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多モード光干渉導波型光ラムメモリ素子の開発に成功

従来の10倍の動作電流範囲を達成、実用化へ目処

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2010年3月22日

九州大学(総長:有川節夫)は、独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原秀夫)の委託を受け、世界最高の動作電流範囲を有する光ラムメモリ素子の開発に成功しました。

インターネットのエコ化実現のため期待される全光ルーターの完成には、主要デバイスである光ラムメモリ素子の実用化が不可欠です。光ラムメモリ素子はメモリとして機能させるためには、一定動作範囲内の設定電流駆動を必要としますが、その動作電流範囲は対設定電流比数%程度と極端に狭いという課題があり、このため集積化しても、個々の素子性能等のばらつきから全集積素子を同一電流で駆動できず、実用化の大きな妨げになっていました。

今回発表する光ラムメモリ素子は、世界で初めて九州大学から提案した能動多モード光干渉現象を利用するという新しい動作原理を利用したもので、これにより従来の10倍以上の動作電流範囲を実現し、光ラムメモリ素子の実用化へ大きく前進しました。

本成果は、平成22年3月21日から行われる米国の著名な国際会議OFC(Optical Fiber Communication Conference:光ファイバー通信国際会議)にて発表します。

背景

インターネット等で通信経路の切り替えを行うルーターに起因する消費電力は2015年頃には国内総発電量の9%にも到達すると予測されています。ルーターでは、電力の消費に大きく関与する光と電気信号の相互変換が行われます。国内の情報通信量は年率約40%で増え続けており、インターネットのエコ化のためには、光信号を電気信号に変換することなく、光のまま処理する全光ルーターの実現が期待されています。この実現には、光ランダムアクセスメモリ用の光ラムメモリ素子が必要で、その候補として双安定半導体レーザーなどの双安定デバイスが提案されています。しかしながら、双安定半導体レーザーを光ラムメモリ素子として機能させるためには、一定動作範囲内の設定電流駆動を必要としますが、その動作電流範囲は設定値の数%程度と極端に狭いため、個々の素子性能等のばらつきから集積化時に全素子を同一電流で駆動できず、また素子毎で独立した電流設定は事実上困難であり、実用化の大きな妨げになっていました。

今回の成果

光ラムメモリ素子の動作電流範囲を広げるためには、素子内の相互利得抑制効果を高める必要がありました。九州大学は、半導体レーザー等の能動光導波路中で生じる多モード光干渉現象に着目し、世界で初めて、この応用により異なるモードを同一の双安定半導体レーザーで発振させることに成功しました。これにより、これまでの課題であった、相互利得抑制効果を大きく得ることができる、多モード光干渉導波型光ラムメモリ素子を実現しました。今回の成果で、従来の10倍以上の動作電流範囲(対設定電流比100%以上)を実現したことによって、素子の性能ばらつきや経年劣化が生じても、全集積デバイスを同一電流駆動することが可能となり、光ラムメモリ素子の実用化へ大きく前進する成果が得られました。

今後の展望

今後、今回の成果による広い動作電流範囲を維持しつつ、更に小型化・低消費電力化を進めることで素子の高集積化を進め、数年後の実用化を目指します。

なお、本成果は、平成22年3月21日(日)から米国のサンディエゴで開催されている国際会議OFC(Optical Fiber Communication Conference:光ファイバー通信国際会議)にて、平成22年3月24日(水) (現地時間)に発表します。

補足資料

図1.光ラムメモリの動作を説明する図
図1.光ラムメモリの動作を説明する図
動作電流範囲内にメモリ電流を設定しておくと、メモリOn状態(光出力の高い状態)とメモリOff状態(殆ど光っていない状態)とのどちらも状態としては取りうるので、外部入力(光信号)の有無に応じて、光メモリの状態が切り替わる。
左の図のように動作電流範囲が狭いと、仮に複数のメモリ素子を集積しても、個々の素子特性を予め全て把握したうえで、個々に応じた電流設定をする必要が生じることになってしまう。
これに対し、広い動作電流範囲を有していれば、全ての集積素子を同一電流で駆動することが可能になる。
図2.2ビット集積素子の上面写真と、構造斜視図
図2.2ビット集積素子の上面写真と、構造斜視図
今回の成果により、広い動作電流範囲が実現できたため、集積素子を実現し、同一電流で動作させることができた
図3.光ラムメモリ素子の動作原理を説明する図。
図3.光ラムメモリ素子の動作原理を説明する図。 同一素子内に異なる独立した2つの光経路を作り、光経路1が発光しているときがOn状態。 光経路2が発光しているとき、光経路1は相互利得抑制効果により発光しなくなるため、Off状態となる。 従来方式では同一モードを利用していたため、お互いの光経路が殆ど重なっていない(右図)が、異なるモードを用いることで、お互いの光経路の重なりが大きくなり、相互利得抑制効果が大きくなる。

