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世界初のコグニティブ無線規格(IEEE 1900.4)準拠のモバイル無線ルータ

~ 周囲の電波利用状況に応じて、端末に適切なモバイル接続環境を提供 ~

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2009年3月3日

独立行政法人情報通信研究機構(以下「NICT」という。理事長:宮原 秀夫)は、IEEE 1900.4仕様に準拠したモバイル向けの無線ルータ(以下、「モバイル無線ルータ」という。)を開発しました。モバイル無線ルータは、電波利用状況及びネットワークマネージャの支援情報に基づき、接続可能な複数の無線アクセス方式の中から最適なものを自動的に選択し、インターネットに接続します。一方で、端末に対しては無線LANアクセスポイントとして動作し、インターネット接続環境を提供します。

背景

NICTは、利用者周辺の電波利用状況に応じた無線アクセスネットワークを選択するコグニティブ無線クラウドという技術を研究開発してきました。これは、現在の逼迫した電波利用状況の中、電波資源をより有効かつ効率的に活用して、通信の容量と品質の向上に資することを目的としています。今回開発したモバイル無線ルータは、策定されたIEEE 1900.4仕様とNICTのコグニティブ無線クラウド技術を融合・発展させて実現したものです。

今回の成果

モバイル無線ルータは、IEEE 1900.4仕様に準拠し、インターネットに接続するための複数の無線システムに対応し、一方で端末に対してはアクセスポイントとして振る舞い、複数の端末を収容するローカルエリア無線ネットワークとインターネットとの間をNATにより中継するものです。利用者が優先使用したい無線システムやその認証情報をあらかじめモバイル無線ルータに設定することにより、最適な無線システムに自動的に接続が切り替わります。モバイル無線ルータは、ネットワーク上に設置したネットワーク無線資源マネージャとメッセージを交換し、そこで分析された通信品質情報を利用して、無線利用状況に応じた適切な外部ネットワークを決定する機能を持っています。

今後の展望

無線アクセス事業者(MVNO:Mobile Virtual Network Operatorを含む)が実際に提供を行っているサービスにおいて、モバイル無線ルータの有効な利用方法を検討したいと考えています。新世代ネットワークアーキテクチャにおいても、無線リソースの管理・有効利用の手法としての利用が期待されています。

(注-1) 2009年3月4日(水)~6日(金)に、横須賀リサーチパークにおいて、実証実験を行います。詳細は、添付の補足資料をご覧ください。

(注-2) モバイル無線ルータは、総務省から委託された「異種無線システム協調制御による周波数有効利用技術の研究開発」により開発されたものです。。

用語解説

IEEE 1900.4仕様

IEEE 1900.4仕様は、複数の無線アクセス技術が存在する環境において、無線システム全体の収容能力とサービス品質を向上させることを目的とした仕様であり、IEEE SCC41のP1900.4ワーキンググループにおいて議論されています。

IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers)は、米国の電気・電子分野における学会です。当該分野の国際会議の主催や論文誌の発行、技術標準の策定などを行っています。SCC41(Standards Coordinating Committee 41)は、ダイナミックスペクトラムアクセスネットワークを実現するために必要となる要素技術の標準仕様を策定することを目的に、IEEEの下に作られた標準化委員会です。なお、設立当初はP1900と呼ばれていましたが、SCC41として組織が再編成され、現在に至っています。SCC41には、前述のP1900.4ワーキンググループのほか、用語の定義を策定するP1900.1、干渉の定義や無線の共存方式を策定するP1900.2、無線センシングのインターフェイスを策定するP1900.6などのワーキンググループがあります。

NAT(Network Address Translation)

外部ネットワークと内部ネットワークで異なる体系のIPアドレスを使用し、外部に接続するときには、内部IPアドレスを外部IPアドレスに変換する機能のことです。NAT機能は、限られたグローバルIPアドレスの割り当ての下で、より多くの機器をインターネットに接続することを可能にするものであり、最近では家庭や企業のインターネット接続機器にも組み込まれています。



