今回お知らせした観測例は、データの品質の検証を行う前のものです。JAXA とNICT は今後も引き続き初期機能確認を行なった後、地上観測データや既存の人工衛星観測データとの比較などによるデータの精度確認及びデータ補正等の初期校正検証作業を実施し、順次、オゾン層の観測データを公開してゆく予定です。
国際宇宙ステーションの「きぼう」日本実験棟船外実験プラットフォームに設置された超伝導サブミリ波リム放射サウンダ (SMILES) が初の観測データを取得しました。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)と情報通信研究機構(NICT)が共同開発したSMILESは、機械式 4K 冷凍機を宇宙機器としては世界に先駆けて搭載し、絶対温度4K (-269℃) に冷却した超伝導検出器によってこれまでにない高精度の大気観測を開始しています。これまで順調にSMILES各機器の初期機能確認を進めており、冷凍機及び検出器など装置の状態は正常であることがわかっています。
下記の図は、10月12日 (日本時間) にSMILESで観測した、高度28kmにおけるオゾン (O3) の観測データ (濃度) を地球全体に表示したものです。[濃度単位:ppmv (100万分の1)]
この図からは赤道域でオゾンが多いことがわかります。これは、成層圏オゾンの地球全体にわたる特性を表わしており、これまでの観測例が示す特性と一致しています。
SMILES は、JEM 曝露部ミッションとして選定されてから13 年経ち、ようやくISSに搭載され、観測を開始することができた。ここまでに至る関係者の努力に感謝したい。
日本ではしばらく途絶えていた高層大気に関する観測を再開することになる。
オゾン層問題のみならず、大気質変動の問題に対して、大きな成果が出てくることを期待している。
別紙
10月12日のSMILES観測データから得られた、高度28kmにおけるオゾンの地球全体にわたる分布。 赤道域でオゾンが多く、高緯度になるに従って少なくなるような分布がみられることがわかります。
10月12日のSMILES観測データを用い、南半球から北半球にかけて (南緯 38 度から北緯 65 度まで) のオゾンの高度分布を表わしたものです。[濃度単位: ppmv (100万分の1) ]
高度 30km 付近でオゾンがもっとも多くなっている (赤~ピンク色の部分) ことが示されており、オゾン層の存在が SMILES の観測で明確に捉えられていることがわかります。
SMILES は、機械式冷凍機によって絶対温度 4K (-269℃) に冷却した超伝導ミクサを使用した検出器により、大気分子の放出する微弱なサブミリ波を計測する地球大気観測センサです。検出器を極低温にまで冷却することで測定ノイズを極限まで抑え、装置の測定性能を向上させています。同じ測定原理を採っている既存の衛星観測センサと比べて、一桁以上 高い観測性能を発揮することや、従来は測定が困難とされていた分子種の、より精密な観測を行うことが期待されています。
現在 実施中の初期機能確認を行なったあと、定常観測に移行する予定です。定常観測においては、宇宙ステーションの 1 周回あたり約 100 点、1日あたりでは約 1600 点 (ただし、宇宙ステーションの運用制約が全くない場合) の観測データを取得する見込みです。
観測データを処理することで、オゾンをはじめとした 10 種類ほどの大気微量分子の分布を捉え、様々な地球大気科学の解明に貢献することが期待できます。
SMILES の観測により研究を進めるべき地球大気科学の課題としては、無機塩素化学 (大気オゾンの変動を捉えるための ClO / HCl 比率・HOCl 生成量、従来は観測が困難であった塩素化合物の背景値を把握するための ClO 分布観測など) 、臭素収支 (成層圏オゾンの回復期における化学反応で重要な鍵となる)、人工衛星等で観測した成層圏・中間圏 HOx の数密度が大気の光化学モデルによって再現できない問題への寄与などが挙げられ、オゾン化学を中心とした成層圏化学に重点をおいています。いわゆる「オゾン層問題」への取り組みが多くを占めています。
回復に向かっているといわれるオゾン層の動向予測については、諸説が分かれている状況です。また、オゾン層の増減と温暖化の関係は相互に影響しあっていると考えられることから、オゾン層破壊や温暖化といった要素を個別の環境問題として捉えるだけでなく、全体として総合的に地球大気を考えていくことが重要です。 従って、地球大気に関わる諸問題の解明に貢献する意味で、SMILES の観測は有意義なものとなっています。
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