用語解説

動作電流範囲

光メモリ素子をメモリとして動作させるためには、外部から電流を流す必要がある。一定範囲内の動作電流範囲でないと光メモリ素子は、メモリとして機能しない。この動作電流範囲のこと。

光ラムメモリ素子

光信号を蓄えるための素子。

全光ルーター

光信号を電気信号に変換せずに、そのまま所望の経路切り替えを行う通信機器。信号変換に伴う電力消費が削減される。

能動多モード光干渉現象

光を自ら発光する導波路(能動導波路)で、複数の異なるモードを意図的に発生させたうえで、干渉させることで、特定のモードが生じる現象で、1997年に浜本(現九州大学教授)らによって提案・実証された。この現象に基づき、これまでに低消費電力型半導体レーザー等が発明されている。この現象を利用すると、光ラムメモリ素子中に2つの異なるモードが発振できる状態を作り出すことができる。

光と電気信号の相互変換

光信号(通信信号)を電気信号に変換すること。光電変換。またはその逆の変換。

光信号

電気ではなく、光を使った通信に用いられている信号。光の強弱により情報通信を行うことができる。

光ランダムアクセスメモリ

光信号を任意時間蓄えておくシステム。

相互利得抑制効果

半導体レーザーは通常、利得媒質である能動導波路からの利得を得てレーザー発振に至る。従って双安定半導体レーザー型の光ラムメモリ素子では、一方の経路(これを経路1と呼ぶ)でレーザー発振状態になると、他方の経路(これを経路2と呼ぶ)の利得が抑制されることになり、その経路の発振を停止させることができる。これまでは、光ラムメモリ素子内の光経路を交差させ、同じモード間での相互利得抑制効果を利用していたので、交差領域が狭く、相互利得抑制効果を大きくすることが難しかった。

なお、どちらの経路が優勢になるかどうかは、外部からの入力光(ビット信号)が入った時に決まるので、例えば経路1にビット信号が入力された場合には、経路1が発振状態になるため、光ラムメモリ素子内にビット信号を蓄えたことになる。

モード

導波する光の形態のこと。例えば多モード光ファイバーに導波する光を光ファイバーの断面で見たときに、中央部付近に1つのみ光強度が強いモード(基本モード)もあれば、断面中に2つ以上の光強度が強いモード(高次モード)もある。

課題

特に双安定半導体レーザーを光ラムメモリ素子として機能させるためには、一定動作範囲内の設定電流駆動を必要としますが、その動作電流範囲は設定値の数%程度と極端に狭いという課題があり、このため仮に集積化しても、個々の素子性能のばらつき等から全集積素子を同一電流で駆動できず、また個々の素子特性を事前に全て把握したうえで1個ごと個別に電流設定するのは事実上困難であり、実用化にとっては大きな妨げになっていました。動作電流範囲を大きくするためには、素子内の相互利得抑制効果を高める必要があり、これまでに導波型構造が提案されていましたが、それでも十分な相互利得抑制効果を実現する構造実現が難しく、また、実際に集積素子が実現された例も殆どありません。

今回開発に成功した光ラムメモリ素子は、能動多モード光干渉現象により、双安定半導体レーザー内で異なるモード間の相互利得抑制効果を利用する新しい動作原理を実現したもので、世界で初めて九州大学から提案されました。通常、同一モード間での相互利得抑制効果は、最大でも50-60%程度しか相互利得抑制効果が得られません。仮に、異なるモード間の相互利得抑制効果を使うことができれば、同一光経路を異なるモードで共有することが可能となるため、原理的には90%以上の相互利得抑制効果が得られることになります。しかしこれまで、異なるモードを同一の双安定半導体レーザーで発振させることは難しいと考えられていました。

<本件に関する 問い合わせ先>
国立大学法人 九州大学大学院総合理工学研究院
光エレクトロニクス研究室
教授 浜本 貴一

Tel:092-583-7604
E-mail:

<広報 問い合わせ先>
国立大学法人 九州大学広報室
担当 福島

Tel:092-642-2106
E-mail:

独立行政法人 情報通信研究機構総合企画部 広報室
担当 廣田 幸子

Tel:042-327-6923
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