本件に関する 問い合わせ先

 

新世代ワイヤレス研究センター
ユビキタスモバイルグループ
原田 博司、石津 健太郎
Tel:046-847-5098
Fax:046-847-5110
E-mail:
E-mail:

広報 問い合わせ先

  

総合企画部 広報室
報道担当 廣田 幸子
Tel:042-327-6923
Fax:042-327-7587
E-mail:

補足資料

開発の背景

現在の逼迫した電波利用状況の中、より高速・大容量で高品質な無線通信を可能とするために、電波資源をより有効かつ効率的に活用することが求められています。その実現のために、商用化をにらんだコグニティブ無線技術の研究開発が世界的に進められています。また、NICTが研究・開発を進めている新世代ネットワークアーキテクチャにおいても、無線リソースの管理・有効利用の手法の検討がすすめられています。このような状況の中、NICTが取り組んできたIEEE 1900.4標準は、2009年2月を持って仕様の策定が完了しました。

NICTでは、策定されたIEEE 1900.4仕様を研究開発中のコグニティブ無線クラウド技術と融合させ、IEEE 1900.4仕様に準拠した世界初のモバイル無線ルータを開発しました。コグニティブ無線クラウド技術とは、利用者周辺の電波利用状況に応じて無線アクセスネットワークを選択するために、NICTが研究開発を行っている技術です。

開発したモバイル無線ルータについて

1. 概要

モバイル無線ルータは、インターネットへの接続手段(無線LANやPHSなど)を複数持ち、一方で周辺の端末には無線LANのアクセスポイントとして動作します。端末に対しては、インターネットへの接続をNATにより中継します。したがって、モバイル無線ルータが接続している接続手段にかかわらず、端末は無線LANを使ってインターネットに接続できます。
利用者が優先使用したいインターネット接続手段や認証情報をモバイル無線ルータにあらかじめ設定しておけば、周囲の無線利用状況に応じた最適な無線アクセスネットワークに自動的に切り替わります。これは、モバイル無線ルータがアクセスポイント(または、基地局)の電波強度を常に測定し、それらの設定に応じて、電波環境に応じた最適な接続手段を常に選択しているからです。さらに、モバイル無線ルータは、ネットワーク上に設置したネットワーク無線資源マネージャ(以下、「マネージャ」という。)との間でIEEE 1900.4仕様に準拠したシグナリングメッセージを交換します。マネージャは、各無線システムの通信速度や遅延について端末が取得した測定値を収集し、その情報から無線ネットワークやアクセスポイントに関する特徴を抽出して端末にフィードバックすることにより、端末が無線ネットワークを選択するための判断材料の一つとなります。このフィードバックされる情報は端末が自ら測定することだけでは知りえない情報であるため、マネージャにより端末の無線ネットワークへの接続をより適切に行い、無線資源全体の有効活用にもつながります。このように、端末は、自らの測定情報とマネージャから得た情報の2つの情報に基づいて、新たに接続するべき無線ネットワークとそのタイミングを決定します。なお、マネージャは各無線ネットワークの機器とは物理的に独立しており、それらの間で直接通信を行うこともないため、マネージャの機能を提供したい個人や組織が自由にインターネット上に設置することができます。
モバイル無線ルータは電波利用環境の変化に応じて接続環境を、自動的に選択するので、移動しながらの利用にも適しています。モバイル無線ルータをカバン等に入れて持ち歩けば、無線LANのインターネット接続環境そのものを利用者が持ち歩くことができます。無線LANしか接続の手段を持たない通信端末の場合、従来では無線LANのサービスエリアでなければインターネットに接続することができませんでしたが、モバイル無線ルータにより、いつでもどこでも無線LANを経由してインターネット接続が可能になります。モバイル無線ルータは、内蔵バッテリにより動作し、選択する接続手段にも依りますが、3時間以上の連続動作が可能です。
モバイル無線ルータには、インターネット接続用の通信デバイスとして、無線LANが内蔵されている他、オプションとして、商用販売されているUSB型及びCFカード型通信デバイス(HSDPA:High Speed Down Link Packet Access, PHS:Personal Handyphone System等)を利用することができます。無線LANは各種ホットスポットへの接続に対応しているほか、オプションのデバイスとしてイー・モバイル株式会社のD12LC、株式会社ウィルコムのAX420Nなどでの動作を現在確認しています。対応する通信デバイスは、組み込んでいるドライバの種類に依存しますが、ドライバを拡充することにより新しい通信デバイスにも対応していくことができます。

