現在のパケットネットワーク上では、ユーザやアプリケーションが1波長をパケット単位にタイムシェアしており、要所の中継ノードでは、波長毎に光電気変換して、パケットを電気処理しています。これは、電子メールやWebなど、細かなデータの流れ(フロー)を、パケット単位に束ねて効率的に運ぶのに適した方式です。しかし、今後、映像系のトラヒックが主流となり、フローの帯域や継続時間が増え続けると、帯域が逼迫するため、ユーザやアプリケーションが複数の波長を波長単位にタイムシェアし、ユーザとサーバを波長の束で結んで、中継ノードでは電気処理をしないネットワーク構成が必須となります。(図1)
日本電信電話株式会社(略称:NTT)、日本電気株式会社(略称:NEC)、NTTコミュニケーションズ株式会社(略称:NTT Com)は、独立行政法人情報通信研究機構(略称:NICT)の委託研究により、複数波長を自在に束ねることで、現在のパケットネットワークの40倍(毎秒40ギガビット)のアクセス速度で大容量広域ネットワークをオンデマンド利用できる技術を開発し、NICTの実験環境(JGN2plus光ファイバテストベッド)を用いて、大容量映像データを瞬時配信(1秒で1映画本分)する実証実験に成功しました。また、NTTは、 100/40ギガビットEthernetを広域光転送網OTNで運ぶ「100GE/40GE over OTN」を国際標準化し、OTNフレームを並列展開して波長の束で運ぶ新技術を世界で初めて実証しました。
これらの成果は、高精細な映像通信や大容量のファイル交換もストレスなく行える夢の広域LAN環境を、「ネットワーク帯域を波長単位にタイムシェア」という新パラダイムで実現するための第一歩です。
なお、本開発技術は、2009年12月10日(木)、11日(金)に静岡県三島市で開催される「光通信システムシンポジウム」にて展示する予定です。
10Gbpsを超える速度でユーザが広域ネットワークにアクセスしてオンデマンドに利用するためのパケット送受信技術を開発し、自動経路制御や光スイッチノード技術と組み合わせて、ユーザあたり40Gbps級の広域LAN環境の実証に成功しました。また、NTTは、100GEや40GEを広域光転送する方式の国際標準化を推進し、新標準技術を世界に先駆けて実証しました。これらの成果は以下の通りです。(図2)
40GEや100GE技術は、2015~2020年には、端末インタフェースとして普及し始めると想定され、広域網でも「波長単位にタイムシェア」という新パラダイムの開拓が期待されています。高精細映像や大容量ファイルも瞬時に共有できる遠隔協調環境を実現し、学術・教育・医療・文化など幅広い分野への適用を目指して、今回の実証成果に加えて、今後も、40~100Gbps級の高速大容量サーバ技術、100Gbps級のパケット処理技術、波長あたり100Gbpsに高速化して遠方まで中継伝送する技術、100Tbps級のスイッチ容量を実現する技術などの研究開発や、それらを連携させたスループットがテラビット級の広域LAN環境「テラビットLAN」の実証実験を進めていきます。
補足説明
アプリケーションが必要とする帯域やネットワーク側の事情に応じて、並列数を自在に変更できる技術を開発しました。同じデータフローもパケット毎に別の波長に振り分けるため、波長毎に経路や通過ノードが異なると、ファイバ伝播遅延やパケットノードでの遅延揺らぎ(ジッタ)でパケット順序が入れ替わる可能性があります。このため、送信端のネットワーク・インタフェース・カード(以下、NIC)でパケット毎にタイムスタンプを付与し、受信端のNICではこのタイムスタンプに基づいてパケット順を正しく復元します。パケット網経由での網クロック配信によりNICでの時刻精度を常時数μ秒以内に保ち、End to End でのジッタをほぼ完全に抑圧した高品質な大容量転送を実現します。(図3) NTTは、これらの技術を40Gbps級NICプロトタイプに実装し、10Gbpsを超えるパケットフローを、 2~4波(1波あたり最大10Gbps)に振り分けて送受信できることを実証しました。
NECが開発したマルチドメイン自動経路制御技術は、複数ドメインからなるネットワークにおいて、異なるドメインにまたがる最適経路を複数のサーバが連携して計算し、大規模光ネットワークでの最適経路の制御や設定の自動化を実現します。また、NTTが開発した多階層光スイッチノード技術は、光ファイバで伝送される信号を、波長・波長の束・光ファイバ(多数の波長束を収容)という3種類の異なる単位(階層)で、効率的に編集・スイッチングします。
今回、NTT Comは、送信端と受信端において複数の波長パスを1本に集約することにより大容量リンクの生成を実現する波長パスアグリゲーション技術を開発しました。(図4)
自動経路制御を行うゲートウェイ(GW)と相互接続することにより、広域ネットワーク越しに大容量リンクをユーザがオンデマンドに設定可能で、容量も柔軟に変更できることを実証しました。
NTTは、100GEおよび40GEを広域光転送する「100GE/40GE over OTN」の標準化を推進し、100GE(もしくは10チャネルの10GE)をそのまま運ぶ新しい100Gパス単位ODU4、及び、40GEを符号変換して既存の40Gパス単位ODU3で運ぶ方式の国際標準化に成功しました。
また、新たに勧告されたITU-T G.709 修正3版には、ユニット(固定長のフレーム)を1波長で送る従来方式に加えて、複数レーンに並列展開して波長の束として送る方式も追加されました。NTTは、40GEを符号変換してODU3に収容し、これを4波に並列展開して転送する新標準機能の実証に、世界で初めて成功しました。 100Gbps級NICプロトタイプに40GEトランスポンダ(信号変換トランシーバ)機能を実装し、負荷試験装置からの40GEフルレートトラヒックを入力して、符号変換・ODU3収容・4波並列展開の各機能を、ファイバ折返しで検証しエラーフリー動作を確認しました。(図5)
