量子暗号通信は、量子コンピューターをはじめ、高性能なコンピューターが将来開発されたとしても、絶対に盗聴を許さないとされます。しかし、現状では、最大でも200km程度の伝送距離しかカバーできません。より長距離で、さらに地球規模の1,000km~10,000kmの量子暗号通信網を実現するためには、量子中継という技術を用いることが不可欠です。
そのような量子中継システムを構築するためには、長いコヒーレンス時間を持って、量子情報を保存できる量子メモリーの開発が不可欠ですが、既に、NII研究グループは、量子メモリーとして十分な性能を有する半導体原子核スピン(29Si同位体)を開発しています(室温でも1秒から30秒という極めて長いコヒーレンス時間を持ちます)。半導体原子核スピンは、光と直接結合せず、光ファイバー通信網に接続しないため、量子メモリーと光信号間の量子情報の転写は、29Si同位体にトラップされた電子を介して行いますが、そのためには、電子スピン自体のコヒーレンス時間が少なくとも1マイクロ秒よりも十分に長いことが要求されます。しかしながら、従来の電子スピンのコヒーレンス時間は、この期待値よりも3桁余りも短い1ナノ秒のオーダーでした。