光ネットワークを活用した多くのサービスでは、将来に向けてさらに多様化・高度化が期待されています。また長距離通信が主であった光ネットワークを、より短距離(ショートリーチ)でも活用する試みも始まっています。このような多くのサービス需要を支えるためのインフラ整備として、光ネットワークの大容量化が重要な課題です。現在の光ファイバ通信では光信号の減衰や歪みの少ない特定の波長帯域のみが主に利用されており、更なる大容量通信を実現するためには、これまで利用されていなかった新しい波長帯域を開拓する必要があります。
独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)と青山学院大学(学長:伊藤 定良)は共同で、従来利用されていなかった新波長帯の光伝送システムの動作実証に成功しました。現在、光通信に利用されている波長帯域の信号と、利用されていない波長帯域の信号を同時に1本の光ファイバで伝える光伝送システムを構築し、世界最長級の光伝送距離で動作を実証しました。本技術は、光通信の周波数帯域の拡大に貢献し、大容量で自由度の高い光通信ネットワーク構築や、新波長帯域用の光ICTデバイス分野の新市場が期待されます。
これまでにNICTと青山学院大学は、光通信に利用可能な光周波数帯域の資源拡大を目的として、量子ドット光デバイスや微細構造光ファイバなどの先進的光ICTデバイス、それらを組み合わせた光伝送システム構築と高度化に関する研究を世界に先駆け実施してきました。
今回、従来使用されていた波長帯域のCバンド、Lバンドに加え、新波長帯域のTバンド(波長1ミクロン帯)(図1)を、同時に光通信ネットワークに利用するため、T、C及びLバンドを含む広帯域光信号が伝送できるように最適化された光ICTデバイスを開発し、それらと低損失広帯域微細構造光ファイバを用いた超広帯域光伝送システム(図2)を構築しました。
同システムを用いた光伝送実験では、超広帯域光伝送として過去の実証例としては世界最長級となる5kmを超える距離で、データ劣化のない伝送が成功しました(図3)。
今後さらなる光周波数帯域開拓・拡大を目指し、本技術開発により将来10倍近い光周波数帯域開拓・拡大が期待できることから、広波長域の光をより便利に、有効に活用するための光ICTデバイス開発とそのシステム応用の研究開発を推進します。
なお、本成果の詳細は、2010年3月に開催されるOptical Fiber Communication Conference(OFC2010)にて発表を予定しています。また関連技術の内容は1月28日のPhotonics West 2010にて発表されました。
補足資料
用語解説
量子ドットとは半導体で形成されるナノメートルスケールの微小な粒状構造です。これを光デバイスの利得媒質などに用いることによって、従来困難であった長波長・広帯域動作が可能となります。また、この量子ドット光デバイスは低消費電力化などの低環境負荷・グリーン技術としても期待されています。
光の伝搬するコア領域近傍に規則的、周期的な空孔を開けた構造の光ファイバです。従来の光ファイバよりも広波長帯域の光が伝搬可能で、折り曲げに強いなどの配線自由度も特徴としています。ホーリーファイバーが代表的構造です。
今回、超広帯域光伝送システムのための波長帯域として新たに導入しました。NICTでは波長1ミクロン帯をT-バンド(Thousand-band)と称して波長1.03ミクロンから1.26ミクロンの範囲の光情報通信利用を検討しています。この波長帯では広帯域Ybドープ光ファイバアンプ、面発光レーザ、半導体量子ドット光デバイス、シリコン系フォトディテクタなどの高性能・高機能光デバイスに関する研究開発および市場投入検討が盛んに行われています。
本件に関する 問い合わせ先
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理工学部電気電子工学科
准教授 外林 秀之
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