上記技術を組み合わせて、20~40Gbps(2~4波)での通信をユーザ主導で実現する広域LAN環境「テラビットLAN」の連携動作を確認しました。(図6) 実証実験は、NICTのJGN2plus光ファイバテストベッド(小金井~大手町間 4芯 各50km)に、NTTの40Gbps級NICと多階層光スイッチ、NECのゲートウェイを接続して行いました。映像配信アプリケーションでは、オンデマンドにユーザが2波長(20Gbps相当)を確保し、ハイビジョン映像の4倍の解像度と2倍の時間分解能を持つ4K(60P)超高精細映像の非圧縮パケットストリーム(13Gbps)を受信することに成功しました。(図7a) また、データ転送アプリケーションでは、DVD5枚分に相当する22ギガバイト(22GB)の超高精細な航空写真の瞬時転送を実現しました。現在のギガビットクラスのパケットネットワークで転送すると3分程度を要するものが、オンデマンドに4波長(40Gbps相当)を確保し占有することで、わずか5秒弱(1/40の所要時間)で一括転送できることを確認しました。(図7b,7c)
補足資料
用語解説
NICTが運用する超高速・高機能研究開発テストベッドネットワーク。
JGN(Japan Gigabit Network)からJGN2へと発展し、NICTが2008年4月からJGN2plusとして運営しているオープンな研究用の超高速・高機能研究開発テストベッドネットワークです。全国59のアクセスポイントのほか、米国、タイ、シンガポールなどへの超高速ネットワーク実験環境を提供しています。
米国電気電子学会(IEEE)802標準委員会が2010年6月に標準化。並列伝送方式を採用し、10波(短距離)もしくは4波(中長距離)を固定的に占有して通信する。
光ファイバを利用して、100Gb/sの伝送速度を実現する国際標準のイーサネット伝送方式。2010年6月に予定されている国際標準策定に向けて、25Gb/sの光信号を4多重して1本の光ファイバで伝送する方式、 10Gb/sの電気信号を10本並列に伝送する方式など、複数方式の標準化が進められている。電気信号の送受信を行うトランシーバ回路には、10Gb/s での伝送を補償するために、これを上回る伝送性能が必要とされる。
世界最高速の軟判定速度(毎秒32ギガサンプル)を、最先端プロセスによる1チップLSI化により達成。
イーサネットなどのクライアント信号をユニット(固定長のフレーム)に収容し、波長多重技術を用いて広域網で中継伝送する仕組み。 日本の貢献により、国際電気通信連合 テレコム標準化部門(ITU-T )の勧告G.709 として2001年に標準化された。
NTTなど日本からの提案に沿って、G.709 修正3版(2009年4月発効)に100GE/40GEを収容する基本仕様が追加された。けいはんな情報通信オープンラボ研究推進協議会の相互接続性検証WGでの国内議論も反映。なお、これらの100GEおよび40GEに関わる成果の一部は、それぞれ、NICT委託研究「ユニバーサルリンク技術の研究開発」および「λアクセス技術の研究開発」による。
標準SNTPプロトコルをハードウェア処理するNTT技術を利用。従来のソフトウェア処理に比べ1,000倍以上も高精度で、非同期IPネットワーク経由でも同期ネットワーク並(~数μ秒)の同期精度を実現可能。
波長スイッチ、波長群スイッチ、ファイバスイッチを一つのノードに組み合わせ、小型・低消費電力で動作する構成になっており、総容量10Tbpsの光スイッチングに成功している。
超高速かつ大容量な光ネットワークの運用を自動化する技術(GMPLS)を利用し、数千台のネットワーク機器で構成される大規模ネットワークに対応可能。
波長スイッチ、波長群スイッチ、ファイバスイッチを一つのノードに組み合わせ、小型・低消費電力で動作する構成になっており、総容量10Tbpsの光スイッチングに成功している。
LANから広域網への出入り口(ゲートウェイ)。実証実験に際しては、NECの再構成可能な光分岐挿入スイッチ(ROADM)と「λユーティリティ技術の研究開発」で開発した制御機能とを組み合わせて構成。
64B/66B符号を用いてブロック符号化されている40GE信号(41.25Gbps)を、ビット誤り耐性を維持しつつ、極限まで符号冗長度を圧縮した1024B/1027B符号に変換して、ビットレートを40.12Gbpsまで下げる技術。これにより、既存の40Gパス単位ODU3のペイロード(40.15Gbps)に収めて運ぶことができる。NTTが提案し、ITU-T勧告G.709 修正3版 に40GEをOTNで運ぶ方式として国際標準化された。
OTNの固定長フレームを、16バイト単位に別々の波に振り分ける。ITU-T勧告G.709 修正3版で規格が追加された。受信側では、ユニットのヘッダ部分で振分け順を識別し、伝播遅延の違い(スキュー)も補正する。振分け数は固定的で、100Gの場合は20波、40Gの場合は4波。並列伝送を採用する100GEや40GEと同じ光モジュールが利用できるので、クライアント側OTNインタフェースの低コスト化が期待される。
NICT委託研究「λアクセス技術の研究開発」においてNTTとNECが協力して開発した研究成果。
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