各種プロセッサリソースの自由な組み合わせで、ネットワークノードの構築が可能
- 10Gbps処理性能(最大64ユーザまでの同時利用が可能)の単位での増設が可能
- 多様なネットワーク機能に対応して、研究者へ自由なネットワークプログラミングと、高いパケット転送性能を同時に実現する環境を提供
OpenFlow技術:ネットワークの通信単位を“フロー”として定義し、フロー単位できめ細かな経路制御や品質確保などが可能な技術。米国Stanford大学が中心となり設立した「OpenFlowコンソーシアム(http://www.openflowswitch.org/)」が提唱している技術およびインタフェース仕様の総称。NECは設立当初から同コンソーシアムに参加
日立製作所
ットワーク仮想化のためには、専用線やストリーミング配信などサービスの利用目的に応じて、ユーザに提供するネットワークを最適に分けて活用する技術が重要となります。
日立は、本技術を実現するコアルータ試作機開発を担当します。
- ネットワークサービスごとに必要となる回線帯域、遅延、優先制御などのサービスレベルを分離独立する機能
- 最先端のマルチコアネットワークプロセッサを用いたプロトコルフリーなプラットフォーム技術
- 国産製品としては売上第一位の実績(金額ベース)を持つハイエンド商用ルータをベースに上記機能を実装
出典:
IDC Japan, April 2009「国内ルータ市場2008年の分析と2009年~2013年の予測」
IDC Japan, May 2009 「国内イーサネットスイッチ市場2008年の分析と2009-2013の予測」
富士通研究所
富士通研究所および富士通は、一般ユーザからインターネットを経由して本ネットワーク仮想化基盤を利用可能とするアクセス制御機能の研究開発として以下を担当します。
- 各ユーザと複数の仮想化されたネットワーク間で、パケットを適切に転送するためのアクセス制御の基本機能
- 仮想化ネットワーク機能への管理・制御機構の組み込み
用語解説
2002年から米国プリンストン大学を中心に開発と展開が進むオーバーレイネットワーク型の地球規模ネットワーク。本テストベッドを利用したい組織は、自身もそこに機器を提供することで参画・利用可能となる。
インターネット上の複数箇所に分散したサーバをネットワークによる通信を介して統合的に利用することで、低コストで実現できる効率の良いロバストなサービスの総称。例えば、コンテンツ(動画など)の複製を、ユーザに近い場所のサーバから配信するCDN(Content Delivery Network)がある。
利用者のトラフィックを収容して仮想ネットワークに乗り入れさせる機能、もしくは、そのための装置。ユーザや開発者の端末(PCなど)がデータを送るときに、認証や暗号化などを実施する中間機器。
今後新たに出現するであろう、技術的さらには社会的要求に応えられる、現在のインターネット技術に拘らない、新しい概念に基づくネットワーク。顕在化する社会問題を解決し、人や社会の潜在能力を開花させ生活の質や生産性を向上させる新しい価値観を創造することを目指した、未来社会を支えるネットワーク。
2005年に基本設計の検討を開始した米国科学財団(NSF)支援の長期的ネットワークテストベッドプロジェクト。新しいインターネット構成やネットワークサービスの研究開発を促進するため、複数のネットワーク実証実験が同時かつ独立に遂行できるネットワーク共通基盤テストベッドの開発を目指している。現在、30を超える組織が参画し競争的にテストベッド構築が展開中。
Global Environment for Network Innovations
Tel:042-327-6923
Tel:046-240-5157
Tel:03-5471-8900
Tel:03-5841-2695
Tel:03-3798-6511
Tel:03-6252-2174