概要図

2. モバイル無線ルータの概観と設定画面

外観写真です。

モバイル無線ルータに接続する端末に提供するLANの設定を行います。

使用するネットワークプロトコルに対して、利用者が優先度を設定することができます。
現在、無線LAN、EMOBILE、Willcomに対応しており、それぞれの接続設定を行うことができます。

 

2. モバイル無線ルータの概観と設定画面

ネットワーク無線資源マネージャの管理画面です。特定の無線LANアクセスポイントに関する統計的な品質情報や接続数等を表示することができます。また、特定のアクセスポイントにいくつかの属性を設定して、端末に付加的な情報を提供することができます。

特定の端末のグループについて、無線システムの種類(無線LANやPHS)や事業者などの様々な観点から端末の接続を分類して、表示することができます。これにより、特定の地域における無線システムの利用方法に偏りを発見したり、アプリケーションの特性に適合すると考えられる無線システムを端末に推薦したりできます。この結果、周波数を有効に利用して、利用者をより満足させることができます。
IEEE 1900.4仕様

IEEE P1900.4仕様で定義されている基本アーキテクチャを図に示します。大きく分類して、コアネットワーク、無線アクセスネットワーク、端末、の3つの部分から構成されます。本仕様では、コアネットワーク部分にOSMとNRM、無線アクセスネットワーク部分にRRCとRMC、端末部分にTRMとTRC、及びTMCを定義し、それらの機能とインターフェイスを定義しています。

コグニティブ無線クラウド技術

コグニティブ無線クラウド(CWC:Cognitive Wireless Clouds)技術は、NICTが2007年から開発をしている技術であり、利用者の好み(ユーザプリファレンス)に応じて、特性が異なる複数の無線システムの設定や切り替えを、端末が自律分散的に行うための無線ネットワークアーキテクチャ技術です。これにより、規模適応性に優れたネットワークの制御と最適化を行い、必要に応じて使用されていない無線資源を最大限に利用し、周波数の利用効率を向上させます。また、複数の無線リンクの帯域を統合して通信を行うことにより、細切れになって単体では使用されていない無線帯域を統合して利用し、あるいは、積極的に複数のオペレータにまたがった運用を行うことにより、広帯域で安定性のある通信を端末に提供するものです。

実証実験の開催について

2009年3月4日(水)から6日(金)までの期間、横須賀リサーチパーク(YRP)において、移動通信ワークショップが開催されます(詳細はhttp://www.ieice.or.jp/cs/sr/jpn/ を参照)。この機会を利用させて頂き、NICTはモバイル無線ルータの実証実験を下記のとおり実施します。

日時 : 2009年3月4日(水) ~ 6日(金) 9:00~18:00
場所 : 神奈川県横須賀市光の丘3-4 YRP 1番館 1Fロビー


この実証実験では、モバイル無線ルータを利用して、来場者の皆様のパソコンにインターネット接続環境をご提供いたします。会場には複数のモバイル無線ルータを設置して、それぞれ異なる経路でインターネットに接続した状態にします。また、ネットワーク無線資源マネージャのディスプレイを設置して、皆さまの接続状態を表示します。

 詳しくは、会場で配布する実証実験の案内をご覧ください。
以上