テラヘルツ波は、可視光・赤外線と電波の中間に位置する電磁波で、計測や通信等における新たな利用技術の研究が進められています。テラヘルツ波を用いた画像計測は、X線よりも安全な検査装置として、また次世代の材料分光分析技術として注目されています。しかし、これまで光源やセンサといったテラヘルツ要素技術は発展途上にあり、テラヘルツカメラはレーザーのような高輝度の光源を検出することはできましたが、本質的に感度が低く、レーザー光源と組み合わせたテラヘルツ計測装置は大型で用途に限りがありました。このため高感度非冷却テラヘルツアレイセンサ、テラヘルツ用光学系及び画像信号処理の技術を開発することが課題となっていました。
日本電気株式会社(以下「NEC」という。代表取締役 執行役員社長:矢野 薫)は、このたび、独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)の委託研究「ICTによる安全・安心を実現するためのテラヘルツ波技術の研究開発」を受け、従来のものより2桁以上高感度なハンディ型実時間非冷却テラヘルツカメラの開発に世界で初めて成功しました。このカメラと小型のテラヘルツ光源を組み合わせてポータブルなテラヘルツ計測装置にすることが可能になり、広い分野における新たな応用が期待されています。
NECは、従来から開発していた高感度非冷却テラヘルツアレイセンサに加え、テラヘルツ光学系用に特殊な薄肉レンズを開発し、非冷却テラヘルツアレイセンサを封入した真空パッケージをテラヘルツカメラに内蔵させること、同時にテラヘルツ用積分機能(画素積分、フレーム積分)を追加開発して、60Hzのフレームレートで様々なサンプルの実時間画像を取得できるハンディな実時間高感度テラヘルツカメラの開発に成功しました(図1)。さらに、光源とカメラを組み合わせた従来のテラヘルツ計測装置は事務机ほどの大きさでしたが、小型量子カスケードレーザー光源と組み合わせることにより、ポータブルなテラヘルツ計測装置にすることが可能になりました(図2)。
今後は、NICT自主研究の成果である量子カスケードレーザー等の光源とテラヘルツカメラを組み合わせて、防災応用、半導体材料、複合材料及び文化財などの非破壊検査の分野、また従来、酵素等の添加による発色や発光のような可視化手法を利用したタンパク質など生体物質の計測技術への応用、血液検査での利用、創薬等ライフサイエンス分野などのキーとなる用途を開拓していきます。また、NECは今回開発したハンディな高感度実時間非冷却テラヘルツカメラの製品化を予定しています。
なお、本成果は、平成21年6月20日(土)~21日(日)に国立京都国際会館で開催される第8回産学官連携推進会議において発表されます。
補足資料
用語解説
概ね0.1THz~10THzの周波数帯の電磁波を示します。その波長は3mm~30μmであって電波と光の境界に位置します。テラヘルツは1秒間に1兆回振動する波の周波数、10の12乗ヘルツ(1012Hz)で、THzと記述します。英語では、terahertz(“tera”は10の12乗を表す英語の接頭辞)と書きます。
テラヘルツ波は紙・プラスティック・繊維等を透過し、また、物質固有の吸収スペクトルがテラヘルツ領域にあるため、X線よりも安全な検査装置として、また、次世代の材料分光分析技術として注目されていますが、これまで未開拓周波数帯の電磁波と呼ばれ、光源やセンサといった要素技術の確立は他の周波数帯の技術に比べて遅れていて発展途上にありました。
物質に光などの電磁波をあてて、その反射や吸収の特性(応答)を測定する方法を分光と言います。その応答(スペクトル)は、物質固有のパターンと物質量に比例したピーク強度を示すため、物質の定性分析あるいは定量分析から天文学まで広く応用され利用されています。テラヘルツ領域では光より波長が長く、分子そのものの動きに応じたスペクトルが得られると考えられています。
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